夏の日の散歩 「あっ!!!」 の声が、川面に響いた。 バシャッ─── 「あ〜らら、しまった」 浅瀬で両手をついている景時。ずぶ濡れである。 そもそも、どうしてこのような事になったのか? 今日は、夏らしい空で雲ひとつなく。 風もさわやかで、木陰で昼寝にはいい陽気だった。 景時は、贈り物もあったためを散歩に誘い出したのだ。 川風が涼しそうで、土手から降りて散歩を続ける。 なんとなくいい雰囲気になり櫛をに手渡した。 ちょうどその時、近くで遊んでいた子供がにぶつかった。 櫛は、の手から放物線を描いて川面へ消えた。 「や、やだ!どうしよぉ〜〜〜」 が青ざめる。 「ごめんなさい、お姉ちゃん」 子供も半ベソを掻いていた。 「だ〜いじょうぶだって。この辺りは浅瀬だし、水も綺麗だからすぐに見つかるよ」 景時がざぶざぶと川へ入っていった。 すぐに目的の物は見つかる。 「ほ〜ら、ここにある・・・・う〜っ?!」 水草に足をとられ、派手な水飛沫を上げて景時は四つん這いになった。 ここから冒頭のの叫び声につながる。 本格的に泣き出しそうな子供。 川岸ぎりぎりまで駆け寄る。 のんびりとした動作で景時は立ち上がり、大きな声で笑い出した。 「やっちゃった〜!でも櫛も無事だし。この陽気だからすぐに乾くだろうし、問題なしっ!」 の隣に駆けてきた子供が、の着物の袖を引く。 「大丈夫だよ?ほら、お洗濯して乾かすのと同じだから。櫛もあったって」 が子供の頭を撫でると、安心したのか胸を撫で下ろしていた。 「オレって格好悪いよね〜。な〜んか自分でも転びそうだと思った!」 岸に上がった景時が、に櫛を手渡した。 「お兄ちゃん、ごめんなさい・・・・・・」 叱られるかと、顔が上げられない。 「ん〜?ちゃんが川に落ちたのなら怒っちゃうトコロだけどね!オレだから平気、平気〜。 今度から気をつけるようにっ。向こうで友達が待ってるよ?」 ぽんっと軽く少年の頭を手のひらで叩いた。 少年が振り返れば、少し離れた場所で数名の子供たちがこちらの様子を窺っている。 「うん!またね」 元気に走り去る姿を見送ると、景時は上着を脱いで搾り出した。 「景時さんっ?!」 「いや〜、少しは絞らないと。いくらなんでも乾かないってね!」 ばさばさと広げて、また着込む。 「もぉ〜、こっち来て!」 が景時の手を引いて、木陰へ向かって歩き出す。 木の下へ景時を座らせると、先ほどの櫛で景時の髪を梳きだした。 「え〜っと?大丈夫だからさ」 「大丈夫じゃありませんっ!」 (こんな格好いいところ見せられないよぅ) びしょ濡れの景時も心配だが、の心配は別のところにあった。 髪を下ろした景時の姿を、誰にも見せたくなかったのだ。 「え〜っと。櫛はね、濡れても平気なんだよ?濡れた髪だって梳くんだしさ〜」 「櫛の心配はしてませんっ。・・・・・・そりゃ、ぶつかられて手放しちゃったのは私だけど・・・・・・。 ごめんなさい。・・・大丈夫じゃないのは景時さんなの」 が項垂れる。 「あっと、その・・・うん。さっきも言ったけど。すぐ乾くと思うし」 景時が髪を掻きあげてから、の手を取るとが顔を上げた。 (!!!だめっ、こんな格好いいの見せられないっ) 、手でせっせと景時の髪をぐしゃぐしゃにする。 「え〜っと。ちゃん?」 「だめなのっ。こんな格好いい景時さんをみたら、女の人がわんさか来ちゃう!」 真っ赤になりながら景時の前に膝をついて髪をいじる。 景時は嬉しくなり、手を伸ばそうとするが─── (あ・・・オレってば・・・・・・) 全身びしょ濡れの己の姿を思い出す。 「あの〜、ちゃん?この体勢は、とても危険なんだけど・・・・・・」 「えっ?木の下ですよ?何か危ないの?落ちてくる?」 景時の前で無防備にも、上を見上げる。あるのは緑の葉の隙間からこぼれる日差しのみ。 「そういう危ないじゃなくてね。その・・・いまちゃんに触れると、濡れちゃうな〜なんて」 両手を広げた景時が、ずぶ濡れ振りをに見せる。 「やっ、その・・・私も・・・ううん。ここは外!お外だからダメっ」 しっかり景時と距離をとる。学習の成果がここに現れてた。 「じゃ〜、間をとって。暑いけど、走って帰ろ?それで、オレが着替えてちゃんをぎゅってする のはどうかな?」 これでどうだといわんばかりの笑顔で景時がに右手を差し出す。 「だって・・・そのままじゃきっと叱られちゃうよ?」 そろりと景時の手に手を重ねる。しかし、帰るまでに乾くとは思えない。 「大丈夫だって。ちゃんが濡れてなければ、小言なんてすぐ終わるから」 朔に叱られ慣れてきており、何気に性質が悪い。 「でも、でも。汗だくでぎゅっするの〜?」 困り顔の。女の子としては、汗臭い自分が嫌なのだ。 「・・・・・・着いたら水浴びするから。それでどうかな?」 「ち、ちがっ・・・景時さんじゃなくて・・・・・・」 「ん?オレじゃなくて〜?」 肝心のところで景時の察しが悪い。 「わた、わた・・・私が汗臭くなっちゃったら・・・そのぅ・・・・・・」 「ちゃんは臭くなんかないよ〜?」 手を繋いで歩き出しながら景時が続ける。 「でもさ、ちゃんが嫌なら歩いて帰ろう?別にさ、手は繋げるし・・・っていうか。こんなずぶ濡れ のオレなんかと歩いたら恥かしいよね?!」 突然、違うことに気づく景時。慌てての手を離す。 「恥かしくないよっ!そんなの平気だから。ダメなの、手を繋いでないと、景時さんに女の人が集まって 来ちゃうから、離さないでっ!」 から景時と手を繋ぎなおす。力が込められた手に、景時は嬉しくなった。 「え〜っと。うん。じゃ、のんびり歩こうか。もともと散歩しよ〜って出てきたんだし」 「はいっ!」 日陰を選んでのんびり家路に着く二人。 まだまだ夕方までには時間がある、夏の日の午後の出来事。 |
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30000HITありがとうございました!夏だし、公式ページの景時、前髪下ろしに萌v無理矢理下ろさせるべく、川に入れてみました。(←鬼だよ。氷輪/汗)
(2005.7.27サイト掲載)