月明かりの誘惑





「・・・・・・景時ともか?朔と白龍まで?なんだソレ」
 敦盛の報告に、将臣が声を上げる。
「しかし・・・九郎殿からの書状にはその様に書いてあります」
 書状を将臣へ手渡す敦盛。
 将臣は書状を受け取ると、片手で一気に広げ読み始める。
「・・・・・・っとに。どこで話が拗れたんだよ。は景時と月見するって言ってたのに」
 敦盛とてその現場にいたはずだ。将臣は顔を顰めた。



『あのね〜、景時さんとお月見するの。いつも菫おばあちゃんがしてくれてたみたいに』
『ススキって、どこにあるかな?最近、外へ出歩かないからわからないんだ』

 近所は出歩くが、封印をして戦っていた頃のようには出歩かなくなった
 景時にではなく、幼馴染の将臣に聞くのは景時を驚かせたい為だと分かる。

「あれだな。東の・・・清水の途中でわさわさしてるの見たけどな」
「ほんと?!勝手にとっても平気かなぁ?」
 他人の敷地内であれば、泥棒行為になってしまう。
「神子・・・道端のものだ。誰でも自由にとっている」
「そうなんだ〜。じゃあ、行ってみる。二人もお団子食べる?来るならたくさん作るよ」
 将臣と敦盛は顔を見合わせる。
「その・・・なんだ。俺たちは宮中で“観月の宴”ってのがあるんだ。帝が、今年は戦の後だし、
盛大に慰労もかねて開催したいらしくてな」
 がガクリと項垂れる。
「・・・じゃ〜、九郎さんたちも駄目だよね?・・・・・・景時さんは?」
 再び将臣と敦盛は顔を見合わせる。
「・・・あれだ。出席は九郎と弁慶だけで十分だろ。ヒノエも熊野別当だから宴の方だけどな」
「ホント?あと・・・譲くんは?先生はどうかな?」
 将臣が頭を掻きながら苦笑いする。
「あ〜、悪ぃ。譲はその・・・俺の仕事手伝ってもらってるんだ。先生はいいんじゃねぇか?」
「そ〜なんだ。何だか最近、全員が揃うことないよね・・・・・・。バラバラには家へ来てくれる
けどさ・・・・・・」
 詰まらなさそうに、階で足をぶらぶらさせる
「そう言うなって。それぞれに生活と役目があるんだ。んじゃ、迎えに来られちまったし、帰るな」
 庭の端を見れば、将臣と敦盛を迎えに来た部下が立っていた。



「仕方ねぇな、一肌脱ぐか!舞の舞台はもともと設置の予定だな?」
 敦盛に内裏内の庭の図面を広げさせる。
「はい。こちらへ・・・・・・」
「んじゃ、誰か他に楽器が出来るのは?」
 将臣の顔が笑っている。
 何か思いついたらしい表情を見て、後で文句を言われるのを覚悟でヒノエの名前を口にする。
「・・・最近は合わせていませんが、以前、熊野でヒノエに琵琶を合わせてもらいました」
「それだ!の舞の曲は三人で頼むな。後は支度だな〜。こうさ、羽衣伝説みたいの用意
出来ないか?」
 に着せるのだろうと敦盛も頭を働かせる。
「・・・至急、言いつけましょう。白絹に銀糸ならば、月明かりに映えましょう」
「それだ!さっすがだな〜、敦盛」
 顎に手を当てながら、将臣が次から次へと敦盛へ指示を出す。
「朔の席は、外だとおっさん連中に何かされても困るから女院様のところへ。白龍も一緒な。
リズ先生も、一応九郎たちの所へ席を用意するが、出入り自由でいい。人込み嫌いそうだし、
先生の事だ。警護を買って出てくれるさ。後は・・・朔にも袿を。着るかどうかは本人に任せよう。
そうだ、朔と白龍は深夜前には家へ送るように。譲と警護の者を数名つけてくれ。頼めそうなら
リズ先生へ当日頼んでもいいな・・・・・・」
 敦盛も部下へ指示する順番を考えながら、頭の中へ書きとめた。

「俺は帝へ話しに行ってくるか!龍神の神子が舞うんだ、褒美を与えないとな」
 軽く片手を上げると、部屋を出て行く将臣。

 その背を見送りながら敦盛がクスリと笑う。
「将臣殿は、見過ごせないのですね・・・・・・」

 の気持ちを。仲間の気持ちを。

「皆様の顔が立つよう、私もお手伝いさせていただきましょう」
 再び宴の準備に取り掛かる敦盛。
 お月見まで残り数日───






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将臣くんはですね、性格アニキですから。自分が知っちゃったら、せずにはいられないタイプかな〜と。
  敦盛君は、主体性がなさそうでいて、いいとこの坊ちゃんで。とっても気持ちが優しい人かなと。経正さんも「まだ幼いのに」と言っていた?ように、
  大切に、されていたんだろうな〜って。     (2005.9.15サイト掲載)




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