ホワイトデー 2006 (将臣編) 今年のホワイトデーは、平日だった─── 「え〜っと、今日は遅くなっちゃったから・・・・・・」 それでも春休み中のバイトである。 しかも、のバイトは小学生相手の学習塾。そう遅い時間では無い。 考えながら歩いていると、携帯が鳴る。 「あ、?今さ、どこにいる?」 「どこって・・・どこ?」 帰宅途中で、実に説明し難い場所だ。何を言えばと考えていると、 「あはは!お前バカだなぁ〜。いる場所わかんないってのは、迷子って言うんだぜ?」 「失礼ねっ!場所って、住所知らないし、目印言おうと思って考えてたんだよ!」 今日に限っていつもの道ではないのだ。 コンビニに寄ろうと思い立ち、駅から家とは反対の道を歩いている。 「ふ〜ん。が好きなコンビニ方向って言えばいいだろ」 「ええっ?!どうして・・・・・・」 慌てて周囲を見渡せば、道の反対でバイクに寄りかかって手を振る影。 「・・・・・・電話の意味ないよ。呼べばいいのに」 将臣から見える様に電源を切る。 すると、将臣が慌てて車道を横切り走ってきた。 「っ!切るなよ、電話。見かけたからラッキーって思ってたのに」 軽くガードレールを飛び越えて将臣がの肩を掴む。 「・・・何か用事ですか〜?お久しぶりの将臣くん?」 春休みだというのに、一緒に出かけもしない恋人に軽く嫌味を言ってみる。 頭を掻きながら将臣は、振り返りもしないの腕を掴み直した。 「そう怒るなって。ほら、これ。今からの家へ行こうと思ってたんだぜ?」 突き出された小さな紙袋。 ようやく振り返ったの表情は、不審なモノを見る視線だ。 「・・・何か返せばいいやって?」 「あ〜〜!面倒くせえ!いいから!」 歩道でを抱きしめた。 「ほんとは・・・迎えに。電話したら、おばさんが今日はバイトらしいって。だから、 待ってた。そろそろ帰る頃かなって迎えにきてたら、お前、逆方向へ歩き出すし」 「うん・・・・・・」 も駅についてから思いついたのだ。 の食べたいモノがあるコンビニの方向は、家とは反対だと。 「昨日・・・メールしたつもりがさ、電波わるかったみたいで・・・・・・」 「そうなの?」 「ああ。時間遅かったしさ、返事来たかと思って今朝見たら、未送信になってるし」 「カッコ悪い」 「そういうなって。午後さ、一緒に出かけようって俺だけ思ってたわけでさ」 「段取りも悪い」 「あ〜〜〜、ごめん。でさ、家でメシ食おう。俺、用意した」 「ええっ?!将臣くんが?」 が顔を上げる。 「・・・何だよ、信用ねぇなぁ。美味いって。行くぞ」 の手を取り、道を渡ろうとすると腕を引っ張り返される。 「やだ。コンビニ行く。今日はぜ〜ったいにアイス食べる」 そのコンビニのオリジナル商品なのだ。他では買えない。 「・・・あるから。が食べたいって言ってたアイスもあるんだ」 「どこまで買いに行っちゃったの?」 「どこって・・・店まで?とすれ違った時点で俺の時間は空いてるんだからさ」 鎌倉から東京は近くて遠い。わざわざアイスを買いに行ったらしい将臣。 「・・・思いついちゃったんだ?」 「最初は日曜日に行けるハズだったんだけどなぁ。またバイトの代打で行きはぐって。 まあ・・・いいかって思ってたんだけど時間できたから・・・な」 「じゃあ・・・行くっ!ママに電話しなきゃ」 バッグから携帯を出そうとするの手を止める将臣。 「言ってある。家に泊まりで夕飯もいらないって。ついでに、明日は休みなんだろ? 俺も休み。そのまま出かけようぜ。一日遅れだけど、ホワイトデーだしな」 「急に段取りいいんだから・・・・・・」 あの母の事だ。 将臣が言わずとも、がいない方がいいくらいは言ったのだろう。 ぜひ帰るなくらい言ったかもしれない。 (・・・親が娘を泊まらせるって何?) それだけ将臣が信用され頼りにされているという事なのだが、複雑な思いがする。 「あ?どうした。静かだな」 の分のヘルメットを渡す将臣。 迎えに来ていたのは本当らしい。 「だって・・・・・・スカート」 「暗いから大丈夫だ・・・コート、気をつけろな」 が座るのを確認すると、そのまま将臣の家へと向かった。 「ただいま〜」 「ば〜か。誰もいないのに“ただいま”はねぇだろ?」 は常に人がいる家に帰ってるのだなと思わされる瞬間。 「いいじゃない。いなくても、いいたい人に言ったつもりだって。将臣くんて、そう いうのわかんないんだね?」 (わかってないのはオマエだよ・・・・・・) 部屋の明かりが見える時は言っているのだ。 玄関で、に。 (今日は喧嘩したくねぇし・・・な・・・・・・) そのまま言葉を飲み込む将臣。 昨日のメールからして、微妙に神様に邪魔をされている様な、いない様な気分なのだ。 「うわ・・・これ、何?カレー?」 「そ!カレー」 台所で鍋を見れば、カレーが出来ていた。 「スープカレーってのが流行ってるんだろ?米じゃなくて、パンにしたぜ?」 一応はインド風で気合が入っている。 「だけど・・・ラム?!」 「ああ。美味そうだろ?それな〜、残念だがそれは買った」 食べ難さぶっちぎりのラムチョップ。齧り付けという事なのか? 「将臣くん・・・基本的な事なんだけど・・・・・・」 が将臣に意見しようとすると、背中を押されてソファーに座らされる。 「わかってるって。案外上手く出来てるだろ?待ってろ、用意する」 「ちっ、違っ・・・・・・」 彼氏の前で、油まみれはいただけない。 いただけないが、それすら気にしない関係なのだと思えば悪くないのかもしれない。 「手伝うよ!そうしたら早く食べられるよ」 「おっ、さんきゅ!」 仲良く準備し、仲良くパクついたインド風の夕食。 食後は待望のアイスが出された。 「ほら。どっち?」 黒か白。白か黒。 「え〜〜〜、半分ずつにしようよ」 「言うと思った。どっちが先?」 スプーンとアイスを手渡すと、がチョコレートのアイスを取る。 「こっち!こっちがいい〜。すっごく美味しいらしいんだよね」 将臣を待たずにアイスの蓋を開ける。 「食い意地張ってるな〜。俺も食ってみるか」 残されたバニラアイスの蓋を開けて食べ始める将臣。 予想よりはるかに甘い。 「う〜ん。これはアリなのか?」 「アリだよ!これ、アイスじゃなくてチョコだよ〜〜。うはぁ〜んってなるよ?」 にスプーンで差し出されたチョコレートアイスを食べる将臣。 アイスではない。この場合、将臣としてはチョコレートに分類したい食べ物だ。 「ねっ?美味しい〜〜〜!ありがとう、将臣くん。ホワイトデー、豪華、豪華!」 食事とアイスで喜ぶを見ていると、申し訳ない将臣。 最初は不貞腐れていたようだが、やはりはだなと思う。 モノではなく、のためにという気持ちを汲み取ってくれている。 「食わして」 すっかり脱力してテーブルに顎を乗せる将臣。 口だけ開けてアイスを待受ける。 「ナマケモノになってるよ、この人」 とはいえ、アイスは溶けてしまう食べ物だ。 自分で食べては将臣にも食べさせると繰り返しながら残りのアイスを楽しんだ。 「忘れるトコだった。それ・・・今度は受け取れよ?」 一度拒否された紙袋を、再びに手渡す将臣。 「あ・・・ごめんね?だってさ、何か渡したら終わりって勘違いしちゃって」 コンビニの前の時点では、気持ちをモノで返された気がしてしまったのだ。 真っ赤になりつつ、両手でが将臣から紙袋を受け取った。 「・・・二つ入ってますケド?」 「ああ。俺の分。ただなぁ・・・の指って、だいたいこれくらいかなって買ったから。 もしもの場合は交換しねぇとな」 思いっきりペアリングである。 「あははは!将臣くんってさ、こういうの好きだよね?昔もそうだった」 どこから知識を仕入れるのか、大雑把な割には世間と同じ事をしてくれたりする。 「はい、手を出して下さい」 「あ゛?俺か?」 将臣の左手を取ると、その指に指輪をする。 「予約完了!これで将臣くんに悪い虫がつかないね!」 「おい、おい・・・・・・」 将臣がしたかった事を、に先にされてしまった。 への虫除けに指輪を着けさせたかったのは、将臣の方である。 (・・・コイツ、自覚ねぇ・・・・・・) テーブルに顔をつけて、溜息を吐く。 は気さくなので人気がある。 その上見た目が可愛いとくれば、誰もが声をかけるのだ。 性格が天然なので誘われている事実に気づいていないだけで、殆ど学校へ姿を見せない 将臣が彼氏であるという認識が周囲に薄い。 ただの幼馴染と思われているのが、テストの前に偶然食堂で会話を聞いて判ってしまった。 『先輩って、彼氏いるのかな?』 『さ〜なぁ〜。友達のガードが固くてキツイよな。いつも隣にいるの、幼馴染らしいぜ?』 『なんだ。あれ、彼氏じゃないのか。邪魔だよな』 『それよりさ、あいつも狙ってるらしいぜ?』 『あいつ?サークルの?』 (・・・・・・ホイホイついて行くなよ?) の知らない所でを守るしかない。 まずは外観からとばかりに指輪に決めたのだ。 「将臣くん?な〜に〜?嫌なの?だったら買わなきゃいいのに」 の口が尖る。 「・・・違う。先にするなよ・・・マジへこむ・・・・・・」 「へ?」 の手を取り、その指にオソロイのリングをはめた。 「・・・俺の彼女だからな?自覚するように!」 真面目ぶってに言ってみる。 ふざけて言うのは、否と言われた時に冗談で逃げられるからだ。 「彼女なの?格上げかと思ったのにぃ。ママの嘘吐きぃ・・・・・・」 指輪を見つめながらが俯く。 「・・・嫌なのかよ」 の手首を掴んで引くと、もテーブルに伏せる姿勢になった。 「違う・・・でも・・・・・・」 「不満なんだろ?嫌なら嫌って言っていいんだぜ?」 にしては珍しく、口篭っている。 「ママが・・・指輪もらえたら婚約だって言ってたんだもん・・・・・・」 「はぁ?!婚約って、オマエそれ・・・・・・」 将臣は額へ手を当て、天井を見つめる。 「そんなに嫌がらなくてもいいでしょ!おば様だって、いつでもお嫁に来なさいって」 「マジ?」 が大きく頷いた。 「おじ様とパパなんて、家と将臣くんちの間の壁壊す相談してたもん」 「・・・母さんもなぁ。息子すっとばしての予約すんなよ・・・っとに。しかも、親父 たちはいい年して何考えてんだ。俺の立場ってもんが・・・・・・」 「立場って?」 将臣が立ち上がり、を抱えてソファーへ座りなおす。 「あのな、俺が働いてを食わせる自信がついたら申し込むって決めてたんだ。先にに そんな事言われて、俺はいつ言うんだよ?」 がしばし考え込む。 「順番なんていいじゃない。いいよ?私も働きたいし。先に一緒に住んでもいいよね」 (・・・コイツ、絶対にわかってねぇ・・・・・・) 「明日の外出中止での引越しに変更。もう、ここへ来い。狭いけど、いいだろ」 「ええっ?!将来の話をしてたんじゃないの?」 が大きな瞳で将臣を見上げる。 「順番は何でもいいんだろ?親の監視付はごめんだ」 「もぉ!ここにだっていないくせに、監視も何もないでしょ」 がさりげなく拒否する。 将臣がいないのに一緒も何もありはしないのだ。 「ただいま・・・って言わせろよ。どうなんだ?そういうのは」 「えっ・・・・・・それは・・・・・・うん!いいよ。毎日おかえりなさい言ってあげる」 早めのご予約が成立したホワイトデー。策士な親達に嵌められたのは、誰? |
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両親公認って、どこまでも突き進みそうで。哀れなのは譲くんなのでしょうか〜?あらら? (2006.03.14サイト掲載)