成長したかも? 「・・・って、ワケで。オレの妻って言い切ったんだぜ?成長したよな〜」 まだ食べたりなかったのだろう。 梶原邸に着いた将臣は仲間たちのおやつの時間の輪に加わり、新たなマドレーヌへと手を伸ばす。 「あの兄上が・・・・・・」 やや疑いつつも、嬉しそうな表情から景時を見直したらしい朔。 「そうですか。景時さんも、自信がついたんでしょうね」 譲は今までの数々のフォローを回想しながらしみじみと呟く。 「堂々としていましたよ。さんを素早く庇ったり」 陰陽寮の者からを庇った時の話をしたのは弁慶。 こちらも用事など方便でしかないのだから、九郎の迎えがてらおやつの時間に加わっている。 「手も繋げなくてオロオロしてた頃なんて懐かしすぎだぜ。・・・そう、そう。でな?思ったんだけど、 景時の方こそアノのマシンガンぶりに呆れなくてさ。よくも驚かないなと気づいたワケよ」 何がすごいといって、誰であろうと正しくないとが感じた場合、一気にまくし立てるのだ。 いつ息継ぎをしているのか疑問を持つほどに。 あの怒りの姿をみても景時がに対して態度を変えることはない。 「あ〜〜〜〜〜〜・・・アレですか。確かに先輩は時々すっごく激しいですよね」 眼鏡をかけ直しながら、過去のを思い浮かべ譲も同意する。 「まあ・・・さんらしいですよ?真っ直ぐ・・・というのは、一番難しいことですから」 弁慶に言わせると、隠すことがない潔さとでも言おうか、独特の強さがあると思う。 裏表のない故の強さと公平さ─── 「あら。そんなの、兄上なんて最初からが好きだったのですもの。が怒っていた姿なんて 何度も見ていましたわよ?」 「最初・・・って、いつよ?」 朔がいう始まりの起点が気になる将臣。 「兄上は自覚されていないでしょうけれど。たぶんここで会った時。もそうだと思いますけど。 何がすごいといって、があの兄上をみて文句を言ったことがないのですもの。わかりますでしょう? あんなに逃げ腰でいい加減で、返事だけはよろしい兄上ですのに」 ここぞとばかりに普段から思っていることをぶちまける朔。 「・・・朔殿。それはあまりに言いすぎなのでは・・・・・・」 このような時に、案外九郎が一番周囲に気を使う。 「鼻血男さんが掴んだ幸せですから。さんは面白いですよね。あの姿を見ても嫌がるどころか」 「むしろ喜んでましたからね。先輩の可愛いの基準は、時々どういうものかわからないです」 弁慶と譲には謎である。 景時に対して可愛いという言葉をよく口にしていることについて。 「ふむ。の可愛い基準ねぇ?何でも可愛いんじゃねぇか?サンショウウオだって可愛いなんだぜ?」 昔から何を見ても可愛いと言っていたように思う。 可愛いは口癖なのではないだろうか。 「そうでもないですよ。何か・・・・・・そう、そう。ナヨナヨはダメって」 記憶の糸を手繰り寄せた譲が、将臣が思い出すための切欠となるキーワードを告げる。 「あ!・・・・・・ぶわははははは!なよなよ!なよなよ〜〜か!鳥肌立ってたな!!!」 将臣も思い出したのだろう。 そして、この件については将臣と譲しか知らないのだから、二人だけが大笑いをしている。 仲間たちは笑いがおさまるのを待った。 「近所にさ、内股のちょっと気の弱い男の子がいたんだよ。ジャングルジムに登れなくてさ。 あ。ジャングルジムってのは、わざわざ登りやすく作った遊具なんだけどよ。それがな、は とっとと天辺まで登れるもんだから、うじうじと言い訳して上らなかったそいつに腹立ててさ。 腹立てたはいいんだけど、そいつのなよなよっと・・・こういう仕種をみたら」 内股でもじもじとする仕種を将臣がして見せた。 正直、それだって鳥肌モノだが、言葉で言われるより理解できたので、それはそれとして誰もが流す。 「先輩、泣きながら叫んで家まで一直線に帰っちゃったんです。俺たち、わけがわからなくて。 慌てて追いかけたら、腕がすごい事になっていて。これまた先輩のお母さんが爆笑するから収集つかなくて。 先輩、すっかり拗ねちゃって大変だったんです。だから、先輩にとって可愛くないモノもあるには あるんだと思いますよ。あんなの不気味で無理って言っていたし」 譲が事の顛末を完結にまとめて話しを締めた。 「・・・・・・・らしいわ」 「そうですね。確かに仕種はどうあれ・・・・・・」 結論がない話が一番嫌いらしいのはわかっていた。 評定も結論から言わないと、どのように行動すればいいのかわからないと。 にとって理屈は不要らしい。 進むべき道を示すだけで良いのは、軍師にとっては信頼されている証しでもあり嬉しいものだ。 逆に質問をされるのは、自分の策が疑われていることに他ならない。 いつも余分な説明はしないで済んだ。 「優雅な仕種は好きなようだぞ?」 「それは・・・舞は別ですわ。舞は無駄な動きを極力省いて表現をするものですから」 の舞は確かに無駄がない。 始めたばかりの頃は、その動きが剣道か何かの様にしか見えなかったが、舞の本質を理解してからは違った。 「・・・それで?なんで景時なんだろうな?別にファザコンってんでもないしな。の父親、景時と違う タイプだったし。なぁ?」 「さあ?ただ・・・景時さんは気持ちを溜め込むところがありますからね。先輩みたいに、よく言えばハッキリ、 悪く言えば言いすぎといいますか・・・・・・」 最後の言葉を濁すのが譲らしい。 それでも仲間には正しく真意が伝わっている。 「ま。結局は似合いの二人っちゅーことか」 将臣がその場をまとめた。 「そう、そう。さんのミニスカについて、聞き込みをしていましたよね。僕だけではなさそうでしたが」 景時が仲間にの服装について尋ねてまわったことがあった。 「あった、あった!あれさ、の脚だろ?景時が心配してたの」 将臣が手を叩いて笑い出す。 「兄さん!そう露骨に言わなくても・・・・・・」 譲が将臣の腕を抓るが、朔に聞かれてしまった。 「・・・それは、どういったお話ですの?」 つまるところ、全員が当時の景時の行動について語る羽目になってしまった。 「でさ、兵士たちの間でも話題になっていたらしいぜ?よく景時が屈んでたの。貧血ものだよな?ボタボタ鼻血 流してんだから。隠しようがないじゃん?自分で手袋洗ってたらしいし。何かと目撃情報はあったわけよ。 これで景時の気持ちに気づかなきゃ嘘だろ?からかって失敗したこともあったよな〜〜〜」 忘れることなどできはしない。本気の景時を見たのは、後にも先にもあれきりだ。 もっとも、将臣が見ていないだけで、鎌倉で頼朝と対峙した時はそうだったのだろう。 そうでなければ、今のこの暮らしは手に入りはしなかった。 朔が大きな溜息とともに項垂れた。 「さっさと男らしくに気持ちを告げればよかったのよ。ほんとうに手がかかる・・・・・・」 何もいい年をした兄のためにデートのお膳立てまでしなくともいいのだ。普通は。 仲間総出でとのデートを見守った春。 「景時、とても男らしいよ?景時は神子が大好き。神子も景時が大好き!私も神子が大好きだよ?景時は 神子を大切にしてくれる。問題ない」 白龍が笑いながら大きな声で宣言した。 その言葉に、誰もが頷き微笑む。 「だな。お前しっかりしてるよ」 将臣が小さな白龍の頭を撫でる。 「ええ。こう度々お邪魔しては悪いとは思うのですが、ここが居心地がよくて。ね?九郎」 弁慶は今まで落ち着く場所を持ち合わせていなかった。 何故か景時にだけは頼んでもいいような気がして、薬草置き場として部屋を借り受けていた。 「まあ・・・なんだ。いいんだ。昔から景時の家に飯を食いにきていたんだから」 ひとり者の九郎は、景時に誘われるまま梶原邸で夕餉を食べてから帰っていた。 景時なりの気遣いだったのだろう。 一人で食事をする寂しさを知っているからこその心遣いだったのだろうと、景時の過去を知り思い至る。 「皆様にお立ち寄りいただけるのはあり難い事ですわ。賑やかなのが母も大好きですから。鎌倉の家は寂しかったと よく申しておりますもの」 戦の拠点が西国だったため、母を連れて行けなかった景時。 連れて行けなくはないが、人質に母か妹のどちらかを置いていけと頼朝に言われてしまった。 状況からして黒龍の神子と知られている朔を置いて行く方が危険だと判断した景時は、泣く泣く母を鎌倉へ留めた。 今ならその事情もわかっている。 「よかったですよね・・・景時さん。最近、少しばかり弾けてますけど。それは時間を取り戻しているんだろうから」 譲としては、一生懸命に枕まで作っていた景時の方が真実の姿なのだとわかっている。 「ええ。熱心に笛の稽古をされたり。とても・・・とても心が優しい人です」 珍しく敦盛が口を開き、穏やかに微笑んでいた。 「皆様。このまま我が家で夕餉を召し上がって下さいね。そろそろ二人も帰ってきますから。このままお帰りには なりませんわよね?」 朔が簀子の端に控えた右近へ、手で合図を返す。 食事の支度をきちんと人数分整えているという右近の合図に対するものだ。 「・・・どうすっかな。な?敦盛。サボリとか怒鳴られそうだな」 「問題ございませんでしょう。本日ならば・・・紅葉狩りの土産話もございましょうから」 口元に手をあて敦盛が笑う。 帰るつもりもないだろうに、何故か将臣は敦盛の意見を確認するのだ。 その遠回しな将臣らしい気遣いが嬉しい。 「俺は・・・問題ない。弁慶もだな?」 「ええ。僕ももちろんいただきます。何かとその後の情報も集まるでしょうし。ね?将臣君」 弁慶が将臣へ視線を合わせる。 「・・・しっかりしてんな。大丈夫。それなりに対処させてるから。明日にでもまとめてから敦盛を使いにやる」 何もせずに梶原邸へ来たわけではない。 それなりに情報戦である今回の出来事に、堂々と決着をつけられる手筈は整えてある。 「今日は譲殿にお手伝いいただかなくても、が決めていた献立を家の者が作っておりますから」 「あの先輩が献立を考えているのがすごいですよね〜〜〜。景時さんのために」 何がすごいといって、必ず献立はが考えるのだ。 毎日が作れる訳ではないので、そのような時のためにも、前日に翌日一日分を完成させて右近へ頼んでいる。 「・・・・・・まともな料理が出るようになったしな」 「まあ。が聞いたら怒りますわよ?毎日一生懸命練習してますもの。慣れない道具ばかりでしょうに」 朔は立ち上がると、すっかり日が沈みかかっている庭から屋内へと案内をする。 まもなく、元気に二人が帰宅した声を聞く─── |
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仲間視点の続きなので、二人の出番ナシ(笑) (2007.12.23サイト掲載)