退屈の虫 2007     (将臣編)





「退屈〜〜〜」
 ごろりとベッドヘ大の字になる
 ようやく夏休みの課題が終ったところである。
「そぉ〜だ!」
 ころりと横向きになり起き上がると、机がある部屋から居間へと向かった。



 異世界より幼馴染たちと無事に戻れた
 こちらでは近すぎて言えなかったが、どうにか幼馴染の一人である将臣と
思いを交わすことが出来た。
 が、戻って驚いたのは互いに年齢は元のままだった。
 とはいえ、両家共に子供が生まれる前からの知り合いだ。
 二人がなるべくして恋人同士となったのならばと、あっさり二人の同棲が
大学生となったことで認められた。
 そんなこんなで二人で過ごした学生時代、最後の夏休み。
 ゼミの課題と卒論さえ出せば大学へは行かなくていい身分だ。
 そうとなれば早めに資料を集めて卒論らしきを課題と一緒に提出すべく、
こつこつと机に向かって勉強を続けていたところ。



「将臣くん。退屈〜〜〜」
 珍しくバイトがないらしい将臣は、食べ終わったアイスのバーを口に咥えた
まま、ソファーに背を預けてラグに座りテレビを観ていた。
 正直、そう広い部屋ではない。
 部屋も寝室兼勉強部屋と居間らしきの二つだけ。
 隣ともいえない隣からの移動をしてきたを、テレビから視線を移さない
ながら両手を広げて待ち受けてくれる将臣。
 その将臣に膝をついてが抱きついた。

「退屈」
「あ〜?課題してたんじゃないのか?」
 アイスのバーをテーブルへ置くと、片腕をの腰へと回した。
「うん。終ったんだ〜。ご褒美にデートしようよ」
「へ〜〜〜、写させ・・・・・・」
「ありえない」
 将臣の要求は却下され、即座に背中を抓られた。

「ま、そっちは後でなんとかするか。卒論終らせちまえよ」
「なんか将臣くんに言われたくないな〜。いつ提出するつもりなの?」
 将臣がテレビを観るのに邪魔にならない程度に向かい合わせに座り直した。

「ん〜〜〜・・・五月の連休明けに提出済みだな」
「・・・はい〜?!そんなの聞いてないよ!」
 が将臣の両耳を摘まんで無理矢理視線を合わせさせる。

「・・・言ってなかった・・・かもな?」
「知らない、そんなの。・・・それこそ最後に恩返しに写させてよ」
 ほとんど大学に来なかった将臣が提出済みでは、せっせと通って真面目に講義を
受けていたの立つ瀬がない。

「無理。お前の嫌いなテーマだからな〜。写したらバレる。間違いない」
 楽しげに笑う将臣がなんとも憎らしい。
「私だけ丸損だよ〜〜〜、何ソレ」
「まあそう言うなって」
 宥めるようにを抱き寄せ、その背を撫でて落ち着かせる。


 に内緒で提出を済ませていたのには理由があった。
 の卒論を写したと思われないために、が苦手としているテーマに設定
したのもそのためだ。
 早めに卒業の単位をそろえて就職活動を済ませ、仕事を決めておきたかったし、
何より最後の夏休みにを独占したかったという志がかなり低い理由もある。


「自動添削辞書機能つきで卒論を書ける環境はいかがですか〜ってな!」
「・・・文章って人に見せながら書きたいものじゃないし」
 まだまだ不満顔の
 の性格からして卒論を夏休みに仕上げたいことなどお見通しだ。
 だからこそ海にも行かず家に居る将臣。

(ほんっとに男心がわかんないヤツだな〜〜〜〜)
 性格はさっぱりハキハキしているのだが、こと恋愛感情になるとかなり鈍い。
 将臣と譲がお互いを牽制してに気持ちを伝えられずにギクシャクしていた
ことにも気づいていなかったくらいだ。
 今でもそのような事実があった事を知らないだろう。
 譲が哀れでならないが、こればかりは弟だからと引くことは出来なかった。
 特に、異世界で離れ離れになり、必死に二人を捜していた時に思い知ったのだ。
 に対する気持ちの深さを。
 
(涼しい家で二人ってのは退屈じゃないと思うけどな?)
 実際テレビはつけていた程度だ。
 の気配を窺ってばかりいたのに、それにも気づいていないらしい。


「いいから、いいから。さっさと終らせて旅行でもしようぜ」
「旅行よりアイス食べたい。旅行は秋がお得だし〜」
 レポート用紙を取りがてら、冷蔵庫へ寄ろうとしたに無常な将臣の声。

「わりぃ。これ最後だった」
 テーブルの上のバーを指差す将臣。


「信じられない、信じられない、信じられなーーーーい!!!」
 地団駄を踏むの行動が幼い時から変わっておらず、つい将臣が笑ってしまう。

「何笑ってるのよ〜。アイス、アイス、アイスーーーー!!!」
「わかったって。卒論書いてろ。買ってくるから」
 膝に手をあて将臣が立ち上がると、
「それじゃ自動添削辞書機能つき便利くんがいなくなっちゃうもん。そんなの嫌」
 知ってか知らずか、将臣を惑わすのがとにかく上手い
 これには額に手をあて将臣が苦笑いする番だ。

「・・・っとに。お前には参るよな〜。少し卒論したら、軽くデートがてら買いに
行くというのではいかがでしょうか?神子殿」
 ふざけての手を取り、恭しく一礼をする。

「デート?夕方からがいい。そうしたら外も涼しいもんね。夕飯も食べてこよう?
それとね〜〜〜」
「まだあるのかよ」
 指折り数えだすにまたも笑うしかない将臣。
 そんな将臣に背伸びしてがキスをした。

「アイスは将臣くんのお小遣いから買ってもらう。あの高いヤツ」
 家計と各自の小遣いは別管理だ。
 つまり、の要求するアイスは将臣のおごりという事になる。

「へ〜〜い。たまにはいいさ。本とレポート持ってこい」
「うん!」





 涼しい部屋の中での勉強タイム。
 こうしての退屈虫は退治された。







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大学生最後の夏休みって、ぐうたらして終ったような記憶が・・・・・・。     (2007.09.04サイト掲載)




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