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『お昼寝気分(梅雨ver.)』 景時×望美編
(・・・景時さん、いたっ!)
梅雨ともなれば、雨降り続きで今日も外での洗濯は出来なかった梶原邸。
南向きの部屋の簀子で転がる人物がひとり。
本日は、久しぶりに休みをもらえた景時である。
「景時さ・・・っ・・・・・・」
声をかけようとしたが、慌てて両手で自分の口を塞ぐ望美。
景時の首が揺れているのだ。
転寝しているのだろうと想像がつく。出来れば起こさずに寝かせてあげたい。
小走りから忍び足へと変え、静かに景時に近づいた。
「・・・お洗濯出来なくて、残念でしたね?」
肘枕で寝ている景時が向いている先には、いつも二人で洗濯物を干す物干し台がある。
何も干していない風景に、雨が溶け込んでゆく───
「・・・ちょっと寒いかな?でも・・・湿度があるんだよね」
そろりと景時の腕に触れると、ひんやりと冷たい。
「やっぱり寒いね。・・・待っててねv」
景時の頬に微かに触れた望美の唇。
足音が遠ざかったのを十分に確認してから、景時が目を開いた。
「・・・参っちゃったなぁ〜〜〜。顔、赤くなったらバレちゃうトコだった」
確かに転寝はしていたが、望美が景時の前に来た時には目覚めていたのだ。
このまま黙って寝たフリを続けたならば、望美が隣にいてくれるのでは?と、微かな期待で
瞳を閉じ続けていただけだ。
「・・・・・・待っててねって・・・ドコ行っちゃったんだろ?」
下手に動いて、戻ってきた望美に起きている所を見られるのも都合が悪い。
さりとて、如何ほど待てばいいのかも見当がつかない。
視線を庭へと移せば、ぼんやりと辺りを煙らせる雨。
(・・・・・・梅雨だからって、今日くらい晴れてくれてもなぁ〜〜〜)
もしも晴れたなら、望美と洗濯をしてから出かけようと決めていた。
目覚めて外を見れば、相変わらずの雨模様。
もしかしたら止むかもと、いつもならば洗濯をする時刻に、つい、つい簀子で転がって空を
睨んでいたら転寝をしてしまった。そして今に至っている。
遠くで床が軋む音がしたので、先程の姿勢に戻る景時。
望美に気づかれずに間に合った。
「風邪ひいちゃいますよぉ〜・・・・・・お邪魔します」
景時に衣をかけてから、景時の前に転がって庭を眺める望美。
「ふぅ〜ん。こうして見ると、ここからでも空がよく見えるんだ〜〜。目隠しみたい」
どんより灰色の雲が覆いつくしている状態が、煙幕で隠されている様な不思議な感覚がする。
音を立てずに景時が望美の視界を手で覆う。
「・・・こんな感じ?」
「景時さん?!起きてたの?」
振り返ろうとする望美を、背後から抱え込む姿勢で振り向かせない景時。
望美がかけてくれた衣の中へ引き入れる。
「晴れないかな〜って空を見てたら寝ちゃったみたいで。うっかりくらい?」
「なぁ〜んだ。お休みなんだし、のんびり寝ていていいですよ?」
景時の休みは不定期だ。
忙しければ働きづめだし、時間があれば続けて休む日もある。
今回は、春先の騒動に続いて鎌倉への文使いをした後の特別な休み。
「・・・オレ、ひとりで?」
「私も一緒に!だって、ずっと景時さん居なくて・・・・・・」
「そっか。じゃ、晴れたらいいな〜ってお祈りしながらゴロゴロしよう」
二人で眺めようとも、空には変化が訪れず。
いつの間にか、今度は二人で転寝状態。
「何もこんなところで寝なくてもいいのに・・・・・・」
ようやく上がった雨。
簀子の二人は眠ってしまっていて、僅かながら顔を出した青空を見ていない。
朔は二人に気づかれないよう、洗濯物を干し始めた。
(・・・だらしのないお顔ね?・・・・・・)
口元が緩みまくっている景時の顔。
あまりに緩んでいるので小言のひとつも言いたいところだが、飲み込む朔。
安心しきって眠っている親友の顔も視界に入るからだ。
(兄上がいらっしゃらないと、望美が眠れていない事をご存知なのね・・・・・・)
景時自身は、昔からそう睡眠時間を必要としていない方だ。
鎌倉へ行ったくらいで、起き上がれないほど疲れたり、眠かったりはあり得ない。
「もう少ししたら、起こして差し上げますからね?」
手早く作業を終えると、空を見上げる朔。
雲の隙間から差し込む光に目を細めると、簀子で寝たフリであろう兄の肩を叩く。
「・・・兄上。起きていらっしゃるのでしょう?」
最初に二人を見た時は、景時も眠っていた。
今は、望美が眩しくないよう、望美の目の辺りを手で覆っているのだ。
明らかに起きていると思われる。
「・・・バレてたんだ。その・・・午後、出かけてもいいかな?」
仲良し兄弟の内緒話。
「ええ。そのつもりで洗濯物もこうして・・・・・・望美の仕事は残してないですもの」
「悪いね・・・・・・望美ちゃんが起きたら出かけるから」
寝息を立てている望美が起きるには、もう少しかかるだろう。
「ぜひそうして下さいませ。ずっと兄上を案じて待っていたのですから」
「うん。ありがと。こんな時間があるだけで幸せなんだけどね」
かつての景時にすれば、これぞ雲泥の差といわんばかりの今の幸せ───
「馬鹿ね・・・兄上は。もっと上を望まないと叱られますわよ?」
「あはは。そうだね・・・望美ちゃんに叱られないよう、もっと幸せにならないとね」
同じ空なのに、今は真っ直ぐに向き合える。
望美ちゃんがいるだけで、空まで違って見えるよ?