奇貨 (前編) 「・・・それで?」 土曜日の昼下がり。知盛はいつもの如くソファーで昼寝の体勢。 「褒められちゃってね!で〜、卒業出来そう。これで単位もらえちゃうし」 知盛の足を押しのけてソファーに座る。 大学の卒業見込みの報告がてら、知盛のために料理を振舞うつもりで訪れた。 「だ・か・ら!夕飯をね、豪華に作りに来たの。何がいい?」 「・・・クッ。質問の意味が解りかねる」 知盛の“食べたいモノ”は決まっている。尋ねる方がおかしい。 「知盛はおりこうさんだから、解るでしょ〜!和食?和食はあんまりレパートリー多くない けどさ、頑張るよ?」 は考えたのだ。知盛が食べたいモノを確認してから食材を買いに行こうと。 だからこそ、研究室から知盛のマンションへ直行してきた。 教務課で卒業論文の受領印と単位認定手続きまで完了させ、卒業の確約も得ている。 転がっている知盛を覗き込む。 知盛の腕が伸びて、知盛の胸へ倒れこむ姿勢になってしまった。 「ちょっ!買い物いかなきゃだよ?ダメだからね?」 口とは裏腹に、知盛の鼻先を軽く指でつつくとキスをした。 「・・・買い物・・・なんだろう?だったら、ついでに俺の買い物に付き合え」 「何買うの?」 知盛がモノに執着しないのは、今に始まったことではない。 だからといって、安いモノを買うのでもないという、なんとも贅沢な買い物の仕方だ。 「・・・時計。直ったのと・・・新しいモノ・・・・・・」 面倒そうに電話を指差す知盛。留守番電話のランプが点滅していた。 「・・・居留守したんでしょ〜〜〜?」 「・・・クッ。出る前に切れただけだぜ?」 出るつもりもなかっただろう。とにかく素直に返事をしない。 「いいよ。時計、珍しいね?直すなんて」 知盛の腕が緩んだので、起き上がる。知盛の指は、の髪を掴んでは弄んでいる。 「偶には・・・な・・・・・・」 が選んだ腕時計だからと言ったら、笑われるだろうか?─── (・・・覚えていない・・・か・・・・・・) こちらの世界へ来た時に、必要なものを買い揃えたのだ。五年も前になる。 その時に、が選んだ時計。 「それで〜?お得意さんだから、新しいのおススメされちゃったんだ」 執着しないわりには、時計だけはよく買う知盛。“時を刻むモノ”が、珍しいらしい。 だからといって、失くしても気にしないし、将臣が欲しいといえばあげてしまう。 何のために買っているのか、にはいまひとつ理解できないでいた。 「ああ。春モデルが入荷しました・・・とか言ってたな」 「そっか。そういう季節なんだよね〜、まだ寒いけど。・・・早く行こう?」 起きる気配のない知盛の腹部を叩く。 が、知盛は人差し指を軽く動かす。を呼ぶ仕種だ。 「もう!我侭オトコ!!!」 音がする程に一度知盛の腹部を叩くと、から知盛へキスをする。 「おーきーてー!寒いから、車がイイ」 「ちゃんと出来たらな?」 自分の唇を指差すだけで、動く気もないらしい。 知盛のいう“ちゃんと”の意味が解らなくはないが─── 「ぜ〜ったいに、買い物が先だからね?そのまま・・・とかナシだからね?」 用心深く確認を取る。 このまま美味しいくいただかれては、買い物も夕食もすべて出来なくなる。 「へえ?後ならいいのか・・・・・・」 の後頭部へ手を添えて、しばしの唇を味わう知盛。 「んぅ・・・・・・」 「続きは帰ってから・・・だな」 残念だが、続きをすると獲物が逃げる。 「もぉ!最初から素直に買い物行くの。こういうコトしないの」 立ち上がって腰へ手を当てた姿勢で知盛を覗き込む。 「・・・クッ。・・・わかりましたよ、神子殿」 ようやく立ち上がると、上着を取りに寝室へ向かう知盛。 「シャキシャキ歩きなさーい!」 片手を軽く上げて振るだけの知盛を見送ると、知盛が居なくなったソファーへ腰掛けて、 クッションを抱きかかえる。 「知盛の匂いがするぅ・・・ホント、ごろごろしてるの好きだよねぇ?」 知盛の部屋でひとつだけ違和感があるとするならば、このクッションだろう。 これだけは、知盛がどんなに嫌そうな顔をしてもが譲らなかったのだ。 タオル地のサンショウウオらしき形のクッション─── 『どこぞの陰陽師殿の式神のようだな?』 『そういう意味じゃないもん。ふわふわで気持ちいいよ?このお間抜けな顔が和むでしょ〜〜』 しずく形のクッションは、さわり心地は確かにいい。そして顔があるのだ。何気に愛嬌がある。 『・・・クッ。寝ちまえばなんでも同じだ』 暗にの意見を否定する。 『違うもん!いいよ、私が知盛の家へ遊びに行った時用にするから。置いておいて!』 強引に買わせて、知盛の部屋へ置いた。が、今では知盛の昼寝時の愛用品になっている。 「ね〜?やっぱり可愛いんだよ、これ」 がクッションへ顔を埋める。 すると、突然クッションがの手から消えた。 「なっ、知盛?!」 「抱くならクッションじゃない方がいいな?」 見れば、知盛の手によって放り投げられてしまったクッションが床に落ちている。 「もぉ〜〜。可哀想だよ、クッションが」 立ち上がって拾おうとすると、知盛に邪魔をされた。 「・・・クッ。なんなら捨てても構わないんだぜ?」 知盛の腕を振り払ってがクッションを拾い上げる。 「あのね、モノに当たっても仕方ないよ?それに、このクッションを抱えてたのは知盛の匂いが するからだし。いつも使ってるでしょ?」 両手で知盛の前に、件のサンショウウオらしき形のクッションを突き出す。 「どうなのよ?何か文句ある?元々私が可愛いな〜って選んだのを、知盛が使ってくれていて。 使ってくれてるんだな〜って、嬉しかったのに。投げるって何なの?」 ぐいぐいと知盛の胸にクッションを押し当てる。 「そういう態度、よくないよ?」 軽く首を振りながら息を吐き出すと、知盛がクッションを手に取り、埃を叩いた。 「・・・悪かった。・・・・・・そうだ、俺もが選んだから使ってるんだ。これで満足か?」 クッションをソファーの定位置へ戻すと、知盛が腕を広げる。 「そうなの?でも・・・投げなくても・・・・・・」 知盛が待っているのだろうと、素直に知盛に抱きつくと、そのまま抱きしめられた。 「・・・・・・勘違いだ。気にするな」 「〜〜〜?何に?クッションだよ?」 本気でわからないのだろう。の頭の上に、疑問符が大量に見えるかの様だ。 「・・・クッ。陰陽師殿に・・・に想われているのかと・・・な」 「・・・知盛は、私を信用してない?そういう意味?」 知盛の背中を抓る。それこそ本気でしているわけではない。 「いや・・・世間で言うヤキモチ・・・か?」 「それならイイや。買い物行こうね?」 が爪先立ちになり、瞳を閉じた。唇を合わせる知盛。 「・・・ちっとも良くないがな?」 「そっかな?これはもう知盛専用みたいなものだから。私の分も買ってね?これでね、ピンクも 発売されたんだよ〜。知ってる?頭にね、お花がついてるの。女の子バージョン!」 ヤキモチは無視され、すっかりクッションの話になっている。 知盛の部屋に、ピンクのモノが似合うとも思えない。 けれど、白いクッションの隣にピンクのクッションが並んでいるのも悪くないと思い直す。 用というからには、がこの部屋に来るという証でもある。 「・・・ああ。好きなの買うんだな」 「うわ!珍しく素直だぁ〜。じゃ、今日ついでに買おうね」 どうにかの機嫌を損ねずに済んだ知盛。 にとってのサンショウウオは、間延びした顔が可愛いだけなのだろう。 頭の中は、もう今夜のプランを立てる事に大忙しだった。 「う〜んと?こっちだったよね」 ショッピングセンターである。総合スーパーを中心に、小さな専門店が集合している地域。 知盛が気に入っている店は、その一画にある時計の専門店。 時計を売るだけではなく修理まで出来るその店は、個人経営の割りに取扱商品点数が多い。 も知っているその店へ一歩足を踏み入れると、途端に店内の空気が変わった。 「・・・どうした?」 立ち止まったを振り返る知盛。 「・・・・・・別に」 悪目立ちする恋人は、まったく視線を気にしない神経の持ち主である。 一方のはといえば、それなりに周囲の視線を感じる一般人。 「・・・クッ、ほら。来いよ」 知盛に手を差し出されては、に拒否権はない。 やたら注目される中、店内の奥まで進まねばならなかった。知盛と手を繋いでだ。 「・・・頼んでいたモノ・・・取りに来た」 ショーケースの前に立つだけで、名乗らずに注文の品が出てくる客はそうそういない。 「いつもありがとうございます。今、お持ちしますので」 素早く奥の部屋から、修理が済んだ知盛の時計がケースの上に置かれた。 箱を開けて店員が中の時計を取り出す。 「ご確認下さい」 腕時計を目の前にかざす。電池交換もされ、落とした時に外れたバンドの金具も直っていた。 「・・・ああ。これでいい」 引換証を渡すと、カタログを広げられる。 「今回入ってきたのは、この辺りです。ケースですと、ここからあちらくらいまで。いかがですか?」 女性の店員に勧められるままケース内を眺めると、知盛の目に留まる時計があった。 「・・・これはどうだ?」 知盛に呼ばれ、他の時計を見ていたが知盛の指先にある時計を見る。 「・・・これ、レディースだよ?」 「ああ。お前に」 が肩を竦めた。 「いらない。もらう理由ないもん。私、向こうの時計見てくるね」 入り口のショーケースへと歩いて行ってしまった。 「・・・冷たいな」 は理由なしに知盛からの贈り物を受け付けることは無い。 時に、手厳しいほどの拒否を受けてしまう。 贈られて当然という態度の女ばかりだった内裏の女房たちと違って、かなり手強い。 それでも今回ばかりは知盛も譲れない。 「・・・これ・・・これと包んでくれ」 ペアウォッチになるデザイン。文字盤の色違いだ。 (卒業祝いなら文句もないだろう?) ようやく呪縛から解き放たれる時が来たのだ。これだけは買いたかった。 知盛が時計を買い終えると、クッションを買うことになった。 途中、ショッピングモールを見て廻る。 の視線も会話も脱線しては戻ってくる事に慣れていたが、初めて視線が知盛から長く離れた。 (・・・・・・アレか・・・悪くない) 気づかれていると思っていないは、クッションが売っている店の方へ足を向けている。 の腕を掴んで、数分前にの視線を捉えた店へ知盛が強引に入った。 「ちょっ!知盛?!そこは・・・・・・」 も慌てるその店はランジェリーショップ。知盛に用事があるはずのない店である。 「そこのオネエサン。コイツに、あのディスプレイの下着を一式頼む」 「は、は、は、はい!こちらへどうぞ。試着も出来ます」 カップルで買いに来られる事には店側も慣れている。 が、知盛の様な美丈夫が入店して来る事はない。 一番近くにいた店員が慌ててを案内した。 やや年配の店の主任が知盛の傍へカタログを手に近づく。 「こんにちは。彼女にプレゼント・・・でしょうか?」 面倒そうに視線を合わせる知盛。 「・・・彼女・・・いや。違うな」 主任は兄弟だったかと、訂正しようとすると、 「もうすぐ妻だな。アンタなら話が早そうだ。アイツのサイズで他にも贈り物用に用意してくれ」 主任の手からカタログを奪うと、さっさと目的の下着をいくつか決める。 「・・・彼女の好きなタイプにした方が・・・・・・」 あまりに知盛が選ぶ下着と、先ほどが試着へ向かった下着のデザインに差がありすぎる。 つい口を挟んでしまった。 「・・・クッ。だったら、アンタがアイツの好きそうなの選んでやってくれ。俺は自分の好きなモノを 選ぶだけだ。そうだな・・・あの辺りも適当に何でも入れてくれ。のサイズなら何でもいいぜ? 買い物が済んだら最後に来る」 知盛が主任へカタログを返すと、そこへが戻ってきた。 「あ、あのね・・・そのぅ・・・貰う理由が無いの。だけど、可愛かったから試着だけしたよ」 店中の視線を集めているのだ。 買わずに出るのも出にくいし、知盛と一緒なのも照れくさい。 普段が購入する下着とは、かなり値段の差がある、いわば憧れの下着だったのだ。 自分で買うにも厳しいものがある。 が小さくなっていると、の隣に立つ店員が持っていた下着のセットを知盛が手に取る。 「・・・別に?俺のお楽しみ用だ。気にするな・・・これ、贈り物用に頼む」 知盛が後ろ手に下着を投げれば、控えていた主任がしっかりと受け取って礼をする。 「かしこまりました。お時間を少々いただくようなのですが・・・他に買い物がございましたら、先に ・・・というのはいかがでしょう?」 「ああ。その方がいいな・・・はクッションを買いに来たんだったな?」 驚きすぎで、は池の鯉状態。 よりにもよって、ここにいる全員に知盛の発言を聞かれたのだ。 しかも、知盛からへの贈り物であり、知盛のお楽しみ用ともなれば答えはひとつ。 「知盛のお馬鹿ぁ!!!人前でなんて事言うのよぉぉぉ」 ようやく意識を取り戻したが、顔を真っ赤にして知盛の背を叩く。 「煩い客は迷惑だぜ?」 振り返り様にの両手首を掴むと、そのまま口づけた。 「・・・んぅっ・・・んぅぅぅぅぅぅぅ!」 の腕から力が抜けたのを確認して唇を離す。 「・・・騒がせて悪かったな。行くぞ」 の手を取って店を出て行く知盛の後姿を、客も店員もうっとりと見送った。 「羨ましい・・・あんな彼氏・・・・・・」 の相手をした、若い女性店員が呟く。 「あら。大変よ?ものすごいヤキモチ妬きさんだわね。さ、手伝ってちょうだい。サイズはきちんと お計りしたの?店中の下着をかき集めないと、叱られてしまうわ」 知盛が選んだ下着は確実に用意しなくてはならない。その他に、が好きそうな下着もだ。 「ええっ?!そんなにたくさんですか?」 「そうよ。その下着は・・・紐のタイプもあったわね?そうだわ。カタログに・・・おまけも。お菓子 がいいかしら。可愛いキャンディーの詰め合わせを買ってきてくれる?上客だわ!ブライダル用も予約 してもらえたらいいわよね?」 その後の店内の騒動は、大変なものだった。 「知盛!下着、理由がないってば。クッションは買って貰うけど・・・・・・」 「・・・煩いな。ここでもう一度されたいか?」 何をとは聞かずとも、もう一度と言うからには公衆の面前でのディープキスに他ならない。 広々とした通路のど真ん中である。 「嫌だってば!そうじゃなくて・・・・・・」 の手に、時計が入っている小さな紙袋を持たせる。 「・・・クッ、壊すなよ?直ったばかりだ。それに、俺を退屈させない約束だな?」 知盛の視線が痛い。 「・・・ありがと。その・・・嬉しいよ、ホントは。あんな高い下着、買ったことないもん。欲しかった けど・・・バイト代全部無くなっちゃうし。大人の上等なオンナっぽいよね」 知盛との年齢差を気にしなかった日は無い。 けれど、知盛は大学卒業まで待つと言ってくれたのだ。 「・・・さあ?俺は以外、どうでもいい・・・・・・大人も子供もない」 クッションの店まで後少し。家族連れが多くなっていた。 「う、うん。ありがと・・・手、繋ごうね」 わずか数十メートルの距離ではあるが、手を繋いで歩きたい気分だった。 が伸ばした手は、知盛に掴まれた。 「・・・これ、繋いでないよ?」 「ああ。逃げないようにだ・・・気にするな」 さり気なくコドモ扱いをされた。 「・・・・・・いいよ。今日くらい大人しくするから」 いつもなら言い返すだろうに、言葉通りは大人しく知盛に手を引かれている。 知盛が一度手を離して、と繋ぎ直す。 「・・・どうした?」 「どうもしない。いいの、時計壊しちゃったらもったいないから」 密かに気づいていた。修理されてきたのはシルバーの腕時計。 当時のにとってはとても高く感じたし、知盛に一番似合うと思って指差したモノだ。 (知盛が修理までして大切にしたいってコトだよね・・・・・・) 一番大切に想われているのは、なのだと知らされたのだ。 今日は知盛の望むようにと考えを変えていた。 「あった!あれだよ、アレ」 確かに桃色の物体がディスプレイされている。 一番高い棚にあるのが知盛の部屋にあるクッションと同じ大きさだと思われる。 片手を伸ばして軽々と掴むと、に差し出す。 「・・・コレ・・・か?」 「うん!二匹並んでたら可愛いよね?」 (・・・・・・二匹・・・ああ。そういう事か) 知盛の中では“二個”の認識だ。しかし、は“二匹”と言った。 「・・・が・・・使うんだよな?」 「うん。ごろごろってお昼寝の時とか。本を読む時に抱えると楽なんだよ」 「・・・クッ。・・・そんな暇があればいいがな?」 首を傾げるの手を引いて、さっさと会計を済ませる。 「ありがと」 「・・・いいえ?これくらいは・・・な」 が知盛の部屋に来るという証のクッションだ。 見た目はどうあれ、知盛にとって悪くない買い物だった。 最後にランジェリーショップへ戻る。 差し出された袋のあまりの大きさに、が伸ばした手を引っ込めた。 「あのぅ・・・・・・これ、私のじゃないかもです。こんなに買ってな・・・・・・」 「いいんだ。いいから受け取れ」 支払いを済ませた知盛が、の代わりにその大きな紙袋を受け取った。 「えっ?で、でも・・・・・・」 「これからは好きな時にここへ来い。会員とやらにしておいた」 ポイントカードをへ手渡す知盛。 「・・・恥ずかしいなぁ。よく名前書けるよね?」 「・・・クッ。俺の名前のわけがないだろう?よく見ろ」 手元のカードをよく見れば、まんまと名前はになっている。しかも─── (・・・・・・どういう神経してるわけ?) しっかりと『』ではなく『平』になっている名字。おそらく住所も知盛の住所。 少しだけくすぐったい気持ちだが、ここで顔を緩めては知盛の思うツボだ。 「まだ未定なんですけどぉ?」 知盛の背中をつつく。 「あら?三月ですよね?ブライダル用ランジェリーのカタログも袋へお入れしましたよ?ぜひ当店で 揃えていただきたいのですが・・・・・・」 素早く主任の女性店員がへキャンディーの入った可愛らしい袋を手渡す。 「当店からサービスですわ。ぜひまたどうぞ。季節ごとに最新のカタログを送付させていただきますね」 「・・・すみません。はい。また、来ます・・・・・・」 恥ずかしくて真っ赤になる。 今までのように、こっそりこの店に新製品を眺めに来る事は出来そうも無い。 バーゲンの時にセカンドラインを買うのが、精一杯の背伸びだったのだ。 「へえ?そういうのもあるのか・・・・・・ぜひまた二人で来るぜ?花嫁の下着は俺しか拝まないしな?」 振り返ると、主任へ向けて軽く手で合図して立ち去る知盛。 「お馬鹿っ!・・・あの、色々ありがとうございました。また来ます!」 軽く頭を下げると、慌てて知盛の後を追っても店を飛び出していった。 「うふふ。可愛いわね、未来の奥さん。もう確定ですもの、いいわよね」 「・・・あ〜んな格好いい旦那様じゃ、心配で大変でしょうね〜〜〜。でも、羨ましいなぁ」 若い店員は、すっかり知盛に魅せられてしまった様だ。 「どうかしら?カタログは彼のご希望よ。あれだけ買っておいて、まだまだ着飾りたいのでしょうから。 悪戯の結果が楽しみだわ〜〜〜。何でも入れていいって言ったのは彼だし」 小さく笑いを零す。ついでとばかりに、ベビードールも足しておいたのだ。 「あ〜〜〜。・・・主任も彼と同じタイプの人間ですよね。人が悪いなぁ・・・・・・」 「あら。そうかしら?ん〜、そうね〜。彼女の反応が面白くて、つい・・・ね!さ、仕事、仕事」 ここでも知盛とは話題の人物になっていた。 少しばかり悔しいので、知盛にランジェリーショップの大きな紙袋を持たせて歩く。 だが、それこそが知盛にとって有利な事に気づいていない。 「もぉ〜!知盛も少しは恥ずかしい思いすればいいんだよ。もぉ、もぉ、もぉ!」 手を繋いで歩いているのだから、知盛が恥ずかしい理由は無い。 恋人に下着をプレゼントする仲という宣伝にしかならないのだから。 「・・・クッ。買い忘れはございませんか?神子殿」 明日は出なくて済むくらいの買い物をしたハズだ。 知盛は帰ったら家からでるつもりはない。もちろん、を帰すつもりはないという意味でだ。 「ない。あったらコンビニで買う」 (・・・家から出られればな?) 知盛の心の呟きは聞こえはしない。まして、一瞬口元が笑んだ動きがに見えるわけもない。 いつもの如く周囲へ視線を彷徨わせては知盛に話しかける。 「そぉ〜だ!フレーバーティーが美味しかったんだよ?あれ!あれ!」 のんきに紅茶の専門店を指差す。 「ああ。・・・が淹れてくれるんだろう?」 「任せて!今日の食後に淹れるから」 本日最後の買い物は、アップルティーとなった。 |
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まだ大学生の望美と知盛という関係もいいかな〜と。なんとなく懐かしんでみましたv (2006.02.08サイト掲載)