退屈の虫 2007 (銀編) 「退屈〜〜〜」 ごろりと大の字になる。 ようやく夏休みの課題が終ったところである。 「そぉ〜だ!」 ころりと横向きになり起き上がると、重衡の部屋へと向かった。 異世界より想い人を連れて戻ってきた。 残念ながらの年齢は元のままだった。 おかげで二十歳になってようやく同棲が認められた。 実のところ、が大学を卒業する日に入籍してしまおうと目論見中。 両親ともに感づいてはいそうだが、特に何かと見逃してくれている母親は しっかり見逃しまくってくれるだろう。 そして、学生最後の夏休み。 ゼミの課題と卒論さえ出せば大学へは行かなくていい身分だ。 そうとなれば早めに資料を集めて卒論らしきを課題と一緒に提出すべく、 一週間部屋へ引き篭もっていたところ。 「銀〜、入るよ?」 重衡の部屋のドアの前で主に許可を得るべく名前を呼ぶ。 いつもならば即座にその扉を開けてくれるはずの部屋の主の反応がない。 そのような事が過去になかったわけでもないので、気にせずにドアを開ける。 「入りま〜す」 互いの部屋にだけは勝手に入らないというルールを決めたのはだ。 ぺたぺたと裸足で歩いて机で何かに夢中になっている重衡の背後に近づく。 重衡は順応性が高く、すぐにこちらの生活に慣れた。 ただし、慣れると楽は別なようで、椅子よりはソファー、ソファーよりは 床に座るのが楽らしい。 かといって、正しい姿勢で椅子に腰かけるのも気に入ったらしく、何かと 真面目な重衡を見ているとは楽しい気分になる。 もっとも、が気づいていないだけで、記憶が戻っている重衡の巧妙な 作戦だという事実がそこにはある。 に色気は通用しない。色気より食い気、そして真面目である事。 さらに、僅かばかりの同情を誘う方が効き目があることを熟知している。 そんな重衡にとってのいう事は絶対であり、が邪魔をするなといえば 共に居たくともいられない。 と居られない時にする事は決まっていた。 「何してるの〜?」 ぴたりと重衡に背後から抱きつく。 重衡は椅子に座っているので、その耳に悪戯がてらキスをした。 「神子様?!申し訳ございませ・・・・・・」 の気配に気づいてはいた。 ただ、時々無反応を装っての気持ちを知りたいのだ。 (・・・神子様から私に触れて下さった・・・・・・) 安堵の心中を覚られるほどマヌケではない。 振り返り様にを抱き寄せ、膝へと導く。 「神子様?そのように可愛らしい事をされると・・・私は続きを期待しても よろしいのですよね?」 唇を合わせての様子を窺えば、残念ながら承諾ではないらしい。 「続きって・・・銀って時々えっちだよね〜。何してたの?私はね、退屈に なったから来ちゃった。課題だけ一応終ったの」 重衡が見ていたものはインターネットの口コミサイト。 がマウスに手を伸ばし、もうひとつの画面を見ると─── 「・・・銀?またスイーツ買うつもりだったでしょ?もぉ〜〜〜」 「申し訳ございません・・・神子様に喜んでいただくのが私の楽しみなの ですから、そのように頬を膨らませるものでは・・・・・・」 最近ではネットで買うという事まで覚えた。 案外和菓子の老舗でもネットショッピングで買えると知ったのだ。 のためにありとあらゆる情報を入手し、美味しいとなれば買いまくる。 ところが、はスタイルを気にするお年頃。 美味しいモノと重衡の隣に似合う女性像の間で揺れ動く心と日々格闘中。 「これは怒ってるんです!食べなくてもこんなになっちゃったらどうするんですか。 パンパンに膨らんじゃって!!!」 夏場はアイスクリームやシャーベットを食べ過ぎる傾向にある。 昨晩、やや増えてしまった体重にショックを受けたはご立腹だ。 あれば食べたいのが人情というものだろう。 「どのようなお姿でも、神子様は可愛らしゅうございますよ」 「嫌なのっ。銀のお隣に並んでお似合いって言われなきゃ嫌なんだからっ」 しっかりと重衡にしがみ付き、その顔を隠してしまった。 「神子様?申し訳ございませんでした。私の考えが足りな・・・・・・」 「謝らないでっ。銀は悪くないんだから」 は気持ちの行き場がなくてイラついているだけだと理解した重衡。 やんわりとを抱きしめ、とっておきの呪文を使うことにした。 「大丈夫。ずっと変わっておりませんよ、」 耳元で名前を呼ぶ。 すぐにの耳が赤くなり、その反応を確認した重衡の口元が笑むが、 には見えないだろう。 自身が重衡にしがみ付いて顔を隠しているのだから。 「昨夜は・・・少々塩分の多い夕餉でしたから浮腫みはございませんか? 夏場は汗をかくと塩分が不足すると思っていたのですが、神子様はずっとお部屋で 勉強をされていた事ですし・・・・・・今日は体内の循環をよくする食事に いたしましょう」 恐らくが気にしているのは体重だと辺りをつける。 考えは当たっていたようで、が顔を見せた。 「そう・・・かなぁ?」 「何かございましたか?そう、そう。退屈なのでしたね。それでは、私と かき氷を作りませんか?あれはシロップ分だけのカロリーですよ」 「ほんとに?そうだよね・・・アイスよりいいよね?」 重衡の作るかき氷は、本当に氷を削るかき氷。 ふわふわと美味しいのでついつい食べ過ぎるが、アイスのカロリーよりは かなり低いことは間違いない。 「もちろんでございます。シロップではなく、餡にされれば栄養も甘味もあり 美味しいのではないかと・・・組み合わせはご自由ですよ?」 一気に誘い込むのはいつもの手だ。 機嫌が上向いた時にの不安を取り除けばいい。 「うん!そ〜しよ。おやつにしよ〜〜。銀、大好き!」 いつもの事を一番に考えてくれる人。 そして─── 「銀も変わってないからね?ずっと・・・格好いいままだよ。大好き」 真っ赤になりながらも気持ちを告げてくれる。 「貴女の涼やかなお声と笑顔が何よりの喜びです。さあ、準備をしましょう」 涼しい部屋の中でのおやつタイム。 こうしての退屈虫は退治された。 |
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銀と神子の関係は、尽くす方と尽くされる方が普通と逆なのがイイなと思うのです。だから銀が尽くしてる! (2007.09.04サイト掲載)