ありがちな策略





「譲。俺に協力してみない?」
「・・・遠慮しますよ。兄さんに協力なんて、碌な事にならなさそうですから」
「まあ、そう言うなって。話を聞いてから決めれば?」


 まんまと将臣の策略に乗せられつつある譲。
 事は簡単である。景時の誕生日に悪戯をしたいだけの話。
 守護邸で稽古中の譲の元へわざわざ出向いておきながらこれである。
 いまさら将臣の性格は変えようも無いと譲は耳を傾けた。


「・・・でさ。こっちって新年に全員が年とるだろ?でもさ、俺たちの感覚じゃそれは
チガウよな?」
「まあ・・・そうですね。一人、一人、違う日に生まれているんだし・・・・・・」
「だろ!で、思いついたわけよ!」


 将臣が思いついた事。誕生会をしようと思いついた。
 ただし、残念ながら将臣も譲もも誕生日には程遠い。
 ならば誕生日の情報が簡単に手に入り、悪戯できる人物に限る。
 この時点でリズヴァーンや弁慶、ヒノエと朔は除外。
 誕生日が過ぎてしまっていたり、報復が怖いので悪戯に不向きだからだ。
 敦盛も泣きそうなので除外。九郎は冗談が通じない事が怖いので除外。
 白龍にいたっては、誕生日どころか、いくつなのか数えようも無い。
 残すところ、一名のみ。


「でな〜〜?さりげなく朔に聞いたんだよ。誕生日っての?そうは言わなかったケド、
景時が生まれた日って知ってるのかってさ」
「・・・兄さん。最初から景時さんを悪戯の対象に狙ってるじゃないですか」
 溜息を吐きながら眼鏡を外すとその曇りを磨く譲。
 誕生日まで聞き出しておいて、景時以外に悪戯するつもりがあったとは考え難い。

「まあ、まあ。でな、景時の喜ぶモノなんてに決まってるから。にしようかなと」
 譲が眼鏡をかけ直し、頭を抱えた。
「・・・兄さん。あの二人は夫婦なんだから。それに、先輩はモノじゃない・・・・・・」
 将臣の真意がまるで読めない。景時にを贈る意味は無いのだ。
 すでに二人は周囲の協力で夫婦になっているのだから。

「ば〜か!夫婦のマンネリ防止に一役買おうっていうんだ。喜ばれるコト間違いナシ!」
 出来ることなら将臣の頭を割ってみたいと思った譲。
 自由な長男に対し、真面目な次男坊には到底理解できない。

「・・・その顔はなんだよ〜、ノリが悪いな。あれだ、男のロマンを景時にってんだ。
朔は協力してくれるってさ!お前もケーキくらい作ってもいいだろうが〜」
 またも意味不明な単語が飛び出した。
「・・・兄さん。その“男のロマン”が引っかかるんだケド?」
 将臣の夢ではなく、男のロマンなのである。
 多くの男性に該当しなくては“男の”とついてはならない。
 ならば、譲も該当するはず。
「あ?ああ。そりゃ定番だろ。お帰りなさいからの一連の流れは。その時のの着ている
モノがポイントだと思うわけよ」
「お帰りなさいには、ただいまだろ?着ているものって、裸じゃないんだから・・・・・・」
 厭きれて二の句が継げない。
「おっ!勘がいいね〜、譲クンは。それだ。まんまソレ。そういう事〜〜〜!」
「そういう事って・・・・・・兄さんっ!!!」
「あ〜、そう!譲クンは真面目でイイ子だからな。そういう本も知識も知らなかったか!」
 考えてみれば譲は親の言う事を良く聞く模範生だったのだ。
 やや脱線しかけの将臣とは日頃から人付き合いも遊びも差があった。
「・・・どういう意味だよ」
「まんま。お前、イイコちゃんだからな。知らないだろって意味。・・・じゃあ、またな!」
 軽く片手を振りながら将臣が内裏へと戻っていった。





 一方、数日後の梶原邸では朔が静かに動き出していた。
「・・・。その・・・忙しいかしら?」
 鼻歌を歌いながら景時の着物をたたむに話しかける。
「なあに?大丈夫だよ。すっごく急ぎぃ〜なんてないから。ね?」
 の隣でモモが跳ねた。
「よかった。の着物・・・そろそろ新しいモノが必要じゃない?」
「え〜?そんなにたくさん要らないよ」
 思惑に気づいての否ではない。単純に必要ないと思っている様子だ。
「そう。じゃ・・・私の着物なのだけれど、春色の着物があるの。華やかな柄だし、着ない
ままだったのが出てきたの。・・・着てみない?」
「そうなの・・・朔が着ないなら・・・・・・」
 少し心が動かされた様子に朔がすかさずつけ込む。
「着てみましょうよ!ね?」
「う、うん。そう・・・だね」
 朔に手を引かれるままに立ち上がる
「ね?今から着てみて」
 そのまま一度は着物を着替える。
 まるでのために誂えたような桃色の着物。
 不思議に思いながらも、再び着物を脱いで返す。
 朔が虫干しすると言ったのを信じて───





 明けて翌日。変わらない一日の始まり・・・の予定だったのだが。
「先輩。今日のおやつ担当、俺がしてもいいですか?」
 突然台所へ現れた譲。
「えっと・・・どうしたの?その・・・将臣くんの手伝いはいいの?」
「ええ。今日はずっと考えていたケーキを焼いてみたくて。白龍に約束したままでしたからね」
 本当は今日が景時の誕生日である。結局、将臣の依頼を受けた譲。
 ケーキについては景時だけでなく、も白龍も喜ぶのは間違いない。
「わ〜!私も手伝う!」
 が跳びあがる。これこそが将臣の作戦なのだ。
 を台所へ釘付けにする、一石二鳥のアイデア。
「ええ。もちろんです。案外ケーキは手間ですからね。手伝っていただけると・・・・・・」
「いいの?!頑張るね!ケーキかぁ・・・イチゴのケーキだと嬉しいよね・・・・・・」
 蒸しパンもどきのケーキではなく、本物のケーキを期待している
 当然生クリームでデコレーションのアレを想像している。
 問題はといえば苺が手に入る季節ではない。
「先輩。生のイチゴは無理ですよ。でも、苺や桃や蜜柑をコンポートしておいたので」
「ええっ?!いつの間にそんな技を!」
 コンポートといえば、フルーツの砂糖漬けだ。保存食には違いない。
 現代ならば桃缶やフルーツ缶になって売られているそれらの果物たち。
「だから。ケーキの構想はずっとあったんです。材料をそろえるのが大変だっただけで」
 几帳面な性格の譲。白龍との約束を果たすべく、元々長期戦で準備をしていたのだ。
 後は五月になれば新鮮な苺が手に入ると思っていたのだが、少々早めの実践となる。
「うわ〜〜〜。譲くんって、ほんっと計画的だよね。エライなぁ。ホントのケーキが食べられる
なんて・・・ロールや蒸しじゃなくて、生デコだよね?」
 考えねばならない時になるまで考えない性格の
 どちらかといえば将臣よりお気楽派である。
 手に入るもので日常のおやつは考えられていた。
「ええ。最初に白龍へケーキの説明をした時、そう話してしまったので。さ、作りますよ」
 早めに作業に入らないと、将臣に言われているおやつの時間に間に合わない。
「は〜〜〜い!何からしたらいいかな?」
「まずは小麦粉を篩いにかけてください」
 着々とケーキ作りは進められた。



「よ〜っ!仕事の具合はどうだ?」
 将臣が守護邸へやって来るのは珍しい。
「・・・早いですね?」
「もちろん!九郎には・・・まだ?」
 九郎は表情に出やすい。
 将臣は先に弁慶に話を通してあり、九郎には今から景時の休みを申請しなくてはならない。
「そうですね。僕が上手く片付くように仕事を回しましたので、問題はないかと」
 口元へ拳をあてて、弁慶が小さな笑いを零す。
「・・・何だ?二人だけわかっている様な話し方だな?」
 九郎にはまったく通じない話し方だ。話に加われないのは面白くない。
「ま、そう言うなって。まずは誕生日の説明をしないとな〜〜〜」
 将臣が九郎の正面に腰を下ろした。
 今から九郎にも企てに加担してもらわなくてはならない。
 詳細なる説明が必要だった。





「なっ・・・それは・・・・・・」
 九郎が真っ赤になる。
「だから〜。どうして九郎が赤くなるかな〜。何を想像したんだ〜?」
 面白がって九郎の頬を突く将臣。
「う、うるさい!くだらない事を考えてないで・・・・・・」
「くだらなくないって。景時だってさ〜、毎日仕事でストレス溜まってると思うわけよ。
だってな、あんなに料理したりするような女じゃなかったし。たまにはパパッと発散!」
 いかにも景時のためを強調するが、その実、景時のためであり、ためではない。
 あまりに平和な毎日に一石を投じようというものなのだ。
「敦盛も参加してるんだぜ?鳥羽の別荘を借りる手配とか、手続き全部」
 いかにも自分だけではない、多くの者の意思の様に話を誘導する。
「・・・わかった。景時の休みは認めよう。が!俺は関係ないからな!!!」
 まったく今回の作戦には加わらない旨を主張する九郎。
「うわ〜、協調性がねぇの!そういうのつまらなくねぇ?こっちでワイワイやってる時にさぁ」
 九郎の寂しがりやな部分を刺激する。
 意地を張ってひとりで素振りを始める様な性格だったが、の影響か自ら参加する様に
変わりつつあるのだ。
「・・・・・・将臣はが怖くないのか?」
 花断ちを易々と覚え、九郎を打ち負かしたほどの腕前の
 本気の怒りに立ち向かうだけの精神力は九郎にはない。
「ば〜か。は結局折れると思うぜ?景時が喜ぶことで、怒ったり暴れたりしねぇって」
 悪戯のポイントは、景時に楽しいものなのだ。誕生日の主役なのだから。
 実のところ遊ばれるターゲットはだったりする。
 何故朔が了承したかといえば、朔の楽しみも満たす内容だったからだ。
 が折れる事、及び、最終的にはも納得の内容なのが悪戯のポイントだった。





「すっごーーーい、譲くん!スポンジがまん丸〜〜〜」
 鍛冶屋に形を頼んだとはいえ、上手く丸いスポンジが焼き上がるかは別である。
 大きなケーキが仕上がろうという土台のスポンジ部分が上手く焼きあがったのだ。
 の期待は膨らむばかりだ。

「ね、次は?次は何するの?これにぐるーんって生クリーム?!」
 次の工程に移ればもっとケーキらしくなるだろう。
 は待ちきれずに譲の肩を叩いて次を急かす。
「いえ、スポンジが冷めないと次はないです。フルーツもコンポートを使うので手間はないですし。
先輩は・・・そろそろ朔殿が迎えに来ますから」
「へ?朔?朔って・・・・・・」
 確かに朔の姿を見ていないと思い出す。
 の首が傾いた時、朔が台所へ顔を出した。

。今から出かける支度があるから手伝ってちょうだい」
「出かけるの?今から?」
 朔が出かけるのは珍しくはない。
 珍しいのは、朔がに支度の手伝いを依頼する事の方だ。
「ええ。兄上への贈り物をと思って」
「兄上って・・・・・・景時さんにっ!?何で?」
 景時の話題にが喰い付く。
 涼しい顔で朔が理由を述べる。
「将臣殿が仰ったのだけれど・・・の世界では生まれた日をお祝いするのでしょう?」
「・・・・・・景時さんの誕生日!!!まさかっ・・・・・・」
 途端にが真っ青になる。
 何も用意をしていなかった上に、想い人の誕生日を確認していなかったという事実に自分で自分に
驚きすぎてのものだ。

(向こうの世界だったら、間違いなく知りたくて聞いてたハズのコトなのにぃ〜〜〜!)
 こちらの世界の常識を早く覚えなくてはと精一杯で、抜け落ちていたとしか言いようがない。
 がその場で両手をついて崩れ落ちた。

「景時さんの誕生日・・・・・・今日・・・なんだよね?」
「ええ。だからケーキを譲殿が焼いて下さって。も手伝ったのでしょう?」
 朔が手を差し伸べるが、の首は益々地面を向くばかり。

「小麦粉ふるったって手伝いにもならないよぅ・・・あとは薪を足したりしかしてないし・・・・・・」
 景時に何も用意をしていないのだ。
 だが───

「朔!いまから何かプレゼントを買いに行くの?だったら・・・・・・」
 が顔を上げる。



「景時さんって、何が好き?」



 わかりやすい問いかけではあったのだが、
「さあ?兄上が好きな事といえば、お洗濯かしら」
「そういうのじゃなくって。もちろん、簀子でお昼寝とか、梅の花が好きとかもナシで何かないかなぁ?」
 慌ててが質問の意図を修正にかかる。
 朔は解っていて答えないとも知らずに。

「そうねぇ・・・・・・最近はお風呂がお気に入りよね」
「だから!そういうのじゃなくって・・・こう・・・贈り物になるような!!!」
 親友の肩へと手を置き、真剣にその瞳を覗き込む
「一緒に買い物に行く?私は兄上に手袋をと思っているのだけれど」
「そうなんだ!私は何がいいかなぁ・・・・・・。私も支度しなきゃだよね!早く、早く〜」
 朔の手を引いて、さっさと部屋へ上がる
 に手を引かれつつも振り返った朔は、軽く頷いて譲へ合図を送る。
 譲も心得たとばかりに小さく頷き返していた。







「朔はぁ・・・手袋なんだよね?」
「ええ。そろそろ薄手の手袋が欲しいかと思って」
「そっかぁ・・・同じのじゃダメだよねぇ・・・・・・」
 頬へ手をあて、辺りを見回しては景時への贈り物を物色している
 本当の朔の役目はを梶原邸から遠ざけることだったのだ。
 よって、景時への手袋など副産物程度の事で、そう真剣に考えてはいない。
 が迷うだろう買い物に時間がかかるのは当然といえば当然の結果。


「どうしよぅ・・・何にも思い浮かばない・・・・・・」
 肩へモモを乗せているが項垂れた。


。プレゼントというのは、物でなくてはダメなの?その・・・相手のために何かをしてあげるとか」
 さり気なくの思考を誘導する。
 陰の策士健在である。
 時間的にも、譲が料理を作り終えたであろう頃合を見計らってだ。
「そっか!肩たたき券とか作っちゃおうかな〜?それなら紙があればすぐに・・・・・・」
「待って。あんなお気楽な兄上に肩こりなんて考えられないわ」
 素早くの邪魔をした。
 に贈り物を用意されては困る事情がある。

「え〜〜〜?!じゃあ・・・後は何?何もないよぉ〜〜〜!」
 お手上げといわんばかりに両手を天へ向けてあげる
 モモは被害にあう前にの頭部へ移動していた。

「あるわ。あるのよ。だからとお買い物に来たかったの」
 さっさと手袋を買い求めた朔は、の買い物に付き合うフリをしていたのだ。
「そうなの?何?私、どうすればイイ?」
 罠とも知らずにが朔に詰め寄った。





「こ・・・これって・・・・・・」
「ええ。一日兄上のために・・・ってところね?宮中で見たでしょう?梶原の家は武家だから女房ではなく
下働きの様な支度なのだけれど。右近は仕事が早くて助かるわ」
 何も知らなかったの手を取り、早々と梶原邸へ引き上げてきた朔。
 途中、可愛らしい首飾りを購入する事も忘れてはいない。
 将臣の言いつけ通り、そう長くはなく首にぴたりとつく首飾り。
 現代風に言えばチョーカーの類に近いそれをの首へと着けてやる。
 次に朔がしたことといえば───

「はい。これを着て、兄上のために働いてね?確か・・・メイドというのでしたかしら?」
「・・・・・・しゃくぅ・・・どこでそんな言葉・・・・・・」
 朔の名前すらたどたどしくなってしまう
 脱力を通り越して、チカラなど元からなかったかのように梶原邸の一室でが倒れた。
 その原因は昨日着た着物の丈が短く直され、そのデザインまでも改造されて目の前に置かれた所為だ。


「誰よ・・・って、将臣くんだよ。こんなくだらないコト考えつくのって・・・・・・」
 気合で起き上がり再び着物へ視線を移す
 あんなに可愛らしかった春色の着物が、その丈もミニサイズの見事なメイド服仕様に様変わりをしている。
 僅かな時間で作り変えたのが右近らしい。


「後は・・・そうでしたわ。確か、兄上の事を“ご主人様”と呼ぶのでしたかしら?」
「そんな事まで朔に教えてどうするのよぅ・・・・・・」
 春色の着物を両手に抱えて項垂れる
 正直、そんな事で景時が喜ぶのか甚だ疑問だ。
 疑わしそうなの視線に気づいた朔が、の両手を取り力説を始める。


。兄上はが大好きなの。だから、が兄上のためにというのは、どんな贈り物にも勝ると思うわ。
だから私たちも、いかにが可愛らしくて、梶原家の嫁として大切な存在であるかという意味で考えたのよ。
間違いないわ!何でも兄上のためにしたいって言えば、天まで舞い上がるほど喜ぶに違いないの」
 朔とてと別れたくはない。
 そのためにはこちらの世界に留めることになり、どこか申し訳なく感じている。
 だからこその気持ちだけが頼りなのだ。
 それなのに兄である景時は、いまひとつ頼りない気がしてならない。
 どうにか景時にはが必要であるとわかって欲しいし、居場所はここしかないと思って欲しいのだ。


「そ、そうかな?景時さん・・・嬉しいかな・・・・・・」
 着物を眺め始めた


(後一押しね!)
 朔の目が怪しく光る。
 もう一押しで朔が考える方向に転がるはず。


?今日は豪華な宴の準備をしているの。その・・・兄上の食事はが食べさせてあげたりすると
もっと喜ぶのではなくて?時々朝餉を二人きりで頂きたいと、別にしたりしているでしょう?」
 婚儀の後の温泉旅行以来、時々ではあるが二人きりの食事の時間をとる様になった景時と
 理由は景時がに食事を食べさせて欲しいという、どこかとぼけた内容だが、朔には喜ばしい限り。
 二人の仲が睦まじいのは嬉しい。


「かな〜?景時さん・・・可愛いんだよぅ・・・口をパクパクして待ってて。・・・きゃっ!」
 自分で言っていて真っ赤になる
 朔が心配する必要はないほどに景時に夢中なのだが、周囲は景時を見る限り疑ってしまう。
 景時が壊れすぎているのが原因なのだが、それこそに夢中と考えるならばそれはそれ。


「朔!私、コレを着て頑張るよ!」
 片手を拳にして立ち上がる
 この簡単に騙されてしまうところが朔の保護欲をそそるのだ。
「そうよ!これで兄上の誕生日を祝ってあげて!」
 本来の誕生日の主旨から遠ざかってるのだが、それについては二人とも気づいていなかった。







「何だか不気味だよね〜?九郎が早く帰っていいなんてさ。まあ・・・家でご飯が食べたいっていうのは
ちゃんが喜ぶからいいけどね」
 どういうわけか、午後には仕事が終わりと決まった。
 しかも、九郎と弁慶、こちらへ今日ついたヒノエが景時の家に集まりたいと言い出したのだ。
「そういうな。久しぶりに仲間で集まるのもいいだろう」
「まあ・・・九郎が終わっていいっていうならいいんだよ?後で倍働け〜とか言われなきゃね」
 九郎と景時が並んで歩く。その後ろを弁慶とヒノエ。
 最初に景時がの出迎えを受けるべく門を潜り邸内へ足を踏み入れた。


「お帰りなさいませ。ご主人様v」


 しばし景時が硬直する。
 の出迎えは常の事だが、問題はその服装と言葉。


ちゃんっ、ダメだよ〜〜〜〜〜!」
 鼻血を出す暇もない。
 まずはを隠さねばならない。
 景時はを抱えあげて部屋へと駆け込んだ。



 の説明と説得が功を奏し、仲間全員が揃う景時の誕生会は無事に開催の運びとなる。
「・・・景時、を隠すの早かったよな。まだ姫君の着物姿を見てないぜ?」
 景時によって着物の上に一枚、景時の上着を着せられてしまった
 最初の服装を見られたのは着付けを手伝った朔と右近、帰宅直後の景時のみだ。
「だってぇ・・・景時さんがね?ダメなんだって。あっ!ご主人様がダメって」
 慌てて本日の約束事である景時の呼び名を訂正する
「そ!ダメ、ダメ〜。だってさ、オレの誕生日なんだよ?オレだけでいいでしょ」
 しっかりを膝に抱え、ケーキを食べさせてもらっている景時。
 鼻の下の長さは通常の倍。
「まあな〜。ここまでいい反応するとは俺も想定外」
 将臣も悪戯をしかけたつもりが、悪戯の効果がありすぎて笑えない結果になってしまった。
 のコスプレを餌に笑うつもりが、本気で景時が喜んでしまったのだ。
 笑うネタを隠されるとは考えていなかった。
「そうですね。景時だけが幸せそうですが、景時の誕生日ですからね」
 弁慶がさり気なく何かを匂わせるが、景時は気づかない。
 それぐらい有頂天になってケーキを食べさせてもらっていた。



「誕生日って、皆でおやつにケーキっていうのを食べて〜。楽しいよね〜〜〜」
 どこか間違って伝わってしまった誕生日。
「まあ・・・そうなんだけどな。さて!俺たちは次へ行くか!」
 将臣が立ち上がると、景時と以外の仲間たちも立ち上がる。

「次って・・・・・・」
 がきょとんとした目で朔を見上げる。
「ええ。私たちは鳥羽のお邸で夕餉がてら宴をする事になっているの」
「鳥羽なんて聞いてないよ〜?!」
 景時との声がそろう。
「言ってないですから。そういう事ですので、僕たちはこれで失礼しますね。ああ、そうだ。
二人はこちらでどうぞ。人数に入ってないので、宴の食事もないですから」
 景時とだけを残し、さっさと夕方には引き上げてしまった面々。


「・・・・・・オレの誕生日・・・なんだよね?」
「そう・・・です。えっと・・・そのぅ・・・二人でご飯しましょう?何か作りま・・・・・・」
 が立ち上がろうとすると、右近が素早く部屋へとやって来た。


「もう少しでお食事のご用意が整います。本日は景時様の祝いの日でございますので、お二人だけに
するようにと朔様から言いつかってございます」
 普段は何かと用意をしてくれる使用人たちの出入りがないのはその所為かとようやく気づく。
「あのぅ・・・えっとですね?私が作りた・・・・・・」
「お方様も本日はそのようにお願いいたします。譲殿がご用意下さった夕餉を温めていますので」
 丁寧に頭を下げているが、言葉の押しは強い。
 かなりよく朔に言い含められているらしい右近。珍しくの言葉を遮った。

「・・・はい。えっと・・・ご主人様?二人でご飯しましょうね?」
「もちろん!二人だったらさ・・・・・・」
 右近が退出したのを見計らい、景時がの上着に手をかけた。
「これは着なくてもいいよね?寒くないよね?」
「寒くはないですけど・・・・・・」
「じゃ!」
 するりと上着を脱がされた
 膝が見える程に短い丈だが、景時しか見ないとなれば問題はない。

「今日はオレだけのメイドさ〜ん。誕生日にしかダメなのは残念だよね〜、この服のちゃん」
「あのぅ・・・景時さん?別に誕生日とこの服は関係ないんだよ?これは・・・・・・」
「そうなの!?じゃあさ、また時々してくれるの?二人だけの時にっ!」
 景時の満面の笑みを見ると、肝心の部分を訂正しにくい

「うっ、うん。いいですよ。そのぅ・・・ご主人様?何なりとお申し付け下さいね」
「やった〜!可愛いメイドさんに、今日はお風呂もお願いしよう〜っと」
「あれ?どうしてこうなっちゃったんだろ?」
 首を傾げるに頬ずりする景時。
 本日は何でも言っていいのだ。言わないわけがない。
 そして、そのまま風呂へと雪崩れ込む。


「いいね〜、誕生日。毎日でもいいね!」
「・・・毎日あるわけありませーーーーんっ!」



 調子に乗りすぎた景時を叱るの怒声が響いた梶原邸。
 この時にはまだわかっていなかったのだ。
 この悪戯の続きは、の誕生日にわかることになろうとは。
 の世話を焼く景時に手こずる羽目になったのは、また別の機会に───






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景時くんがどんどん壊れてゆく(汗)いいのかな〜?こんなお誕生日作品(笑)     (2007.03.05サイト掲載)




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