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 『未来予想図』  景時×望美編 ⇒リズヴァーン







「かあさまぁ!リズ先生がかわいいって」
 梶原邸の庭を駆けて来るのは、愛娘の沙羅。
「よかったね〜、沙羅。お父様も褒めてくれたでしょ?」
 新しい着物が嬉しい沙羅は、梶原邸を訪れる客人に必ずその姿を見せている。
「うん!明日も誰かくる〜?」
「どうかな〜?誰か見せたい人がいるの?」
 望美が屈んで沙羅を抱き上げると、見覚えのある顔が庭を横切ってくる。

「久しいな、神子。息災か?」
「こんにちは、先生。元気ですよ〜!ほら!」
 沙羅を抱き上げて微笑みかけると、微かに師の目元が弓形になる。
 今まではしゃいでいた沙羅が、くるりと顔を背けた。

「あれれ?沙羅?どうしたの?急にぃ・・・・・・」
 望美にしがみついて顔を見せなくなった沙羅。



「お待たせ〜〜〜・・・・・・どうしたの?」
 遅れて庭へやってきた景時が、常に無い沙羅の様子に首を傾げる。
 が、望美にも解らないので望美も首を傾げるだけだ。



「沙羅・・・どうした・・・・・・」
 先程まで、あんなにリズヴァーンにまとわりついてはしゃいでいたのだ。
 突然の変容に戸惑うのは、望美たちばかりでは無い。



「・・・リズ先生、かあさまには沙羅の時よりすっごくイイお顔した」
 瞳からは涙が零れ落ちそうだ。


「なぁ〜んだ。・・・沙羅。先生が遠くから来てくれてるのは、沙羅の為なのに?」
 リズヴァーンが山を降りる理由など、皆無に等しい。
 唯一絶対の理由があるとすれば、望美たちの暮らしを心配しての事。
 なかでも、可愛い子供は神隠しに遭いやすいのだ。
 月に一度、沙羅のために鬼の力を使って術を施しにきているのはリズヴァーンの意思によるもの。

「そうだよ、沙羅。リズ先生はね、お父様よりすっごい術が使えるんだぞ〜」
 景時とリズヴァーンによる術の融合により、常に沙羅を守護する力が辺りを取り巻いているのだ。
「沙羅は背が小さいから、先生のお顔がよく見えていなかっただけだよ」

 望美の言葉を聞いたリズヴァーンが、沙羅に手を差し伸べた。
 軽く腕に抱き上げられると、普段は見上げていたリズヴァーンの顔が隣にある。

「・・・先生。もう一度ほめて?」
 望美にしたように、笑ってくれるのかと試す沙羅。

「・・・・・・沙羅。お前が幸せならいい」
 褒め言葉になっていないが、リズヴァーンの目元が窺えただけで十分なのだ。
 笑い声も高らかに、常より高い視線が嬉しくてはしゃぐ沙羅。



「沙羅ったら。やきもちっていうんだよ〜〜、そういうのは。誰に似ちゃったのかしら?」
 望美が沙羅へ微笑みかけると、沙羅が真っ直ぐ指差したのは景時。



「〜〜〜!!!望美ちゃ〜ん!沙羅がぁ!沙羅がぁぁぁぁ!!!」
 今度は景時が衝撃のあまり表情が曇ってくる。
 ヤキモチには、ヤキモチの理由があるのだ。理由について憂える景時。
「沙羅はお父さんに似てるんですって〜。ね?景時さん。そういう事みたい」
 望美にしがみ付く景時の背を撫でている望美の顔は笑んでいる。
 今日は景時が愚図りっぱなし決定だが、それでもいいと思う。



「・・・神子。しばし出かけてくる」
「いってきまぁす!」
 マントを翻し、瞬時に姿を消したリズヴァーンと沙羅。
 望美が沙羅へ手を振り返す間も無かった。



「望美ちゃ〜〜ん!リズ先生が沙羅を庵へ連れていっちゃったよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「はい、はい、はい。沙羅はまだ三才ですよ?それに、そんな遠くへ行くわけないでしょう?」
 景時の背を撫でる望美。
 けれど、そう長くはリズヴァーンが沙羅の相手が出来ない事も心得ている。
 聞きたがり、知りたがりのお年頃の沙羅の相手は、無口なリズヴァーンにとって長時間は難しい。

「景時さん。きっと近くの野原でお花でも摘んでるんですよ。私達も行きませんか?」
 ピタリと景時の涙が止まる。

「・・・・・・二人で?これから?」
「そうです。沙羅に花冠作ってあげたいし。きっと先生も私達が来ると思って待ってますよ」
 景時の機嫌も上向いてくる。
 都合よく、沙羅が景時を待っていると拡大解釈に転じたらしい。

「・・・えっと・・・追いかけよう!オレだって沙羅に特大の首飾り作っちゃうもんね〜」
「はい!」
 手を繋いで駆け出す景時と望美。
 こちらも仲良く出かけることになり、梶原家の平和は保たれた。


 未来は誰にもわからないから面白い───