退屈の虫 2007     (景時編)





「退屈〜〜〜」
 ごろりと大の字になる
 ようやく夏休みの課題が終ったところである。
「そぉ〜だ!」
 ころりと横向きになり起き上がると、景時の部屋へと向かった。



 異世界より想い人を連れて戻ってきた
 残念ながらの年齢は元のままだった。
 おかげで大学生になってようやく同棲が認められた。
 実のところ、が二十歳になると同時に入籍済みでもあったりする。
 そして、学生最後の夏休み。
 ゼミの課題と卒論さえ出せば大学へは行かなくていい身分だ。
 そうとなれば早めに資料を集めて卒論らしきを課題と一緒に提出すべく、
一週間部屋へ引き篭もっていたところ。



「景時さん。入るよ?」
 景時の部屋のドアの前で主に許可を得るべく名前を呼ぶ。
「な〜に〜〜〜?どうぞ〜〜〜」
「入りま〜す」
 互いの部屋にだけは勝手に入らないというルールを決めたのはだ。
 ぺたぺたと裸足で歩いて床に座る景時に近づく。



 景時は順応性が高く、すぐにこちらの生活に慣れた。
 ただし、慣れると楽は別なようで、椅子よりはソファー、ソファーよりは
床に座るのが楽らしい。
 それこそ長年の習慣だけは変わらないようだ。



 朝から出来るだけの邪魔をしないよう、胡坐で本を読んでいた様子。
 ここまではよくあることだ。
 ところが、珍しい事にが近づいても振り向いてもくれない。
 本に没頭しているらしく、ほとんど姿勢も変わらない。
 がその広い背中に負ぶさった。

「景時さん!」
「〜〜〜ちゃん?!」
 振り向こうにもの腕が首に回されていて振り向けないでいると、
「ちゅ〜〜〜!」
 頬にの唇が触れる。
 後ずさろうにもが背中におり、完全に動きを封じられていた。

「どどど、どうしたの?その・・・あれは・・・えっと・・・・・・」
 シドロモドロでがしなくてはならないモノについて言おうとする。
「課題の方だけは〜・・・終ったんですよね。でね、退屈なんです」
 景時の背中が気に入ったのか、が離れる気配は皆無。
「そそそ、そっ、そうか〜〜〜。それはいいね、うん」
 何がいいのか我ながら口にしていて意味不明である。
 とりあえず何か言わなくてはと思うが頭の中は真っ白。
 背中にある感触が景時の思考を奪い去る。
 まったくもって本にも集中できなくなっていた。

「景時さん。楽しい事しましょうよ〜」
「・・・・・・・・・・・・はい〜?」
 声がこれ以上ないぐらいに裏返る。




 意識を取り戻した景時の行動は早かった。
 素早くを自分の背から引き剥がし、姫抱っこで寝室へ運び込む。
 そのまま抱きしめてキスをしたまではよかったが次は無かった。
「何を考えているんですか、景時さん。楽しい事って言ったじゃないですか」
 ぐいぐいと景時を両腕で押し返す
「え〜っと・・・楽しいコト?」
 違ったのだろうかと語尾を上げてみた。
 少なくとも景時にとっては楽しく至福の時間・・・になる予定だったからだ。

「むぅぅぅぅ!こういうのじゃなくて。お買い物とか映画とかデート!」
 夕飯の買い物もした方がいいのだろうが、ここでいう買い物は実際に買う
という行為よりは、見て歩くに比重がある買い物である。
 景時の頬を指でぐりぐりと押した。

「あ・・・そういうこと?デートね、デート。・・・外は暑そうだねぇ」
 薄手のカーテンが閉まっているにもかかわらず、日差しからその気温の高さが窺える。
 外出が嫌いなわけではないが、一度思い立ってしまった楽しいコトからの
切り替えは難しかった。
「・・・暑いだろうけど・・・・・・せっかく二人ともお休みなんだしぃ」
 景時も夏休み。
 学生に比べれば九連休は少ないだろうが、続けての休み。
「うん・・・みんなも休み・・・だよ?」
 少しだけ悲しげな瞳をしてに再びキスをする。
 ようは混んでいるから家にいようと誘導したい。
 そうとは知らないが景時を気遣いだす。

「渋滞・・・は時間がもったいないですよね?」
 景時と目を合わせ、反応を確認する
「うん。家がいい」
 正しくはこのまま続きがしたい。
「それは嫌。そうじゃなくて、退屈なんですもん」
「え〜〜〜」
 反論するにはの退屈を奪う何かが必要。
 何かが見つからないのだが、景時はこのままがいい。
 とりあえずは否定だけした。

「え〜〜〜って・・・景時さんは読書したいの?何を読んでいたんですか?」
 が呼んでも振り返らないほど没頭していた本。
 続きが読みたいのだろうかという事と、その内容がそれなりに気になり
尋ねてみた。
「あ、あれ。別に・・・普通の本。どちらかというと・・・漫画?」
「漫画?」
 景時らしからぬ本を読んでいたという事実に興味をひかれ、が起き上がって
景時の部屋を目指した。




 床に高々と積み上げられている本に目をやれば、間違いなくカラフルな表紙とイラストが
目に入る。
「・・・誰に借りたの?」
「将臣君。何だかね、研究しろって」
 何を研究させたかったのだろうか、将臣が景時に貸した漫画は一時話題になった本。
 単に部屋の中で邪魔になって押し付けたとも考えられる。

「・・・漫画で何を研究しろっていうのかな、将臣くん。わかんないね」
 とはいえ、話題の時に読まなかったその本を手に取るとも読み始める。
 この、つい始めてしまう行為は案外止められなくなったりする。
「う〜ん。わかんないんだけど・・・面白いよ?」
 と背中合わせに座ると、景時も先ほどの続きを手に取り読み出す。





 涼しい部屋の中での読書タイム。
 こうしての退屈虫は退治された。








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どうしても読書に帰結してしまいますね〜。景時くんに読書家なイメージを持っているからかな?     (2007.09.04サイト掲載)




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