サクラソウ





 すべてがいつも通りのはずだった。
 午後、書簡の使いを頼まれるまでは。

「おい、景時!これを届に行ってくれ」
 九郎が文箱を景時へ手渡す。
「御意〜。で?何処まで?」
 連絡事項の文くらいならば、景時以外でも問題はない。
 景時を指名すると言う事は、それなりの身分の者宛てと言う事だ。
「帝への書状だ。兄上から別途承っている」
「ええっ?!だったら九郎が行った方が・・・・・・」
 文箱を返そうとすると、弁慶が言葉を付け足す。
「そうもいかないらしいです。景時殿をご指名だそうで・・・・・」
「へ?オレ?何でまた・・・・・・」
 景時が首を傾げていると、九郎が頼朝からの文を景時へ突きつけた。
「ほら!兄上から俺宛の文の最後をよく読め!」
 文を手に取り、読み始める景時。
「え〜、何々・・・・・・・・・・・・意味わかんないんだけど、これ」
 景時が弁慶の方を見る。
「そうですね。しいて言うなら・・・帝への牽制なんでしょうかね?」

 最後の決戦の後、政子の軍は平氏一門を捕え損ねた。
 しかし、政子を責められる者はいない。
 その後和議をなし、安徳帝以下一門の者は京へ迎え入れられた。
 頼朝にとっては、帝より後白河院の方が邪魔だったためだ。
 院は法住寺で幽閉の身となっていた。

「牽制って・・・何の?」
 弁慶の言葉の真意が掴めない景時。
「・・・行けばわかりますよ。そうそう、文にもあった通りさんとお願い
しますね」
「・・・う〜ん。わかんないけど。じゃあ行ってくるよ」
 九郎の部屋を後にし、仕事部屋へ戻るとチョビを呼び出す景時。
「先にちゃんの所へ行って、お出かけの用意をして待っててって伝え
るんだぞ?」
 空へ向けて、チョビを放した。
「さて。片づけして、さっさと届けに行けるようにしないとな〜」
 文机の上を手早く片付け、源氏の拠点である京都守護邸を後にした。



 梶原邸では、モモに急かされたが簀子でチョビを待っていた。
 遠くから飛んでくるチョビが視界に入る。
「チョビ〜、ここだよ〜」
 手をふって居場所を知らせるの前の欄干に上手く着地した。
「チョビ〜、おやつかな?」
 首を横によるチョビ。そして、何やら動きを見せる。
「あ!景時さんのお使いだね。え〜っと・・・お出かけなの?私も?」
 チョビの持っていた小さな紙が消えた。読むと消える言伝の紙。
「うぅ〜。デートじゃなさそうだね。とりあえず着物着替えて待ちますか!」
 チョビとモモを欄干へ残し、部屋へ消える
 行き先は内裏らしいので、朔を探して支度を手伝ってもらった。



「ただいま〜って、また出かけるけど」
 景時の帰宅の声に、が玄関まで迎え出る。
「お帰りなさい、景時さん。チョビの伝言見ましたよ?内裏って?」
 の問いかけを無視して、立ったまま動かない景時。
「景時さん?」
 聞こえていないのかと、名前をもう一度呼んでみる。
「いつもの!」
 聞こえないのではなく、聞かないのかと溜息をつく
「だって、また出かけるんでしょ?」
「でも帰ってきたんだし・・・・・・出かけるけど・・・・・・」
 残念そうに俯く景時。
 は玄関に下りていないので、景時より高い位置にいる。
「おかえりなさい」
 いつものように景時の額にキスをすると、景時の腕がに回る。
「うん!ただいま〜」
 梶原邸では、誰もが見慣れているこの光景。
 今では以外、景時の声がしても主を迎える事はない。

「・・・それで?どうして内裏へ私も行くんですか?」
「わかんないんだよね〜。この書簡を届けろって。これ頼朝様のなんだよ
ね〜」
 文箱を見せる景時。
「お仕事のお手伝いなんですねっ。じゃあ行きましょうか。一応着替えた
んですけど・・・・・・」
 本日のは袿姿。正装まではしていない。
「可愛いよ〜。大丈夫、将臣くんに渡して終わりだと思うから」
「え?将臣くんに?」
「そ〜。将臣くんが朝廷と源氏の橋渡し担当だから」
 二人が話している間、右近がの着物を出かけられるように整え、草
履を用意していた。
「将臣くん、ちゃんと働いていたんですね〜。おやつ食べに来るだけかと思っ
てた」
 が草履を履こうとすると、景時に邪魔をされた。
「れれ?お出かけ出来ないですよ〜?」
「行ってきますだよ?」
「・・・私も出かけるんですけど・・・・・・・・・・・・」
 の腕を掴んだまま離さない。
「もぉ〜。景時さん?私も出かけるんですってば!」
 景時がを抱えて額に口づけた。
「うん。いってらっしゃい」
 仕方がないので、も景時の額にキスした。
「・・・いってらっしゃい」
 ようやくを離した景時。右近がの足に草履を履かせた。
「じゃ、右近さん。行ってきますね」
 右近が頭を下げて見送る。
 二人が外へ出ると、どこからともなくチョビとモモが飛んできて、定位置の
肩に乗っていた。



「景時さん、いつもは一人で行くの?」
「そ〜。九郎のお使いとか。頼朝様の書状届けたりとかだけね〜」
 今回の件は、帝なのか頼朝なのか?景時も判断しかねていた。
(でも、オレが一緒だし───)
「内裏って、広いですか?」
「広いねぇ〜」
「綺麗な女房さんがいっぱい居るんでしょ?」
「居るんだろうねぇ〜」
「もぉ!」
 景時の返事に、の頬がふくれた。
「でも・・・オレはちゃん以外可愛いと思わないし?ずーっとちゃんが
好きだったわけで・・・・・・」
 と繋いでいる手とは反対の方向を見ながら景時が呟く。
「えっと・・・いつからですか?」
「え?何が?」
「そのぅ・・・私をって・・・・・・」
 が俯く。
「初めて逢った時からかもね。ずぅ〜っと気になって。君ばかり見てた・・・・・・」
 景時の告白に、の方が顔が赤くなっていた。
「そ、そうなんですか。あは。私ってすっごいがさつで、食いしん坊で・・・ちっとも
イイトコロなかったかもなんですけど・・・・・・」
「いつも真っ直ぐ前を見ていたよ。オレは、眩しくて直視出来なかった・・・でも!
今はオレの嫁さん。一番大切な人だからね〜」
 急に茶化す。しかし、繋いだ手は、強く握られた。
「えへへ。景時さんは、格好いいから心配。もっと早く告白すればよかったな」
「そんな事言ってくれるの、ちゃんだけだよ」
 いつの間にか、朱雀門に着いていた。

「わ〜、ここが大内裏ですか〜〜」
「危ないよ、ちゃん」
 門を見上げているを背中から支えた。
「中務省へ行くよ〜」
 景時に手を引かれながらも、辺りを見回す
(クレーンとかないのに。こんなに高い建物が建てられるなんて。すごぉ〜い!)
 顔見知りが多いのか、警備の者に止められることもないまま目的地へ着いた。

「源氏の御大将、源頼朝様の書簡をお届けに参りましたぁ〜」
 仕事と口調がかみ合わない景時。
 景時の背でが吹きだす。
「景時さん、いつもそんな感じでお仕事してるんですか?」
「そ。知り合いばっかだし。いいの、いいの〜」
 右手をひらひらと振る景時。
「梶原殿。還内府殿が奥に」
 案内の者の後をついて歩く。通された部屋には、将臣がいた。
「よ!景時。待ってたぜ」
 軽く手を上げて将臣が迎える。
「待ってたって、将臣君は知ってるの?」
 景時が、を自分の前に立たせた。
「ああ。帝が龍神の神子に話があるそうだ。よろしくな、
「どうして?私、もう神子って言われても困るよ〜〜」
「まあ、そう言うなって。行くぞ」
 将臣が歩き出す。
「行くって・・・まさか清涼殿へ?!将臣君じゃないんだから。簡単に入れないよ」
「だから俺がここで待ってたんだって。ほら、こっちだ」
 と手を繋いで将臣の後ろに続く景時。

 建礼門、承明門と通り過ぎ、さっさと殿上の間へ足を踏み入れる将臣。
「将臣くん!オレは・・・・・・」
「いいんだって。上がれよ」
 景時には殿上の身分がない。それなのに上がれるのだろうか?
「帝のお召しだからな。今日はOKって事だ」
(帝の・・・・・・頼朝様の書状を届けるだけなのに?)
 訝しいが、仕方がないので言われるまま部屋に上がる。
「ちょっとここで待ってろ」
 将臣はそのまま帝の所へ向ったようだった。

「景時さん、どうしたの?」
「ん〜?普通は帝に直接お目にかかることはないんだけどねぇ・・・・・・」
 嫌な予感がするが、ここまで来て引き返せはしない。
ちゃん・・・嫌な思いさせちゃったらごめんね。何かありそうなんだ・・・・・・」
「景時さんの所為じゃないですよ。私に用事があるみたいだし。私の方がごめん
なさいですよね」
 景時の肩にが寄りかかると、チョビとモモが姿を消した。

「待たせたな。皆そろってるわ。来いよ」
 将臣の先導で、昼の御座へ入る。
 景時の見知った顔も中にはあった。
(陰陽寮の・・・・・・)
 帝の正面に向かい合い腰を下ろす将臣。
 将臣の手招きに応じて、その少し後ろに景時とは並んで座った。
「ほら。連れてきてやったぜ。話があるんだろ」
 帝に対して随分な口調だが、誰も将臣に意見するものは居なかった。
「還内府殿、すまなかったな。私は神子を見たかっただけだが・・・・・・」
 壁際に居並ぶ者たちに視線を向ける安徳帝。
「おら。オッサンたち話せってさ」
 将臣が急かすと、一人が前へ進み出た。

「龍神の神子におかれましては、この度の活躍の噂は聞き及んでございます。
梶原殿の妹御はすでに出家され、仏門に仕える身との事ですが・・・・・・」
 続きを言いよどんでいると、将臣が続きを言った。
は出家していないから、宮中へ出仕しろってさ。このオッサンたちは、そう
帝にご進言下さったというわけだ」

 ここでようやく景時にも話が見えた。
 を、『源氏の神子』を宮廷へ出仕させ自分たちの株を上げようとする貴族の
腹づもりと。
 陰陽寮と神祇官の者たちは、実際の神子の力を知りたいのであろうと言う事が。
(大変嬉しくないお誘いなわけね・・・オレはちゃんを呼び出す餌か───)
 頼朝へ使者を立てたのは真実だろう。
 返事は自身に聞けと返され、このように遠まわしに呼び出され今に至る。
(弁慶は知ってたな・・・参ったね・・・・・・)
 九郎に知られないように、あの場では言えなかったのだろう。
(何も知らないちゃんが、返事しちゃったらどうするんだよ───)
 一度言葉にしてしまえば、取り消しはきかない。
 この場でにそれを伝える手段もない。景時のこめかみに、汗が伝った。

「嫌ですよ。私、こう見えて忙しいし。こんなに遠くまで毎日来るの大変だし」
 あっさり拒否した。貴族がさらに前に進み出て、言葉を重ねる。
「毎日でなくても結構です。迎えの牛車をやりましょう。いかがでしょうか?」
「嫌って言いましたよ?」
 またもは拒否をする。貴族の者の態度が変る。
「立場をわかっていないようですね。あなたは龍神の神子なのですから。国の為、
帝のために仕えるのが筋というものです。今まで好き勝手にさせておきましたが、
これからはそうはいきません」
 沈黙が流れる。将臣も動く気配はない。景時は、ただ己の無力さを悔いた。

「・・・・・・立場って何ですか?」
「龍神の神子の力は、国のものと言う事です。そこの男が独占していいものでは
ないし。ましてや、『源氏』に限定されるべきものでもない」
 貴族が馬鹿かという態度で言い返す。
 
 突然立ち上がる
「そこの男って誰の事?」
 が腰に手を当て貴族を睨みつける。
「・・・梶原殿と婚儀をあげられたそうですが。我々は許可しておりません」
 の怒りが頂点に達した。

 将臣が待っていたもの───それはこの状態。
「ちょっと!私の大切な景時さんを『そこの男』呼ばわりしてくれたオジサン!この
際だから、はっきり言いますけど。私がここへ残ったのは、景時さんと暮らす為で
あって。景時さん居ないなら、元の世界へ帰ってもよかったのよ。その辺、ご理解
いただいてないみたいね?ついでに。龍神が私を選んだの。つまり、私が代理人
になるわけなのよね、龍神の意思の。立場とか、煩い事言われる筋合いないんだ
けど。私がしたくない事は、龍神の意思ではないって事だと思わない?久しぶりに
すっごいむかついたぁ。将臣くん、こんなつまんない事の為に呼び出されたのかな、
私たち」
 は将臣に近づくと、その胸倉を掴んだ。すると、奥から笑い声が上がる。
「還内府殿の話の通りだな。神子殿、その手を離してくれ。此度の件は、私が断れ
なかったのが悪かったのだ」
 の指の力が抜け、将臣の口が笑っている。
「だから言ったのに。オッサンたちが無理強いすると、こいつ景時連れて帰っちまう
だろうってな。あんまり怒らせるなよ、雷来るから」
 将臣が馬鹿笑いを始めると、今まで威勢のよかった貴族たちが平伏した。
 この時代の雷は、神の怒り。
 しかし、が取った意味は───
「ちょっとぉ!それじゃ私が怒りんぼみたいじゃない。ほんと失礼しちゃうっ」
 景時の隣に座ると、景時の腕にしがみ付く
「ぜ〜ったいに離れないんだから。んべっ!」
 将臣に向けて舌を出す。景時の胸に温かいものが広がる。
(また助けられちゃった───もしかして、こうなる事を予想して?)

 帝の前で怒り爆発のが可笑しくて仕方ないが、笑ってばかりも居られない。
 将臣がその場を仕切った。
「龍神の神子は、梶原殿の傍から離れないそうなんだけど。オッサンたちの意見は
どうなんだよ?」
 誰も返事をしなかった。
「じゃあ出仕はなしでいいんだな?返事がなければそれで裁決していいよな?帝」
 帝の扇が鳴らされた。
「じゃ、出てってくれないか?オッサンたちは。で?陰陽寮と神祇官の見解は?」
 残りの者たちの意見を問う将臣。
「我々は・・・神子殿のお力を・・・・・・」
「力を?」
 将臣が大きく息を吐き出す。
「お借りしたく・・・・・・」
「借りたいんだってさ。どうすんだ?」
 に視線を移す将臣。
「どうって・・・ここに来なきゃいけない理由もないもん。用事があるなら家に来てね。
景時さんのお友達なら歓迎するし。私、奥さんだから」
 またも笑い出す将臣。
「お前サイコーだよ!そりゃそうだな。用事があれば、景時を訪ねろだとよ。ほら、
話は終わりだ。出て行け」
 残りの者たちも退出していった。

「さて、帝と話をするか。前へ・・・・・・」
 将臣が動くより早く、帝が景時との前に座った。
「すまなかったな。あの者たちが煩くて、還内府殿に相談したのだ。これが一番いい
と言うのでな。真、勇ましいな神子殿は」
 帝の態度に安心したのか、も謝った。
「騒がせちゃってごめんなさい。でも、帝を手伝いたくないわけじゃないんです。ただ、
どこかに属してしまうと、ほんとうにこの力を必要としている人たちのために力を使う
ことができなくなりそうで・・・・・・」
 が頭を下げると、帝がの肩に触れる。
「いいんだよ、神子。私には、還内府殿が居る。貴女の力を間違って使われない努力
をするよ」
「ありがとうございます」
 が顔を上げた。
「ほんとうに・・・還内府殿が言う通りの方だな」
 将臣の膝にちょこんと座る帝。
「だろ?怒りっぽくて困るんだよな〜。景時以外止められないし」
「私から何か二人に贈れば、誰も文句は言わなくなるであろうか?」
 景時の肩が揺れた。
 景時は頼朝に仕える身。それでは微妙な立場に立たされてしまう。
「気持ちだけで十分!ね?景時さん」
「あ・・・その・・・・・・」
「誰も居ないから、いつも通りでいいぜ?景時」
 将臣が促す。
「はい。今の出来事で、恐らく誰も文句を言う事はないかと・・・・・・」
「そうか。だが、何かあったらいつでも言ってくれ」
「はっ」
 帝に頭を下げる景時。
「じゃ、これで今回の騒動もおさまったし。景時、帰り道わかるよな?」
「あ・・・うん。わかる・・・・・・」
「俺は帝の傍を離れられないから。すまないけど、勝手に帰ってくれ」
 帝を抱えて将臣が奥へ消えていった。

「はぁ〜。なんだか・・・またちゃんに守られちゃって。オレって・・・・・・」
 景時が足を崩して項垂れた。
「違いますよぅ。景時さんを巻き込んじゃったの私だし・・・それに・・・私の事、嫌いに
なっちゃいました?」
 が景時の手を取って、顔を覗き込む。
「・・・どうして?嫌われるならオレでしょ。君に嫌な思いさせちゃうし、守れないし」
「よかった〜。嫌われてないならいいの。思いっきり怒っちゃったから・・・その・・・・・・
お行儀悪くしちゃったし・・・・・・」
 が景時の頬にキスをした。
「景時さんが一番ですからね!帰りましょう」
「そうだね。帰ったら・・・膝枕してね!」
「え〜、私もして欲しいのにぃ」
 顔を見合わせて笑う二人。手を繋いで歩き始める。
 いつの間にか肩にはチョビとモモが乗っている。

「景時さん、寄り道しませんか?」
「寄り道〜?」
「ちょこっと曲れば寄れますよ〜、京都守護邸」
 が景時を見上げる。
ちゃん?」
「ね!」
 に言われるままに手を引かれて、職場の門をくぐり、九郎の部屋の前に立つ。
「九郎さ〜ん、弁慶さ〜ん、入りますよぅ?」
 が戸を開けて入ると、丁度二人が居た。
・・・どうした?景時まで・・・・・・」
 九郎にはわからなくても、弁慶にはわかった。
さん、景時殿、お疲れ様でした」
 先に労いの言葉をかける弁慶。
「そぉ〜なんですよ、疲れちゃったの。遠いし。でね、お願いに寄り道したの」
 可愛らしく両手を合わせる。だが、顔は笑っていない。
「お願いって・・・何だ、藪から棒に・・・・・・」
 九郎の顔が顰められた。
「景時さんに明日お休み下さいねv今日はとっても大変なお仕事だったんですから」
「書簡を届けただけだろうが・・・・・・」
 聞く耳持たないという態度で九郎が却下すると、弁慶が取り成した。
「まあまあ。さんは帝に謁見されたのですか?」
「そ〜ですよ。だから私もとっても疲れちゃったの。景時さんが居てくれると嬉しいのv」
 景時の腕にしがみ付く
 二人の頭には、それぞれももんがが乗っていて、ちっとも真剣に聞こえない。
「そういう話なら・・・・・・」
 九郎が怒るより先に弁慶が許可を出した。
「そうですね。一日だけですよ?」
「わ!さすが弁慶さん。話がわかるぅ〜」
 がぴょんと飛び跳ねた。
「弁慶!勝手に・・・・・・」
「では。九郎が帝に謁見の際は、お一人でどうぞ」
「それは!・・・・・・」
 九郎が渋々といった様子で納得した。
「仕方ない。明日一日だけだぞ」
「ありがと〜、九郎さん。行こう、景時さん。疲れちゃったからお家でお昼寝しよ〜」
 景時に何も言わせずに、腕をひっばり部屋を後にする

 二人が居なくなると、九郎が弁慶に問いただす。
「どう言う事だ?弁慶」
「話せば長くなるんですが・・・・・・さんの龍神の神子の力を・・・・・・」
 九郎へ理由を説明する弁慶。
「そういう事か・・・・・・それは悪い事をしたな・・・・・・」
「ええ。さんがお怒りでしたから。景時のお休みくらいなら安い物でしょう?」
 頼朝が出仕するなというと都合が悪い。源氏側の誰が行っても朝廷の貴族は納得し
ないだろう。しかし、が出て行き事を収めれば、それはの意思である。
「怒って・・・いたか?」
「ええ。景時殿に一言も話させないし。まして、本日の出来事を一言も言わない辺り、
思い出したくもないと言う事でしょうね。後で将臣君に話を聞けるとは思いますが」
 九郎は背筋が寒くなるのを感じた。
 が怒る───それは、破壊活動をも意味する。
「よし、弁慶!明日も覚悟して働け。共同責任だ」
「はい、はい。そのつもりですよ」
 本日の残業決定の二人が、顔を見合わせて笑った。
 朝廷でも、常の如く貴族を怒鳴りつけたであろうの姿を想像して───



 梶原邸への帰り道。さらに寄り道をする二人。
ちゃん?あの・・・・・・」
「明日、お休みですからね!いっぱいイチャイチャしましょうね」
 が景時に笑いかけると、景時が満面の笑みでを抱きしめた。
「・・・ありがとう、ちゃん。元気出た」
「よかった〜。景時さん、あのお花、摘んだら駄目かな?」
 道端に桜草が咲いていた。
「あぁ、いいんじゃないかな。可愛い花だね」
「でしょ?花言葉っていうのがあるんですよ。それも、色々たくさんあって。どれが正し
いっていうものでもないんですけど。桜草の花言葉はね・・・・・・」
 が一本桜草を摘むと、景時に差し出す。
「『勝者の余裕』っていうのもあったと思います」
 手を繋いで家を目指す。
「二人でお昼寝しましょうね。こんなに重い着物着て、肩こっちゃった」
「え?イチャイチャが先じゃないの?」



 本日の駆け引きの勝者は、誰?───





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望美ちゃん最強!景時さんの悪口厳禁(笑)でも、ほんとうの勝者は誰でしょうね〜?     (2005.3.26サイト掲載)




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