若芽色   1/31





「お正月くらいは着物がいい!断然着物!」
「変な子ねぇ?今まで面倒だからいいって言って、見向きもしなかったくせに」

 家で年の瀬も近づいた師走のある日に交わされた母娘の会話。
 毎年、初詣は将臣と譲との三人で行っていた。
 ところが、年末に異世界の京へ飛ばされ、また、無事に戻れた今となっては、
初詣の約束は他の人物とされているのだ。
 それは、こちらの世界へ来てくれた景時に他ならない。

「それと・・・ママにお願いがあるの。あのね・・・・・・」
 着物を着るのがだけでは意味がない。
 

(景時さんと着物で初詣したいんだもの───)


 白龍のおかげで景時はの彼氏だったと周囲の記憶は書き換えられている。
 家に出入りしていても何の違和感ももたれていない。

「わかってるわよ。景時さんの着物も・・・っていいたいのね?どれがいいかしら?
お着物はそうサイズを心配しなくても大丈夫よ。パパの若い時のがあるし」
 母親がしまってあった着物を出しては広げを繰り返す。
 部屋の畳が見えない程度に埋め尽くされる頃、一枚の着物をが選んだ。

「こっ、これ!絶対にこれなの。景時さんに似合うのは!」
「そうね。春らしくて明るいし・・・・・・今から掛けておけば皺もとれるし、防虫剤
のにおいもとれるから。それで?いつ着つけるの?」
 着物用のハンガーにかけながら母親が振り返る。
「家で年越し蕎麦を食べたら初詣に行くから、その時!私のは・・・こっち!」
 用にかねてより用意してあった着物の中から、景時の着物と並んでもおかしくない
春色の淡い紅梅色を選ぶ。
「はい、はい。の方は・・・これね?こっちも用意しておくわね」
 の着物もハンガーにかけられる。
 景時の着物と並んでいるそれは、二人が並んでいるようで嬉しかった。
「ありがと、ママ。じゃ、出かけてくる」
 景時とデートのため、そのままは出かけた。





 いよいよ年末、無事に着付けもされ、二人で並んで歩く。
ちゃん、寒くない?」
「大丈夫ですよ?それに・・・景時さんとこうしてると、向こうにいた時みたい」
 景時がこちらに来てくれたのは嬉しいが、すべてをこちらに合わせてもらうのはどこか
心苦しくて、落ち着かなかったのだ。
 何でもいいから、異世界の京での暮らしに繋がることがしたかった

「そうだね〜。こっちは暖かいからいいね。うん、うん」
 わざわざが作ってくれた機会である。
 景時は、ここ数日間に考えていた事を告げる決心をした。

「あの・・・さ。ちゃん。年が明ける前に聞いて欲しい。オレね?こっちへ来たこと、
ちっとも後悔してないからね?だから・・・こっちの世界で無理に同じことをしなくても
全然、まったく大丈夫だから」
 景時の言葉にの顔が上がる。
「・・・あの・・・嫌・・・でした?その・・・・・・」
「あ〜っと、そんな顔しないで?泣かせちゃったら朔に叱られちゃうよ〜。そうじゃなくて。
無理しないでって意味だから」
 景時の言葉にが首を左右に振る。
「無理してないの。無理じゃなくて・・・・・・私が・・・私のために。私が懐かしくて
したいだけなのかも・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」
 俯いてしまったの頬に景時が手を添える。

「いいの、いいの。懐かしいのはオレも同じ。ただね〜、周り見てると、あまりこういう格好の
人がいないし。大変だったかなって」
 まったくいないわけではないが、年齢を考えなければ一割程度。
 まして、景時くらいの年齢で着物というのは見当たらない。
 幾分年齢が高ければ着物の男性も見かけなくもないくらい。

「景時さん、大変?」
「いや?実は・・・こっちの方が楽というか・・・違和感はないよ。まだ洋服はちょっとね。
初めてのモノって、なかなか慣れないよね」
 両手を広げてみせる景時。
 羽織も着ており、も馴染んでいる冬の景時の支度。
「えっと・・・私も・・・こっちの景時さんの方が普通っていうか・・・それに・・・私が
選んだの。その着物・・・・・・嫌でした?」
 今度は景時が首を忙しく左右に振る。
「いや、いや、いや、いや。オレね、これは春っぽくていい色だな〜って思ってて。それにさ、
ちゃんと並んでもいい色だよな〜って。・・・・・・ちゃんが着物だと嬉しいんだ、
本当は。家にいてくれた時みたいで・・・一緒に洗濯した時とか・・・・・・」

 結局のところ、二人でいられる時間が長く感じられた京がお互いに懐かしいのだ。
 よくよく考えれば、休みは不定期、生活は不便極まりなかったのだとしても。

「・・・私、景時さんを攫ってきちゃったから。向こうにこだわりすぎてたのかなぁ?」
「うわ〜。オレ、攫われてたんだ!それって、いいね〜。ちゃんに攫われるオレ」
 顎に手を当てて悦に入る景時。

 その時、景時の後頭部に手刀が入る。
「あいてっ!」
「そこ二人。正月早々物騒な事言ってないで、さっさと参ってこい!もう零時過ぎてる」
 景時が振り返ると、将臣と譲が視界に入る。

「あれ〜?二人も来たんだ。・・・着物だねぇ?」
「なんとなくこっちの方が落ち着くんですよね。気が引き締まるし」
 譲と将臣も着物を着ている。

「譲くんはともかく。将臣くんって着物派だったっけ〜?」
 が珍しいモノを見るかのように首を傾げる。
「ば〜か!こう見えても還内府してたんだ。もっと時代劇くさいの着させられてたっての!
つうか、くだらないことしゃべってないで、行ってこい」
 手で掃う仕種をされ、景時とが目を合わせて笑う。

「みんなも同じみたいですね!」
「そうだね〜。自分たちで楽ならいいかな。うん」
 手を繋いで、少しだけ空いた人の流れに乗って詣でる。



 明けまして、おめでとうございます!
 今年もよい年でありますように───






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 あとがき:1/31の色は『若芽色』でキーワードのひとつは『センチメンタル』。だけど『社会的順応』というのも有りなので、こんな感じでv     (2007.01.08サイト掲載)




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