退屈の虫 2007 (知盛編) 「退屈〜〜〜」 ごろりと大の字になる。 ようやく夏休みの課題が終ったところである。 「そぉ〜だ!」 ころりと横向きになり起き上がると、知盛の部屋へと向かった。 異世界より想い人を連れて戻ってきた。 残念ながらの年齢は元のままだった。 おかげで大学生になってようやく同棲が認められた。 実のところ、が二十歳になると同時に入籍済みでもあったりする。 そして、学生最後の夏休み。 ゼミの課題と卒論さえ出せば大学へは行かなくていい身分だ。 そうとなれば早めに資料を集めて卒論らしきを課題と一緒に提出すべく、 一週間部屋へ引き篭もっていたところ。 「知盛。入るよ?」 知盛の部屋のドアの前で主に許可を得るべく名前を呼ぶ。 まともな返事は期待できないしされた事もないので、声だけかけて 勝手に入る事にしている。 「入りま〜す」 互いの部屋にだけは勝手に入らないというルールを決めたのはだ。 ぺたぺたと裸足で歩いて床に転がる知盛に近づく。 知盛は順応性が高く、すぐにこちらの生活に慣れた。 ただし、慣れると楽は別なようで、椅子よりはソファー、ソファーよりは 床に座るのが楽らしい。 しかも、夏場は転がってばかりいる。 暑そうに思うのだが、存外床は涼しいとは知盛の言。 長年の習慣だけは変えるつもりもないようだ。 朝から出来るだけの邪魔をしないよう、部屋でぐうたらしていた様子。 本気でが邪魔をして欲しくないという気配を察知するのが上手く、そのような 時は相手をされないのを知っていてこうしてぐうたらしているのが常だ。 ところが、珍しい事にが近づいても振り向いてもくれない。 いくら転がって寝ていようとも、一寸も動かないのは珍しい。 が知盛の上に十字に重なるように乗りかかった。 「知盛!」 「・・・・・・重い」 「むむぅ。女の子に重いって失礼だよ!」 体の向きを変え、知盛の頬を両手で挟みこむと、 「ちゅ〜〜〜!」 が知盛にキスをした。 逃げる理由もないのでされるがままにしていたが、知盛が望むものには程遠い。 捕まえようとするとその前に逃げられた。 「クッ・・・いかがされた・・・神子殿」 「知盛って、私に何か文句ある時“神子殿”って呼ぶよね〜〜〜」 慣れたもので、寝ている知盛の腕が届かない程度に距離を置いて座っている。 「さあな。・・・俺に用事があるのではなかったのか?」 わざわざのほうからちょっかいを出してきたのだ。 知盛が片手をへと差し伸べた。 「用事じゃなくって・・・・・・ちょっと退屈だなって思っただけ」 再び知盛のもとへと戻り、その上へ乗ると、足を動かしながら用向きを告げる。 知盛の片腕がの腰へと回され、 「ほう・・・そういう用向きならば賛成だ」 空いている手が素早くのキャミソールの中へと侵入を果たした。 「おバカ〜!そんなの用事じゃないし。しかも、しないってば」 暴れて知盛の腕から脱出し、馬乗りで知盛の二の腕を押さえつける。 「・・・・・・クッ、クッ、クッ。俺を組み伏せるとはたいした神子殿だな?」 最初から本気で仕掛けたわけではないが、に押さえつけられるとも考えて いなかった。 「笑うトコじゃないし。しないって言ってるのにお尻触ろうとしているこの手が ますますバカっポイし」 が知盛の腕を押さえなければならなかった根拠はそれなりにあり、過去の 失敗を踏まえるならば先手必勝。 腕を使えないようにするまでだ。 「楽しい事を御所望ではなかったのか?」 「知盛だけが楽しくなりそうだもん」 知盛を組み伏せたまではよかったが、いつ逃れるかタイミングがつかめない。 隙があれば形勢逆転されてしまうからだ。 「・・・退屈であらせられるのだろう?気持ちいいのは楽しいだろう?」 饒舌な知盛を訝しく思うが、も離れる機会を窺いながらなので返答に 間が空いてしまう。 「・・・しないもん」 がの腕が痺れてきた頃合を計り、知盛が一気に起き上がりを抱き寄せた。 「やだっ!しない」 「ああ。しない。いいから寝ろ!」 「きゃっ!!!」 を抱えたまま、今度は横になって転がる知盛。 当然ながらも向かい合ったままで横になる。 知盛の手のひらがやんわりとの背を二度叩くと、そのまま緩やかに回された。 「夏は・・・退屈で丁度いいんだ」 閉じられた知盛の瞳。 その態度からは本当にこのまま昼寝をするとしか思えない。 「ど・・・して?退屈嫌いって言ってたじゃない」 警戒を解き、知盛の頬へ手を添える。 すると、再び紫の瞳に映る事が出来た。 「こちらではどうか知らないが・・・暑い時は暑いなりの過ごし方というものがある。 動かなければ涼を得るし、無駄に消耗しても意味がない。夏は・・・動かずに済めば それで丁度いい」 「ナマケモノ〜〜〜」 口では否定らしき返答をしたものの、知盛の部屋はいささか涼しすぎる。 知盛に擦り寄るようにして瞳を閉じると、程よい温かさが伝わり睡魔が訪れた。 「気持ちぃ・・・・・・」 そのまま心地よさに引き込まれるように眠りにつく。 「そうだ・・・な。程よい温かさが・・・悪くはない」 やや冷たく感じたのために、後ろ手でシャツを掴むと肩からかけてやる。 知盛よりも先に眠りついてしまった眠り姫には、知盛の返事は聞えなかっただろう。 涼しい部屋の中でのお昼寝タイム。 こうしての退屈虫は退治された。 |
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知盛くんは暑いと動かないかな〜と。部屋の中は涼しいからごろごろv (2007.09.04サイト掲載)