芥子色 10/23 「涼しいじゃなくて、寒いの方があってる感じぃ〜」 「あはは!じゃ、こうしよう」 気温が上がる時は温かさを感じなくもないが、日陰は寒い、そんな季節。 そういう気温の変化が激しい季節ともなれば、外出先は決まっているわけで。 ちゃんの提案で、鎌倉紅葉を見ようツアーが主催され─── と、いっても。 何のことはない、デートだったりする。 「ここもありましたよね!」 「そうだね〜。うん。古さが増してるけど」 異世界の鎌倉にあった名残があるこの町は、オレにとってもどこか懐かしい。 時を越えた分、時代と呼ばれるほどの時が流れてしまっているのは仕方ない。 「やっぱり・・・景時さんのお家はないなぁ・・・・・・」 「ん〜?いいの、いいの。家なんてものは、住む人がいてこそだよ」 実際、母上も京へ連れて行ったのだ。 その後の鎌倉の家など、どうなったかなんて気にしていなかった。 オレの生活の基盤は京へ移したわけだし。 「じゃあ、定番の場所に行かない?」 「ですね!どーんと若宮大路から行きましょう!」 「う〜ん。珍しい」 いつもなら買い食い大好きのちゃんは、小町通からなのにね。 「だって。堂々と・・・こう・・・たのもう!みたいな感じで行きたいの!」 「いいよ。歩道が歩きやすいしね」 何か考えがあっての事だとは思うけれど。 正面っていうのが、いかにも君らしくて。 「・・・景時さん?何を笑ってるんですか〜?」 「ん?いや〜、何でもないよ?」 「嘘ばっかり!」 つんと顔を背けられてしまった。 何となく・・・君の考えもわかっちゃったし。 「あのさ・・・そんなに心配しなくても、もう秘密は無いよ?」 この地はねぇ・・・荼吉尼天の事を隠してたもんだから。 君にとってはあまりいい思い出じゃないんだろうな。 オレが君を騙していた場所だから・・・ね。 「へ?そんなの疑ってないですもん。ただ・・・・・・」 「ただ?」 急に静かになられてしまうと、どうしていいのかわからなくなる。 普段、オレが寂しくないように、せっせと話しかけられているんだと。 そう気づかされてしまうから。 「私が・・・景時さんを一人にしちゃったから・・・・・・」 「ああ。それなら・・・ここは繋がっていたでしょ?いつも」 軽く左胸を親指で指して見せた。 「それは・・・そうなんですケドぉ・・・・・・」 「だから。今も一緒。と、いうわけで。ちゃんには食べ物が必要だ!」 「ええっ?!」 こんな時には、温かい食べ物を。 目に付いた看板の店に飛び込む。 「おでん〜!うわ〜〜〜。大根には・・・たっぷりカラシ!!!」 「あはは。やっと笑ってくれた」 注文と同時に出てくるのがいいね、おでんは。 隣で元気に食べている君を眺めているだけで、オレはあの時負けなくてよかったと。 一世一代の嘘だったよなぁ。黒龍の逆鱗だとか。 「こんにゃくって、熱くって・・・・・・」 息を吹きかけて冷ましている君が可愛くて。 つい、イタズラを思いつく。 「ん。美味しいけどね?」 「・・・・・・ひどぉ〜い!今度は景時さんに冷ましてもらうっ!」 せっかくちゃんが冷ましたこんにゃくを、横からいただいてしまった。 「いいよ。カラシ、たっぷりでね」 「うん。なんだろ〜、カラシがあると味がしまるのかな?」 「香辛料だからねぇ・・・・・・使い方次第かな」 そう。なんでも使い方次第。 嘘も方便とはよくもいったな〜と。 この後は円覚寺で紅葉を楽しもう。 ちゃんといられるなら、どんな困難でも乗り越えられる。 何でも出来ちゃう、ちゃん専任の魔法使いさん目指してるからね! 今日の青空に、紅葉の紅は良く映えそうだ─── |
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あとがき:10/23の色は『芥子(からし)色』でキーワードのひとつは『不屈の精神』。景時くんエンディングをイメージv (2006.10.07サイト掲載)