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 『未来予想図』  景時×望美編 ⇒九郎ver.







「かあさまぁ!弁慶さんがかわいいって」
 梶原邸の庭を駆けて来るのは、愛娘の沙羅。
「よかったね〜、沙羅。お父様も褒めてくれたでしょ?」
 新しい着物が嬉しい沙羅は、梶原邸を訪れる客人に必ずその姿を見せている。
「うん!明日も誰かくる〜?」
「どうかな〜?誰か見せたい人がいるの?」
 望美が屈んで沙羅を抱き上げると、見覚えのある顔ぶれが庭を横切ってくる。

「お久しぶりです、望美さん。沙羅も髪が伸びて、すっかり女の子らしくなりましたね」
「久しいな・・・元気そうで何よりだ。そうしていると女性らしくて兄弟弟子とは言い難いな」
 九郎が望美に挨拶をすると、沙羅の頬が脹れる。
「こんにちは。弁慶さん、九郎さん。どうしたの?・・・沙羅?」
 今まではしゃいでいた沙羅が、軽く九郎を睨むと顔を背けた。

「あれれ?沙羅?どうしたの?急にぃ・・・・・・」
 望美にしがみついて顔を見せなくなった沙羅。



「お待たせ〜〜〜・・・・・・どうしたの?」
 遅れて庭へやってきた景時が、常に無い沙羅の様子に首を傾げる。
 が、望美にも解らないので望美も首を傾げるだけだ。



「九郎・・・君の所為ですよ?」
 軽く息を吐き出す弁慶。沙羅の機嫌が悪くなった理由がわかっているらしい。
「俺がか?」
 一方、原因らしき九郎には理由がわかっていない。
 助けを求めるように視線を彷徨わせるだけだ。

「え〜っと?沙羅?九郎さんが何か?」
 仕方が無いので、直接尋ねてみる望美。
 唇を尖らせながら、沙羅が原因を話し出した。


「・・・九郎さん、キライ。かあさまだけほめた。沙羅には何もいってくれなかったよ?」
 瞳からは涙が零れ落ちそうだ。


「なぁ〜んだ。・・・沙羅。色々な人がいるんだよ?沙羅が自分で考えなきゃ」
 何のことはない。沙羅が着物姿を見せても、不器用な九郎の事だ。
 言葉が出なかっただけなのだろう。
 だが、タイミングが悪く望美を褒めたと沙羅が勘違いをしたのだ。
 望美は沙羅を九郎へと押し付ける。
「九郎さん。女の子はとっても繊細なの。言葉にしないで逃げようなんてダメですからね」

 手を離されてしまっては、九郎も沙羅を抱えるしかない。
 片腕で抱き上げれば、唇をかみしめて泣くのを堪えている。
 いよいよ言葉にするしかない状況に追い込まれた九郎。

「・・・・・・沙羅。今日は・・・新しい着物が良く似合っているな」
 九郎、精一杯の褒め言葉だ。
 あまりにいっぱい、いっぱい過ぎで、耳まで紅くなっていた。


「沙羅。言葉が無くても、伝わるキモチがあるでしょ?言葉がある方が嬉しいけどね」
 望美が沙羅へ微笑みかけると、沙羅が大きく頷いた。


「うん・・・九郎さん、だいすき」
 沙羅が九郎の首へと腕を回す。
 すっかり機嫌が直ってしまい、ニコニコ顔だ。
 九郎は頭から湯気が見えそうなほどに益々紅くなっていた。



「〜〜〜!!!望美ちゃ〜ん!沙羅がぁ!沙羅がぁぁぁぁ!!!」
 今度は景時の瞳が大洪水だ。
「沙羅は人の気持ちがわかる、優しい女の子に育ちましたね!」
 望美にしがみ付く景時の背を撫でている望美の顔は笑んでいる。
 今日は景時が愚図りっぱなし決定だが、それでもいいと思う。



「そ、その・・・しばらく沙羅を借りるぞ。景時!今日はゆっくり休むんだな」
「いってきまぁす!」
 軽く片手を上げると、沙羅を抱えたままで庭から姿を消す九郎。
 沙羅は無邪気に手を振って、外出を喜んでいた。



「望美ちゃ〜〜ん!九郎が沙羅を連れていっちゃったよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「はい、はい、はい。沙羅はまだ三才ですよ?連れて行くって誘拐じゃないんだから」
 景時の背を撫でるしか出来ないでいる望美。
 弁慶が助け舟を出した。


「景時。景時も望美さんと二人で出かければいいのでは?二人は久しぶりでしょう?」
 弁慶の提案に、ピタリと景時の涙が止まる。

「・・・・・・二人で?」
「二人で・・・ですよ。それでは、僕はこれで。お邪魔しました」
 巻き込まれないうちにさっさと帰る弁慶。引き際を心得ている。


「・・・デート、する?」
「もう!しっかり誘ってください」
 望美が景時の頬をつつく。
「え〜っと・・・・・・デートしよう!」
「はい!」
 こちらも仲良く出かけることになり、梶原家の平和は保たれた。


 未来は誰にもわからないから面白い───