鮭色   12/12





「景時さんは何が好き?」

 深夜のコンビニ。
 金曜日の晩、レンタルDVDも二本目ともなれば小腹が空いてくるというものだ。
 残念な事に景時のマンションにあるのはカップラーメンのみ。



 『カップラーメンな気分じゃないです。・・・何か買ってきますね!』
 『待った!オレが行くから』
 『え〜〜〜。だって、食べたいモノ決まってないんですもん。私が行かないと』
 『こんな時間に女の子だけなんて・・・・・・。一緒に行けばいいんだよね』
 『わ〜い!コンビニデートですね?コート着ないと寒いですよね〜』



 そんな遣り取りが十分前にあり、今に至っている。
「オレねぇ・・・色々試したけど、結局梅干しに戻ったかなぁ〜」
 “何が”の何とは、おにぎりの具の種類である。
 深夜でもなかなかに種類がそろっている。
 けれど、そう目移りもせずに梅干しのおにぎりをカゴへ入れた。
「景時さんって、シンプルなのが好きですよね〜。私はね、鮭」
 この時間に食べるのは勇気がいるが、食べないのもツライ時間。
 このままシリーズモノの映画を全部みたい。
 よって、今から二時間は起きて見るだろうと、言い訳がましい計算をする

ちゃん、お菓子はいいの?」
 普段ならば真っ先に向かうはずの方向に行かないに声をかける。
「い〜んです。おでん・・・にしようかなって。お菓子はね、今からだと・・・・・・」
 体重を気にするお年頃だ。
 が心の中でカロリー計算をしているのが何となくわかり、景時は小さなデザートを
ひとつだけカゴに入れた。

「半分こ・・・しよっか?」
「いいの?」
 半分ならば食べたい。
 何といっても、なければ食べなくて済む。
 始めは半分を残して翌日と思って手を伸ばそうとしたが、買ったら最後だ。
 あるものはある。あれば食べたくなるに決まっている。
 よって、景時の申し出は大変有り難く───

「オレも少しだけ食べたいんだけど、残すのもったいないでしょ?」
「えへへ。ありがと、景時さん」
 景時がを気遣っているのはモロバレだ。

(これ・・・見てたのわかっちゃったみたい。優しいんだ、景時さん)
 口に出しても出さなくても景時には気づかれてしまう。
 を見ていてくれる証拠の様でとても嬉しい。


 景時にすればに食べさせてもらえるというオプションがつく。
 普段も味見と称した一口がやってくるのを待っているのだ。
 最大チャンスを漏らさず窺っているが故の行動だったりする。

(どっちがオプションだかわからないよね〜。あはは〜)
 心の中をに知られぬように表情を引き締めた。





 手早く買い物を済ませて帰宅すると、がお湯を沸かす。
 先にリビングで待っていた景時の目の前に、お茶のセットが置かれる。
 そして、何故かのご飯茶碗。

「それ・・・何?」
 が買ったのはおにぎりだ。
 ご飯茶碗の存在に疑問を感じて口にした景時。

「これですか?これは・・・今からわかりますよ」
 二人分の湯のみに玄米茶を淹れてから、再び急須に湯が足される。
 がとった行動は、おにぎりの包みをあけ、そのままおにぎりを
ご飯茶碗へ入れる。続いて外側の海苔を取り出して手で千切ってその上へ。
 茶碗の淵にはよく見れば少量のワサビ。
 最後に玄米茶の二番茶がかけられた。

「お茶漬け・・・・・・うわ・・・鮭が生き返った!」
 が箸で崩すと、中の鮭が色鮮やかに浮いてくる。
 よもやわざわざにぎってある米を崩すとは思いつかなかったのだ。
 わくわくしながら景時はその経過を見守る。

「これね、友だちに教わったコンビニレシピなんですよ〜」
 立ち上がったが台所から景時のご飯茶碗を手に戻ってくる。

「はい!景時さんもしたくなっちゃったでしょ?梅干しなら梅茶漬けですね」
「あ。わかっちゃった?オレもしよ〜っと」
 ふわふわと玄米茶に浮かんでいる鮭。
 抹茶入り玄米茶なので、透きとおった翠色に浮かぶ鮭色が鮮やかだ。
 景時も真似して梅干しで作ってみたが、梅干しはやはり梅干しだった。


「・・・オレも次は鮭にしよ〜」
「え?こっちにしますか?私、梅干しも大丈夫ですよ」
 が自分のご飯茶碗を景時の前へと押し出す。
「いや、いや。そういうんじゃなくてさ。鮭色って、暖かそうで幸せ色に見えた
から。ちゃんがすると、何でも幸せ色に見えちゃうのかもね」
 が真っ赤になる。
「・・・幸せだから、何でも幸せって思えるんですよ、きっと」
「そっか。これ食べたら映画の続きを見ようね〜」





 湯気の向こうに見える美味しい色。
 暖色系は初冬に暖かく───






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 あとがき:12/12の色は『鮭色』でキーワードのひとつは『ユニーク』。食べ方は自由ってことで(笑)     (2006.12.06サイト掲載)




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