月明かりの誘惑 「よっ!待ってたぜ?」 「将臣君が僕に用事だなんて・・・驚きましたよ?」 将臣に勧められて腰を下ろす弁慶。 「いや、九郎から文が・・・じゃなくてだな。どこから話せばいいんだ」 とりあえず、が景時と月見をしたいと思っていた辺りを話す。 「・・・そう・・・でしたか。それはさんに悪い事をしてしまいましたね。景時の傍に居たい かと思ったのですが・・・予定があったのなら話は別ですね。それで?将臣君は、もう策を 用意しているのでしょう?実は僕も相談があるんです」 「は?アンタが俺に?そっちの方が驚きだぜ。いいぜ、話してみろよ」 夏に梶原邸へを狙っての不法侵入があった事を話す弁慶。 「・・・・・・どこの馬鹿だよ、それは」 「いえね?朔殿が気づかれて何もなかったのですが。以後、このような事が起きないように、 しっかりとこの件には決着をつけたいとも考えていまして・・・ね」 将臣に相談するまでもなく、何事が既に制裁は行われているだろう。 弁慶の涼しい微笑が雄弁に物語っている。 「しょ〜もな。で?ホントのところは?」 弁慶が笑いを漏らす。 「敵わないですね、将臣君には。さんの気持ちもスッキリする様にと考えているんです」 『兄上のヤキモチも面倒なんですけれど。のヤキモチが、なんとも不憫で。 まったくモテもしない兄上にヤキモチですのよ? 安心させてあげたいのだけど、言っても聞いてくれなくて・・・・・・』 「・・・・っ。ぶわはははは!朔も相変わらずキッツイなぁ〜。何も“まったく”まで言わなくても。 あれで景時は結構モテるんだし」 人当たりがいいので、内裏へ使いで来ると自然と人を集める。 「将臣君もですよ?“あれで”は・・・どれでなんでしょう?」 将臣の頬が引きつった。 「・・・には言うなよ」 「もちろんです。僕が言いたいのは、事実はどうでも、さんが満足すれば気持ちが収まる のではないかという事なんですよ」 「へえ?んじゃ、俺の計画から話すか。帝にはもう了解をもらってる」 景時、敦盛、ヒノエの三人に楽を奏でさせ、に舞台で舞わせる。 その後、帝から言葉を賜り、おそらくの願いはひとつだという事を告げる。 「帝まで計画の仲間なのですが。それは、それは。少々演出を加えれば、さんも満足しそう ですね。舞台の高さはどれくらいですか?それと・・・景時たちの場所までの距離ですね」 広げられた図面を見ながら、弁慶が考え込む。 (後は・・・景時次第といったところでしょうか・・・ね) こちらでここまでお膳立てをしているのだ。その機会を生かすも殺すも景時次第である。 「そうだ。九郎に伝えてくれよ。歌の御題は“龍神の神子”に準えてだって」 将臣がついでのように口にした。 「・・・先に言ってしまっていいのですか?」 御題は当日、宴の席で帝が発表するものだ。 「ああ。九郎が心配なのはソレなんだろ?時間が多けりゃ少しは安心するだろうし、用意もできるだろ。 第一、俺がそういうのが得意じゃねぇから。それ以上の御題は出させないぜ?な、敦盛」 図面を丸めながら、隣に控える敦盛に声をかける将臣。 「将臣殿は・・・詩歌が苦手なので。今年は各自一首のみとお決めになりました。読み上げるだけで、 お上の判定は皆が一番と最初から打ち合わせておりますので」 通常は、東西に分かれての歌合せで、一番の者に帝から褒美を賜る。 「・・・そういう事ならば、九郎には内密に。少しは学ぶ気持ちを持って欲しいですからね」 聞かないフリを決め込む弁慶を見て、将臣が笑った。 「悪いヤツだよな〜〜」 弁慶がニッコリとして首を傾げた。 「僕がですか?それとも、こんな計画を立てている将臣君がですか?」 将臣が肩を竦める。 「いいさ、両方で」 誰ともなく笑い出した。 「兄さん?お茶を持ってきましたよ」 譲がお茶を持ってやって来た。 ここは人払いがしてあるので、部屋の中にいるのは、八葉の半分の四人という事になる。 「おう!悪かったな。お前も計画に加われ」 手招きして、譲を呼び寄せる。 「はぁ〜〜〜っ。・・・ろくでもない計画なら加わりませんよ」 昔から将臣の言う事をきくと巻き込まれて大変なのだ。尻拭いは譲に廻ってくる。 「そうでもないですよ?僕の演出付きなので、ぜひ譲君にも参加して欲しいです。 ただし、九郎には内密で」 弁慶も参加となれば安心だ。手のひらを返したように譲は三人の輪に入る。 「九郎さんには内緒なんですか?」 何があるのかと、表情まで明るくなって楽しげに弁慶へ質問する譲。 「・・・譲って、ほんと俺にだけ態度悪いよな〜〜〜」 片手で茶を啜る将臣。その目は笑っている。 「うるさいな〜、兄さんは。過去の行いを少しは反省したらどうなんだ?」 「まあ、まあ。二人とも落ち着いて。九郎は宴に出席するというだけで頭がいっぱいになってますから。 鎌倉様の名代と気負ってますし、歌も考えなければなりません。計画からは外してあげないとね?」 (・・・・・・上手い。譲の扱いに慣れてるよ、コイツ) 九郎を気遣っての隠密行動ともなれば、譲は必ず守るだろう。 「はい!そうですよね。九郎さんは大変ですから。俺に何でも言って下さい」 胸を張って弁慶に返事をした。 「じゃ、始めるか。敦盛が説明してくれよな」 ちゃっかりお茶菓子を食べ始める将臣。 どうやら、譲がいない間の被害は敦盛が被っているらしい。 「敦盛・・・・・・すまないな」 「いえ。私は大丈夫です」 譲と敦盛は、互いの苦労を思いやって笑った。 「・・・・・・二人は、いつの間にそんなに仲良しなんだ?」 「兄さん!食べながら話さないっ。あ〜、もう。ボロボロ零さないでくれよ・・・・・・」 譲がせっせと菓子の欠片を拾う。 「んあ?あ、悪ぃ。まあな、年も近いし、いいことだ」 最後の一欠けらを、口の中へ放り込んでから、軽く手を払う将臣。 「・・・それだけの理由ではないと思いますけど。さ、計画の下準備をしなくてはですよ? 景時には後日大いに惚気られるでしょうから。計画は話さずにヤキモキしてもらってチャラにしましょう」 三人は、弁慶だけは絶対に敵に回さないと心に誓った。明日のわが身の安全の為に─── |
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ララの読切であった遙3の三人の関係。譲くんの場合、子供な分、将臣くんに対して一方的に劣等感を持ってますね。
あれがまた可愛い所です。大人になる前のプチ反抗期(笑)かなり内向的反抗期が優等生な譲くんらしい。 (2005.9.16サイト掲載)