イイコトしよう! 「ちゃん。イイコトしようか〜〜〜」 最後の洗濯物を物干し竿へと広げ終えた景時。 軽々と届いてしまう景時を眺めていたは、干し終えたのを確認して景時に飛びつく。 「イイコトって何ですか?」 期待に満ちた目で見上げられる。 真っ直ぐなの視線が眩しい。 景時は久しぶりに鼻への激痛を覚えた。 (か、可愛いっ!ちゃん!!!) 鎌倉から仲間と京へ戻り、晴れて夫婦になったというのに、景時は未だにを直視出来ない 事が度々ある。しかも、場合によっては鼻血オトコとなってしまう病があった。 「え〜っとね、もうされちゃった・・・・・・あはは!お天気いいから、ちゃんがお日様の匂いで ぽかぽかだろうな〜って。“ぎゅっ”をしようと思ってたんだよね〜〜〜」 の言葉を真似して、尚且つ、しっかりの背に腕を回す。 「わ〜!じゃあ、同じコト考えてたんですねっ!私もね、景時さんがお洗濯物を干し終わるの、 待ってたんですよ?そのぅ・・・出来れば背中じゃない方に飛びつきたいなぁ〜って・・・・・・」 口篭りつつも、気持ちを伝えるべくは『同じ気持ち』を強調する。 「そっか!同じ・・・だね?」 「同じです!」 場所は梶原邸の庭。 何も南に面した一番広い庭で抱き合わずともいいのだが、洗濯物は日が当たる場所がいい。 誰もが二人を見ないフリをして庭を避けて通った。 「そうだ!景時さん!イイコトしませんか?」 「イイコト?これよりイイコト?」 庭でを抱き締め、イチャイチャするよりイイコトがあるのだろうか?─── 「枯れ葉を集めて、焼き芋しましょう?今日のおやつ!おやつまで待てないかも〜」 が手を合わせて首を傾げた。 景時、の仕種に限界を覚えつつもこの場は耐えた。 (鼻血は駄目だ!イイコトが先だぁぁぁ!!!) ギリギリである。“イイコト”の内容が判明する前に倒れるわけにはいかない。 割と根性があった。 密かにの笑顔を心に焼き付け、鼻の痛みをやり過ごす。 「え〜っと。落ち葉を箒で集めようか。それと・・・芋って・・・・・・」 「おさつですよ。甘くてね、ほこほこになるんです。よく菫おばあちゃんとお庭でしたの」 有川家の庭は広く、草木も豊富。秋のお楽しみイベントだった。 「ふ〜ん。ところで、“おさつ”なイモって?」 「えっとね、お芋なんだけど・・・・・・」 疑問に答えたのは譲だった。 「先輩。薩摩芋はまだ日本へ伝来していないですよ?」 弓の朝稽古を終えた譲がちょうど帰宅した。 「えっ?そうなの?だって・・・・・・譲くんスイートポテト作ってたじゃない?」 以前譲が作ってくれた記憶がある。 「あれは・・・南瓜とじゃが芋の組み合わせなんです。江戸時代になってから飢饉で輸入されたのが最初 だったと思いますよ」 譲が眼鏡を軽くかけ直した。 「・・・・・・ひどぉ〜い!菫おばあちゃんとしたみたいに焼き芋したかったのにぃ」 が唇を尖らせた。 「えっと・・・あるよ?薩摩芋。今なら季節もいいし・・・・・・」 「「ええっ?!」」 と譲が同時に景時を振り返る。 「うわっ!そんなに見つめられると・・・・・・。こぉ〜んな形で、外が赤くて、中が黄色な芋であってる?」 手近な枝を使って、庭へ薩摩芋の絵を描く景時。 「そ、それ!それなの〜〜〜。どこにありますか?」 景時の隣にぴったりとしゃがみ込む。 譲は静かにその場を離れた。 「うん。市にあるよ?それに・・・いつもなら家にもある。よく朔がこれで煮物を作るし。今年はまだ収穫した ばかりだろうから・・・・・・知り合いのトコへ行ってみようか?」 「はい!」 話はまとまり、梶原邸のすぐ近所の畑へ行くと作業中の農夫から薩摩芋を分けてもらえた。 「ありがとうございます〜!こんなにたくさんいいんですか?」 「ええ。そりゃ、龍神の神子様に貰っていただけるなら。来年もうちの畑は豊作ですよ」 が赤くなる。 「そ、そんな事は・・・・・・でも、来年もたくさん美味しいお芋がとれるようにってお祈りしますね?」 その場で手を合わせて、が願う。 「有難いことです。来年はお届けに伺います」 「わ!嬉しいぃ。ありがとうございます。じゃ、また!」 手を振りながら別れを告げた。 「よかったね〜。皆で食べられそうだね?」 「はい!でもぉ・・・・・・ちゃんと出来るかな?私、いつも見てただけなんですよね」 さっそく梶原邸の庭で枯れ葉を集める。 「大丈夫だって!焚き火しながら様子をみればイイんだよね?」 「そぉ〜なんですけど。菫おばあちゃんがタイミングが重要なのよって。焚き火を消すのが・・・・・・」 集め終えた枯れ葉を眺めながら、が心配そうに呟く。 「ま!なんとかなるよ。じゃ、火をつけるね」 種火を枯れ葉へ移すと、今まで少し肌寒かったのが嘘のように暖かくなる。 「わ〜。これって、顔だけとっても熱くなるんですよね〜」 が焚き火の前にしゃがむ。 「だね〜。でも、こういうのは楽しくてイイね」 焚き火をするのは初めてではない。戦の最中にもしていたし、熊野の旅では野宿もした。 「そうですね。楽しみのための焚き火は・・・・・・暖かいです」 も思い出したのだろう。 野宿での焚き火は野生動物から身を守るため。 戦では敵へ勢力を見せ付けるため。 火の利用方法は、いくらでもその姿を変える。 「芋をさ、家の庭で焼くとは思わなかったな〜」 「あのね、お庭の枯れ葉掃除とおやつがセットなんですよ?お徳でしょ」 が隣に座る景時に寄りかかる。 「な〜るホド。菫さんって、面白い人だったんだね」 景時が大きく頷く。 「うん。おばあちゃんの知恵袋がたくさんだった。お話するの、大好きでした」 「そっか」 二人並んで見つめる炎。美味しいおやつを待ちながらの時間─── 「いいなぁ・・・こういうの。オレ、幸せ〜〜〜」 「そうですよね!美味しいものは幸せですよね!」 微妙にすれ違うのがまた楽しくて幸せである。 景時の想像したのは、との穏やかな時間の幸せの方。けれど─── 「そうだね!美味しいものは幸せだよね」 「生焼けだと怖いから、もう少しこうしてましょう?」 美味しい香りが幸せの合図!もう少しだけ、このままで・・・・・・ |
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『きのこのき』/わたべそら様へサイト開設記念の贈呈粗品でございます。二人のイメージイラストは宝物部屋でご覧下さい。
まるで物々交換狙いのように描いていただいてしまいました♪ (2005.12.28サイト掲載)