紅蓮 (エピローグ) 〜 エピローグ 1 〜 「知盛さん。これが先週の件の書類です。いや〜、よかったですね!念願のお強請りしてもらえて!」 何も知らない木村は、月曜日の朝から知盛へ一週間のスケジュール確認がてら報告のために社長室にいる。 どこでどうなったかは知らないが、知盛は青年実業家になっていた。 しかも、かなり出来る社員がそろっており、知盛の仕事といえばマスコミ向けの広告塔程度。 「・・・・・・フンッ。思ったほど効果は無かったがな・・・・・・・・・・・・」 指輪を贈っても、さして嬉しそうな顔をその場で見せてくれたわけでもなく。 知盛のあてはハズレまくっていたのだ。 「ええっ?!ピンクサファイアですよ?あれだけ綺麗なピンクは珍しいのに・・・・・・」 実のところ、新入社員の一ヶ月分の給料に匹敵するお値段だったのだ。 それでが喜ばないとは、あまりに意外な事に木村のこめかみに汗が滲む。 なんといっても知盛の機嫌を損ねると、一週間の仕事時間の変動幅が大きい。 「・・・クッ・・・アイツにとってはこの花一輪と同じ価値さ。これを活けなおしておけ」 知盛が木村へ手渡したのは、真っ赤な一輪のバラ。 「あの・・・・・・」 何もない知盛の仕事部屋に、いっそ不似合いなほどの深紅のバラ。 モノトーンの世界にとても目立っている。 「ああ。それは・・・・・・からの求婚の証しだ。家ではすぐに枯れてしまうからな・・・・・・」 つまり、知盛の目に触れるところに置いておき、世話をしろという事だ。 指輪ではなく、別の事でが喜んだであろうことは明白。 木村はすぐに内線で一輪挿しの用意を言いつけた。 「それは、それということで。今週のスケジュールですが・・・あ・・・腕輪・・・・・・」 いつもと変わらぬはずの月曜日。 知盛の腕に光るアイテムが常とは違うと気づいた。 「・・・クッ・・・に捕まった証しだ。外れないぜ?」 自慢げに腕を振ってみせる知盛の機嫌は、今までに無いほど良い最上級の部類だ。 休日に呼び出されたものの、時間外労働も悪くなかったとひと息吐いた木村だった。 〜 エピローグ2 〜 「わ〜、可愛いね、。彼氏から?」 「うん。知盛の誕生石だって言うんだけど・・・サファイアって青だったと思うんだよねぇ」 宝石など買ったことがない学生の身分としては、そう知識があるわけでもなく。 まして、ほどブランドやアクセサリーに興味が薄いのも珍しかったりする。 「・・・・・・アンタ・・・それ、ピンクサファイアだよ。すっごく珍しくて高いんだよ」 飽きれたように友人の一人が石について説明を加える。 「ええっ?!ピンクのサファイアって何?高いの?そういえば・・・数が少なかったかも」 休日に学校の友人達と映画を観た帰りによったカフェ。 何となく気づいて欲しくて指輪をして来たのだ。 いつもなら友人に彼氏からの贈り物を見せられてばかりいるのだが、今日は違う。 結果からいうと、あの知盛がのために探して決めてくれた一品でもある。 誰かに見せたいのは当然だろう。 「うわ・・・価値がわかってないよ、この子。ど〜なんだろ、こういう子に贈り物って」 「まあねぇ・・・じゃボケっともらったんだろうね〜。しかもさ、彼氏の誕生石だよ?」 「だ〜よね〜。こんなに意味深なのに、ボケっとしてたんだろうねぇ、この子は」 友人二人が、もう話にならないとばかりに大きな溜息をいくつも吐きながらを眺める。 「なっ・・・だって!そんなのわかんないもん。・・・何だか一生懸命探してくれてたけどさ」 「そりゃそうよ。安物ならいいけど・・・・・・これ、何気にプラチナくさい」 目利きの友人にいわせると、の指輪はシルバーではないといわれた。 「・・・それって、高い?」 「たぶん、アンタが考えている十倍は軽くする」 「ええっ?!何、それ」 店頭買いであっさり指にはめられた指輪の意味も価値もわかっていなかったとの動きが停止する。 「ダメだ、話にならないのはこの子の方だよ。可哀想〜、知盛サン」 その時、の背後に立つ人物が友人二人の視界に入る。 「それでは、姫君方は・・・哀れな私の為にここをお譲りいただけますか?」 の肩へ手を置いた人物は、話題の知盛その人だ。 「はい!どうぞ、持ってって下さい。そんなおバカでニブイ子は、家の子じゃありませんから」 「あはは!いつからの母親なのよ〜。大変ですね、知盛さん。ここあけますね」 だけを置き去りに、さっさと立ち去る気のいい友人達。 「・・・どうしてココにいるのよ。今日は約束があるって言ったでしょ?」 「いや?四人で食事をと思ったんだが・・・のご学友は気が利くな」 口の端を上げてニタリと笑われると、いよいよ眩暈がしてくる。 土曜日だからといって、すべてを知盛と過ごすとは考えていない。 けれど─── 「はぁぁぁぁぁ。・・・結局いつも知盛と一緒だよ。もう気分は結婚五十年」 「五十年分もした覚えはないんだが・・・・・・」 涼しい顔で言ってのける。 そんな知盛に対し、無視をする時は無視をするという技を身につけた。 「・・・知盛サンはぁ・・・あとたった一年が待てないのかな〜?私が二十歳になるまで」 「婚儀は待つと言っているだろう?俺が待てないのは・・・だ」 の手首を掴み、外へと連れ出す知盛。 「半日もを貸し出ししたんだ。後の時間は俺のモノだ」 「貸し出しって・・・レンタルじゃないんだから・・・・・・」 あきれつつも心地よい知盛の拘束に、額を知盛の肩へつけた。 「ね・・・今度は・・・皆で食事しようね?最初からそう決めれば、皆にも迷惑かけないから」 「・・・ああ。それくらいならば・・・構わないぜ?」 「それくらいって・・・話が最初とかみ合ってない気がする・・・・・・」 それでも知盛と手を繋いで歩き出す。 「どこへ行く予定?」 「家。一週間もお預けくらって・・・どうしてくれる」 「どうしてって・・・・・・一人でなんとかしなよ、そんなの」 そのような事情までには面倒見切れない。 「・・・クッ・・・つれないな・・・・・・」 「つれるもなにも・・・結婚したら毎日とか言い出されたり・・・・・・」 嫌な予感に、頬を引きつらせながら隣を歩く人物を見上げる。 「さあ?・・・・・・わからんな・・・・・・」 知盛にも予想がつかないのだ。 大切な人と暮らしたことなど無いのだから。 「・・・わからんって・・・わかろうよ・・・・・・知盛ってさ、もう少し色々頭使った方がいいって」 「・・・熱烈な恋」 「は?突然何を・・・・・・」 知盛はを抱きしめると、その耳元で続きを囁く。 「花言葉というものは、どの花にもあるんだな?」 やはり勘がいい知盛には敵わないと、少しだけ背伸びをして唇を合わせる。 「アタリ。まさか調べるとは思わなかった」 「俺もだ」 「へ?」 調べずして、どうして知ったというのだろうかとが首を傾げる。 「木村がな・・・・・・調べてきた。がする事には意味があるだろうと・・・・・・」 早々と種明かしをする知盛。 それならばも納得だ。 木村ならば、知盛のフォローをしまくるのが目に浮かぶ。 「あ〜あ。木村さんにまた迷惑かけちゃった。恩返ししなきゃ」 「恩返しがしたければ・・・俺を満足させるんだな」 いかにも知盛次第で木村の苦労が変わるとでもいいたげだ。 「・・・王様だよ、この人。仕方ない!知盛サンに親切にしてあげよ〜っと!お買い物行こうね」 「買い物?」 「そ。夕飯作ってあげる〜。考えてみたら、結婚したら毎日作らなきゃだしね〜。練習、練習」 練習につき合わされるのは知盛。 機嫌は良くなろうとも、腹具合までは保証の限りではない。 そんな十月の初めの週末─── |
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チモさんは王様だとイイ。王様なのに望美に弱いのを、いかにそう見せないか苦心しているともっと嬉しいv (2006.09.11サイト掲載)