抹茶色 11/22 「向こうにいた時って、白湯とかが多かったですよね〜」 とある土曜日の昼下がり、食後のお茶として玄米茶を淹れた。 座って本を読む景時の前に湯飲みを置いた。 「・・・へ?ああ。ありがとう。玄米茶っていい香りだよね〜」 玄米の芳しい香りで肺を満たしてから、一口ばかり含む。 「そうですよね。でね?家ってママがお茶とか好きで。日本茶も煎茶に玉露に 玄米茶、少し変わって蕎麦茶にほうじ茶、はと麦茶、夏は麦茶。さらに、中国茶や 紅茶にコーヒーって、馬鹿みたいにたくさんあったの。だから、お茶にしようって 言われた時に、あまりに選択肢が少なくて驚いたんですよね〜」 も自分の分の湯のみを手に持ち、景時の隣に座りこむ。 二人並んで湯のみを手に持ちすする姿は、老後のまったり寛ぎ風景のようだ。 「ふうん?じゃあさ、ちゃんはコレ知ってるの?」 景時が読んでいた本を開いてへと見せる。 『なるほど世界のお茶』───いかにもなタイトルの本だ。 「抹茶・・・・・・ママならおうすっていうの出来ますけど・・・・・・」 「おうすぅ〜?何、それ」 知りたがり景時の目が輝きだした。 「・・・・・・あのぅ・・・千利休さんっていう人が、お茶の粉を、こう・・・ 泡だて器のちっちゃいのでくるくるってお湯で溶いて飲んだやつ・・・かな? あ!ちょっと待ってて下さい。あのね、すぐ!すぐだから!!!」 テーブルに湯のみを置いて、が携帯電話を取り出して検索を始めた。 「あった!景時さん。お出かけしませんか?ママのお茶は後でしてもらえるし。 お抹茶は、甘いお菓子とセットなんだよ?ココ。ココへ行きましょう!」 検索した店の画面を景時へ見せる。 景時に任せれば、地図ナシでたどり着けるからだ。 「ふ〜〜〜ん。抹茶セットか〜。行ってみよう!」 ぐびりと残りのお茶を一気飲みした景時が立ち上がる。 抹茶だけはも点てた事がない。 「抹茶のお菓子はいつも私が食べてたよ?緑色のアイスとか〜」 「ああ!あれがそうなんだ。じゃあさ、あれは抹茶の味って事で、抹茶があったんだ」 軽く手を打ち鳴らして、合点がいったらしい景時。 「何だと思ってました?」 「え?色。色の名前。抹っていう茶葉の色なんだろうな〜って」 そのまま他愛も無いおしゃべりをしながら、電車を乗り継いで目的地へ着いた。 「お抹茶セットだ〜〜〜」 大きな茶碗と生菓子の小さな皿が、一人分ずつ盆にのせられている。 「へ〜〜〜。飲むっていうか・・・・・・舐める?」 茶碗が大きい故に、その量がやたら少なく見える。 「舐めるっていうか・・・ちょっと苦いんですよ。ちょ〜渋いっていうか。だから、 お菓子をぱくんして、お茶をこくんしてを繰り返す感じ?」 身振り手振りでその楽しみ方を説明する。 二人の遣り取りが面白かったらしく、店の人がお茶について解説までしてくれた。 「泡だて器じゃなかったんだ・・・茶筅・・・・・・」 竹で出来ているそれの名称を初めて知った。 「う〜ん。用途は似たようなモノだけどね〜」 の事前情報を考慮し、まずは軽く舐めてみる景時。 「どうですか?」 「苦くはないかな。あれ、思い出さない?」 景時が軽く片目をつぶる。 も久しぶりに抹茶を口へ含むと─── 「・・・・・・弁慶さんの熱さましの方が苦いです」 「あはは!だよね〜。これが茶道というものなんだね。帰りに本屋さんに寄ってもイイ?」 またも景時の好奇心が刺激されたらしい。 「いいですよ。お茶の道具も買いますか?このお店にもちょびっと置いてあるし」 会計付近に少しばかりのお茶と道具が展示されている。 「いいね〜。お茶の日はさ、お菓子も必要だね?」 「やだ〜。そういう意味じゃないですよぅ」 が唇を尖らせる。 「違うの?じゃあ、ちゃんはお菓子ナシ?」 「それは嫌〜〜〜!季節のお菓子を買って、お家でお茶を点てましょう?」 本日の菓子、柿の実を模った和菓子。 「いいね〜。ちゃんの家へお菓子を持ってお邪魔したら、お母さんが点ててくれるかな?」 「うん!それもアリかも。ママが張り切って大変」 時間を楽しむのがお茶の時間─── |
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あとがき:11/22の色は『抹茶色』でキーワードのひとつは『理想』。二人でまったりティータイムが理想v (2006.11.15サイト掲載)