一斤染   3/1





「まだ桜にはちょっと早いね」
 木々が仄かに春色になったある日。
 景時さんと近所をお散歩。
 景色はまだまだ寒そうなのに、どこか春の気配を感じる。
 だって───

「どうして木が赤く感じるんでしょうね?ほら!なんとなくですけど」
 桜の木が明るい茶色。
 陽の光を浴びてキラキラ。
「あはは!ちゃんは気が早いなぁ。でも・・・・・・、そうだね」
 景時さんが幹に触れた。
 何かあるのかな?私も!
 真似して幹に手のひらをあててみる。


「昔さ、木の幹にこうして耳を当てると・・・水の音が聞えたんだよね」
「水ですか〜?どうして?」
 どうして水なんだろうと、景時さんが耳をあてるのを見ていた。


「木の命を感じるっていうのかな。木には水が必要だからね」
「そうですよね。植物にはそうかも!」
 またまた景時さんの真似をして、今度は幹に耳をあてた。


「・・・陰陽術の修行をしたって話したよね?」
「・・・はっ、はい」
 景時さんが目を閉じていて。
 睫毛長いな〜なんて見惚れてたら話しかけられてドキドキ。


「師匠の受け売りなんだけど。五行って学ぶまでもないって。自然を知れば、
それだけで身に着くものだっていうのが、ようやくわかったんだ」
「・・・そうなんですか?だって・・・・・・」
 私が逢った時には、もうすかっり立派な陰陽師さんだったけどな?


「君と出会えたから。君を見ていて、やっとわかったんだ」
 景時さんにぎゅぎゅって手を握られちゃった!
 どうしよ〜〜〜。
 とっても真剣ですよ?今日の景時さん。


ちゃんが初めて会った時に着ていた着物の色、一斤染っていうんだけどね。
あの色って禁色の境目の色でね・・・・・・」
「・・・きんじきって何ですか?」
 境目の色〜?なんだろ。なんとなく良くないような?
「あははははっ!そうか・・・そうだよね。絹を紅花で染めた色なんだけどね。
紅色っていうのに女性は憧れるものらしくて、そういう高級な色は宮中の高貴な
方々だけが着る事を許されていたってわけなんだ」
「紅花って・・・体にいい油がどうとかって花ですよね?」
 ちんぶんかんぷん。
 紅花ってどういうお花?え〜っと・・・・・・。

「朔といたから白龍の神子と信じただろうって思ってるだろうけれど。オレは君が
着ていた着物の色で高貴な人なんだと・・・そう感じたんだ。とても似合っていて、
雪景色の季節だったのに、花が咲くようだったから・・・ね」
「えっと・・・それは・・・あの着物が可愛かったんですよ、だから・・・・・・」
 真剣な瞳で見つめられると目が放せなくて。
 壇ノ浦の決戦前夜の景時さんと重なる。
 何だろう・・・何か大切な事?



ちゃん。オレで・・・いいの?」



 ちょっとムカツキ。
「私が春まで待ってって言ったからですか?それとも、私の気持ちを疑って聞いて
いるんですか?」
 壇ノ浦で決着がついて。
 その後のドタバタがあって。
 私はここに残るって決めた。
 景時さんのお嫁さんになるんだって。
 ただ、季節は春にしたかった。
 それなのに───



「境目・・・って言ったよね。君とオレには境目がある。オレには眩しすぎると、
そう感じることがないわけじゃない。今ならまだ・・・・・・」
「やだ!嫌です、そんなの。境目なんて、手を伸ばせば届くもの。だって、境目なんて
そう決めた人が勝手に思ってるだけだよ。私はそんな境目わからないし、見えません!」
 景時さんに手を放されないよう、放されても離れないように握り返す。
 私は離れたくないから、景時さんが放しても捕まえるから。

「今逃げないと・・・もう逃がしてあげないよ?」
「・・・・・・逃げないです。景時さんですよ、逃げようとしてるのって」
 もしかして、騙されたんだなって思った。
 半分は景時さんの本気なんだとも思った。
 相手の気持ちばかり優先してしまう景時さんだから。
 私が帰りたいのかと、心配して言ってくれたんだってわかる。
 それがわかるからこそ、私は言わなきゃいけないことがある。

「参っちゃったな〜〜〜。そうだね。いつも君から逃げようとしてたっけね」
「いいです。追いかける楽しみがあるから」
 追いかければいい。
 きっと私を待っているから。
 そうでしょう?

「残念だけど・・・それは無理かな?オレが・・・君を閉じ込めるから。ここに」
「ひゃうっ!!!」
 急にいつもの三倍ぎゅってされた!
 どうしよ〜。やっぱり今日の景時さんは真剣で。


「覚悟を決めてお嫁に来るようにっ!」
「望むところです!」
 あれ〜?何だか果し合いみたいなプロポーズと承諾になっちゃった。
 それでも、はっきりと言い切ってくれた。
 前みたいに、『お嫁に来る?』なんていう問いかけじゃなくて。

 嬉しいから景時さんの背中を抓って合図を送る。
 この後にする事は決まってるでしょ?
 約束のしるしをちゃんと下さいね?ココに。

 春には意味があるんですよ?
 お誕生日っていう、もうひとつの意味が。
 お嫁さんになってから教えてあげますからね!






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 あとがき:3/1の色は『一斤染』でキーワードのひとつは『気くばり』。公式設定の望美ちゃんのイメージカラーだったりします。     (2007.02.25サイト掲載)




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