月明かりの誘惑





、出て来いよ」
 おやつには少々早すぎる時間に、庭から将臣の声がする。

「どうしたの〜、将臣くん」
 将臣の声を聞きつけたが、南の庭に面した簀子へ姿を現す。
 遅れて朔もやって来た。

「ん〜?丁度よかった、朔も呼ぼうと思ってた」
 二人を呼びつけておいて、ちゃっかり階へ腰を下ろす将臣。
「あのさ、二人・・・いや、白龍もか。観月の宴に来てくれるんだろ?」
 景時からは、『聞いてみる』と言われただけで、結果は聞いていない
「・・・いいの?景時さんと・・・そのぅ・・・一緒にがいいの」
「ああ。それでだ。要はは景時の浮気が心配なんだよな?」
 将臣らしく、遠まわしに尋ねる事は無かった。
「やっ・・・その・・・なっ、何ていうか。内裏って、綺麗な女房さんがたくさんって聞いたし。
普段だって、食事のお手伝いの人とかって、女の人だよね・・・・・・べ、別に疑ってるわけ
じゃないんだよ?ただ・・・・・・」
 は、初めて庭で景時に会った時を思い出していた。
「何だよ」
「景時さんって、こう・・・和やか〜な空気っていうか・・・・・・話しかけやすいっていうか」
 将臣が大きな溜め息を吐く。
「はい、はい、はい!心配で、心配でって事な」
 将臣が頭を掻く。
。そんな心配はいらないって言ってるのに・・・・・・」
 朔にしてみれば、どこか軽く見えるのだ、景時は。そこが人を引寄せるのだが。

「はいよ、お嬢さんたち。俺の計画を聞かないか?」
 わざと軽い口調で手を叩き注目させる将臣。
「計画ぅ〜?」
「そ。も安心、宮中も華やか、源氏の九郎の顔も立つって寸法なんだけど」
 手を組んで大きく伸びをすると、首を鳴らす将臣。
「き、聞くっ!何?」
 が大きく身を乗り出した。
「じゃ、話してみるか。ただし、九郎と景時には言うなよ?先にバレたら意味ねえからな」

 こそこそと簀子で頭を寄せ合う三人。
 盗み聞きされる心配はないが、膝をつめて話す三人の組み合わせが妙な光景だった。

が舞台で舞う時に着る衣装はこっちで用意する。当日は迎えを寄越すし、リズ先生にどうにか
繋ぎをつけて警護も頼むし・・・」
 が手を上げた。
「はいっ!自分で先生にお願いするぅ〜。それで、宴にも一緒に行くっ」
 将臣が頷く。
「よし。じゃ、それは任せる。ただし、もしも繋ぎがつかない場合の事もあるから、俺がヒノエに頼んでおく。
と朔と白龍は、九郎たちとは別で内裏へ来てくれ」
 今度はと朔が頷いた。
「それと・・・朔にはお手数だが、女院様たちの席に白龍と座ってもらえるか?京から東の国は知らないから、
ぜひ話をしたいとせがまれて・・・な。嫌なら無理しなくていい。九郎たちの所へ席を用意する」
 朔がしばし思案する。
 東国の事を話せば、源氏への宮中での心象も良くなりそうだ。
 しかも、宮中の煌びやかな雰囲気を目の当たりに出来る機会はそうそうない。
「私でお役に立てれば・・・・・・ぜひ」
「さんきゅ!これで華やかになるし、助かったぜ。やっぱ、女の子がいるのは場が華やぐからな」
 将臣が朔の肩を軽く叩く。
「将臣くん、セクハラ〜」
「ば〜か。親愛の表現だっつーの!白龍も、ちっこい姿なら可愛がられるぜ?小さいままでいろって、予め
がよく言い聞かせとけよ」
 いきなり青年が、後宮の女たちの席に登場では困るのだ。
「ん、わかった。ね〜、景時さんの件は?これじゃ、ちっとも安心じゃないよ?」
「しっかりしてるな〜。言ったろ?衣装をこっちで用意するって。それ着て舞を披露して、景時を悩殺しとけ」
 がきょとんと動かなくなる。
「・・・・・・のう・・・さつ?・・・・・・って、何を着せるつもりなのぉ?!」
 真っ赤になる
「普通に着物に決まってんだろうが。何想像してんだよ、バ〜カ!」
 将臣に額を指で弾かれる。とっさに両手で額を押さえた。
「・・・ひどぉい。悩殺っていうから・・・水着でくねくねって」
「発想が貧困だな〜。そんなんで悩殺出来る男じゃ、碌な男じゃねえだろうが」
 将臣の方が頭を抱えた。
「だぁ〜って・・・・・・何かな〜って思ったんだもん」
 
 二人の遣り取りの面白さに負けて、朔が笑い出した。
「もう、二人とも!真面目に話してちょうだい。笑わせようとしているわけではないのよね?」
 将臣が肩を竦める。
「俺は真面目なんだけどなぁ、コイツが話を脱線させんだよな。ま、精々梶原殿の奥方ぶりを見せつけるんだな。
景時を盗られない様になっ!」
 今度は、の頭を鷲掴みにして撫でる将臣。
「痛いよぅ、将臣くん!景時さんって、そんなにモテるの?ね〜、教えてよぉ〜」
 必至に将臣の腕を掴む。もう涙目になっていた。
「んだよ、泣くなよ。俺が泣かしてるみたいじゃねぇか!」
「だって、だってぇ・・・・・・」
 泣きそうなをどうするかと見れば、朔の視線が痛い将臣。

「お前さ、景時のどこが好きなんだ?」
 の目尻に溜まった涙を拭いながら質問する将臣。
「うんと・・・優しいの。でね、こう・・・・・・ちゃんと私を見てくれてる・・・・・・」
「ふ〜ん。じゃ、お前も景時に同じように伝えるんだな。それだけだろ。迎えが来ちまったな。じゃ、行くわ」
 軽くの頭を叩くと、将臣は迎えの者と共に庭から去った。



。その・・・の舞はとても上達したと思うの。だから、宮中で舞うのは、本来は帝の為なのでしょうけど。
兄上の為にというのはどうかしら。の気持ちを込めた舞を見れば、兄上も・・・ね?」
 朔がそろりとを抱き締める。
「だって・・・・・・景時さん、大人なんだもん。私じゃ無理なのかなあ?可愛いって言ってくれるけど・・・それって、
女の子扱いだよね?大人の・・・女の人なら、綺麗って言われるはずだよ・・・・・・」
 実は、長い間の密かなる悩みはここにあった。
 が何をしても、しなくても景時は褒めてくれる。『可愛い』と言ってだ。
・・・それは直接兄上に聞いた方がいいわ。悪気は無いのよ、きっと・・・ね」
 が何が原因で景時の心変わりを気にしていたか、ようやく分かって一安心だ。
 が、朔に言わせれば、なぜその言葉を使わないかの理由がおぼろげに見える。

(兄上の不安がに感染してる感じね・・・・・・二人で解決してもらわないと無理のようだわ)

 観月の宴が切欠になればいい───
 恐らく、この計画には弁慶も加担しているはずだ。
 弁慶には、すでにのヤキモチぶりが可哀想なので、手を打ってくれと頼んである。
 モテない景時をどうにか証明できないかと。

。将臣殿が言う通りよ。兄上の奥方は美しくて舞いも上手と周囲に思ってもらえればいいのよね?」
 ようやくが顔を上げた。
「・・・・・・舞は頑張るけど、美しくは無理だもん」
「大丈夫よ。衣装は将臣殿がとびきりのものを用意してくれるでしょうし。私が綺麗にお化粧してあげる。どの
お姫様にも負けないくらいに!」
「・・・ほんとに綺麗になれる?」
 朔が大きく頷いて微笑む。
が綺麗すぎて、兄上がヤキモチ妬く位にしてあげる」
「ありがと。朔、大好き!」

(兄上には、大いに反省していただきますわ)
 今回ばかりは朔がどうこう出来る問題ではない。ただ、二人が気持ちを伝え合うのには手を貸せる。

「今日から、ビシビシ舞のお稽古しましょうね?」
「朔ぅ〜?そんなぁ〜〜〜」



 景時が出勤した後に、こっそり朔により厳しい舞の指導が続く。、微妙な筋肉痛と戦う日々───






Copyright © 2005- 〜Heavenly Blue〜 氷輪  All rights reserved.


朔ちゃんって、美少女ですよね〜。景時にちょっとキツイ物言いしてますけど、言っても大丈夫な間柄だからこそ言えるのだと思います。
  景時もわかってるんですよね。でも、朔に小言を言われるような事をしでかしちゃう兄(笑)     (2005.9.16サイト掲載)




ヒントのぺえじへもどる