食欲の秋     (将臣編)





 秋だよな〜って、学校じゃ学園祭の話題で持ちきり。
 皆で何かをするのも悪くはねぇケド。
 俺が見たいのは、昔も今もアイツの笑顔だけなんだよな。



!明日の予定は?つか、今日の帰りなんだけどよ・・・・・・」
 くされ縁とは、上手い言葉があるもんで。
 とは同じクラスになることが多かった。
 まさか高校まで一緒で同じクラスになるとは考えてもいなかったけどな。
 さらに大学まで一緒とは、ずっとこのままでいられるって勘違いしそうになる。

「帰り〜?将臣くんのバイトは?」
 長い講義と俺の昼寝が終わった時に、隣でせっせとノートを取っていただろうに声をかけた。
「今日は無いんだ。メシ食いにいかね?」
「それって、おやつ?夕ご飯?」
「メシってのは、夕飯だろうが!」



 譲との兄弟関係にもヒビが入りまくりだった時期もあったけど。
 その後の異世界での出来事は、決定的に俺たち兄弟の運命を分けた。
 と離れていた三年間に嫌というほど思い知らされた。
 が好きだという事を。
 もしかしたら、といるであろう弟の存在に安堵をしつつ、嫉妬もしていた。
 アレがあったから、今がある気がする。
 譲には悪かったけどな。いつかはハッキリさせるべき事だったよな。



「やだ〜!髪がぐしゃぐしゃ。将臣くんって、すぐに頭なでる〜〜〜」
「いいからメシ。・・・行くのか、行かないのか?」
 まあ・・・悩んで当然。俺が外に誘うのは珍しいもんな。
「・・・今日は、夕飯にラザニア作る予定だったんだよ?」
 コイツを誰にも奪われないよう、しっかり俺の一人暮らしの部屋に引き取った。
 世間じゃ同棲とかいうんだろうけどな。昔から隣で一緒が普通だったんだ。
 離れてた時期の方が違和感だっての。
 しかも、両親公認という・・・あり難いんだかそうじゃないんだか。
「そりゃ失礼しました。さっき思いついたんだから仕方ねぇだろ?」
 そう。まさについうっかり昼時の学食でみたテレビのニュース。

 『今日は、仲秋の名月に期待できそうですね』

 締めの挨拶だったんだろうが、月といえば酒。その前に月見。
 行事なんて気にするタイプじゃなかったが、あの京の生活で見に染み付いた風流もどき。

「どこか決まってるの?お店」
「いや。何?、行きたい店でもあるのか?」
 こいつには本当に何もかも我慢させちまってる。
 バイト最優先の生活の俺。とそうそうデートする暇があるわけがない。
「う、うん。あのね・・・・・・」
 たまにはに付き合って、おしゃれなお店なるものに行ってみた。





 俺の肩こりと引き替えに行った店の料理は、料理よりも盛り付けの問題だと思う。
 いかにもキレイな皿に、素晴らしく少量を上手く並べ立て。
 味は悪くはなかったけどな。
「将臣くん?足りなかった?お腹空いてる?」
「いや〜?・・・コンビニ寄る程度くらい」
 正直、食べるのが面倒なものは苦手。ちまちまと食べるのは性に合わない。
「その・・・嫌だった?」
「あ?違う、違う。お菓子と飲み物。あと・・・明日は朝早くから出かけるからな〜」
「明日って?」
 言った。間違いなく、学校で。
「・・・聞いてなかったのか?明日も出かけるって」
 軽くの額を弾けば、両手で押さえてやがる。
 小さい時から変わんねぇ、コイツの顔と仕種。
「聞いたけど・・・朝早くって・・・・・・」
「ああ。少しバイクで遠出するから。起・き・ろ・よ?」
 普段は起きるくせに、休日の朝は起きねぇんだよなコイツは。
 隣でぐーすか寝てて、土日の朝飯はその辺で食べていくのが俺の習慣。

「私も行くの?」

 でた!天然ボケかまし。
「あのなぁ?俺が一人で行くのに、どうしてオマエの予定を聞くんだ?」
「あ、そうか。そうだよね。じゃあ・・・目覚ましかけなきゃ」
 時々、どうにも危なっかしい。
「いいから乗れ。帰るぞ」
「うん!コンビニでアイス買お〜っと」
「マジ?」
 俺の背中にしがみつくを振り返る。
「別腹」
「ありえね〜!実はが食い足りなかったってオチかよ。んじゃ、行きますか」
 軽くバイクのアクセルをふかしてから走らせた。





 翌朝、寝ぼけ眼のを背中へ括りつけて高速へ乗る。
 行き先は山梨。事前に調べたところじゃ、向こうの方が美味い感じだったしな。
 こういう時に早く車を買わないとな〜と思う。
 晴れたからいいようなものの、遠出には辛い。そして、が寝ちまったらと心配で仕方ない。
 途中、何回かの休憩を挟んでようやく勝沼に着いた。

「お尻・・・痛いよぅ、将臣くん」
「そう色気の無いこというなよ。ま、食ったら元気になるだろうケド?」
 駐車場の看板を指差しただけでの瞳が輝きだす。
 ・・・実にわかりやすいよ、オマエは。

「ぶどう!ぶどう狩りだ〜。わ〜〜〜。早く行こうよ、早く!」
「今、ケツ痛いってぶ〜たれてたのは・・・・・・」
 俺の背中を叩いて、すぐさま手を引っ張られる。
「デリカシーが足りないのは将臣くんの方だよ。早く行こう。私には甘いものが必要だよ!」
「へ〜、へ〜」
 こんなに喜ばれたことが嬉しいんだけど。俺よりブドウね。はい、はいっと。



 大人しくの後ろをカゴ持ちとなってついてまわる。
「これ!これがイイ」
「これか?」
「その隣!」
 に言われたブドウをひと房取ってやると、その場で一粒が食べた。
「・・・あま〜い!これ、なんていう品種なんだろう?」
「マスカットビオレ・・・だとよ」
 少し周囲を見れば、木の根元に品種の説明書きがあった。
「へ?こんな色だっけ?将臣くんも食べてみて!」
 あっさり一粒摘まんで出されたが。これをどうしろと?・・・食うんだろうなぁ。
 仕方無しに口を開けば、まんまとの指まで食べることになる。
「甘いよね?これ・・・お土産にしよ〜っと」
 再びツマミグイしているは無意識だろうが、お前の指食ったんだぞ?
 なんちゅうか・・・中学生レベルだよな、これじゃ。
 どうにも翻弄されまくりだが、そのまま土産用のブドウをいくつか選んで。
 名物のほうとうを無視してうどんを食べて。
 再び鎌倉目指してバイクに乗った。






 鎌倉には夕方に着いて、そのままの家へよって土産を置いてから二人の家へ帰る。
 秋は日が落ちるのがとても早く感じる。
 まだまだ遊びたいが、早く暗くなっても欲しくて。
 微妙な気持ちのまま、が夕飯を作るのを眺めていた。

「なあに?今日は楽しかったね!そろそろブドウ冷えたかな〜」
 冷蔵庫には本日の収穫のブドウが冷やされている。
 そんなに何度も開けてちゃ冷えるのか〜?
「・・・夕飯、ラザニア?」
「そんなわけないでしょ!秋の定番料理にしたよ」
 そういってテーブルに並べられたのは、パスタに見える。問題は具だ。

「あ〜!その明らかに不味そうという疑いの目!よくないよ〜、そういう先入観は。きのこだよ」
 様々なきのこがいれられているだろうソレは、肉らしきものが無い。
「将臣くんは、コドモっぽいもの好きだよね。大丈夫、作ってあるから」
 何を?それこそ何が出てくるのかとの背中を眺めていた。

「はい!ミニハンバーグとタコさん付。どう?これなら将臣くんもお腹がいっぱいになるでしょ」
 ついでにいうと、鶉の目玉焼きとサラダもだ。
 野菜と上手く並べたもんだな〜と感心しちまった。
「はは。やっぱ労働者には肉が必要なわけよ」
「誰ですか〜、労働者は。なんてねっ。今日はありがと。楽しかったからサービス!」
 いただきますの声で食べ始める。
 目玉焼きを見て、今夜の月見の計画がバレたかと心配したが、そうではないらしい。
 わざと一日遅れの月見にしたんだ。バレてたまるかっつーの!
 たわいもない話をしながら夕飯を食べて、後片付けが済んだと同時にを外へ連れ出す。



「なっ・・・どうしたの?」
「海行こうぜ、海」
 上着も持ったし、敷くものも持った。後は途中で仕入れればいい。
「・・・うん」
「どうした?素直だな」
「だって・・・こういうの久しぶりだよ?」
 返事に困って繋いでいる手を引いてみた。
「たまには・・・いいだろ?コンビニ寄るからな」
 繋いでいたハズの手は離され、代わりにしっかり腕を組まれた。こっちの方が距離が近くなる。
 コンビニで買い物をしてから、静かな夜の海の砂浜を二人で歩いた。



「この辺で座るか!待ってろ」
 ピクニックシートをわざと小さく広げる。全部広げないのがポイント。
「えへへ。もうすっかり夜は冷えるよね〜」
 先にぺたりと座って、温かいお茶を取り出すの隣に座った。
「そう・・・だな。サンキュ」
 俺も、つい温かいコーヒーを買っちまった。酒でもいいけど・・・そんな気分じゃない。
 もっと静かに・・・月を見たい。そんな気持ち。

「月・・・キレイだね」
「ああ。月見のつもりで誘った。十五夜は昨日だったけどな。十六夜の月・・・って言うんだとよ」
「ふうん?一日遅れのお月見も楽しいね。まん丸で・・・一日分なんてわかんないよ」
 天然でボケるわりには、こういうトコ、しっかりわかってくれている。
 黙って月を眺めては、時々飲み物を飲むという事を繰り返し時間を過ごす。
 会話が要らないのは楽。ただこうして・・・月に照らされているだけでいいんだ、俺たちは。





「将臣くん。そろそろお家に帰ろう?」
 すっかり冷えた手を俺の頬へあててアピールする
 何も触れなくても冷えているのは俺も同じなわけで。
 いつ言おうか考えていたんだぜ?これでも。先に言われちまったな。

「だな!帰って・・・風呂でも入るか」
 風呂だけで済まないだろうなぁ。なんつうか・・・無理。
 帰る前にと、を抱きしめる。

「手は冷えちゃうのに、こうしてるとあったかぁ〜いね?」
 どうしてそう無邪気に笑うんだろうな〜。

 ・・・だから。

 そんなのわかってるんだ。わかっちゃいるが!
「今日は食べすぎたな〜。走って帰るぞっと!」
「やだっ。待って!待って〜〜〜」
 追いかけてくるアイツが可愛くて、ついつい手を抜いて走ってはからかう。





 いつまでも走ってはいられない。
 ゴールは間近だ。覚悟しておけよ?
 月にも宣言しておいた。月も公認だからな!







Copyright © 2005-2006 〜Heavenly Blue〜 氷輪  All rights reserved.


将臣くんって、言わずに行動するタイプかと。望美ちゃんは後ろをトテトテ楽しそうについて行くという二人だとイイなって。     (2006.09.23サイト掲載)




 メニューページへもどる