映画を観よう!     (知盛編)





「おはよ〜。・・・・・・やっぱりね」
 
 今日は土曜日だ。は知盛と映画を観る約束をしていた。
 しかし、八時半にを迎えに来るはずの人物は姿を現さなかった。
 合鍵を使って知盛のマンションの部屋へ入る
 チェーンもかかっていない上に、靴が散乱している。

「・・・・・・脱ぎ散らかしてるし」
 いつもは金曜日に泊まるのだが、昨日に限って言えば仕事が長引くと言われた。





「・・・ここで待てばいいだろ?」
 知盛に先週ソファーで言われた時の事を思い出す
「知盛いないのにココにいてもつまんないもん。帰り時間わかんないとか言うし。土曜日に迎えに来て!」
 つまらない意地を張ったのは
 知盛は軽く肩を竦めると、の意見を受け入れた。
「・・・クッ、わかったよ。神子殿」





 脱ぎ散らかされた服を、玄関から拾い集めながら部屋へと進む
 昨晩の知盛の苛々ぶりが伝わる。

「ネクタイをここで投げてぇ・・・・・・上着がここ。ここでシャツ脱いだんだぁ・・・・・・。あ。ボタン取れてる・・・・・・」
 シャツは脱いだというより、ボタンをとるのももどかしく引き千切ったに近い。
「あぁ〜あ。このシャツいい色なのに。ボタンみぃ〜つけた」
 ボタンも拾ってさらに服をかき集めながらバスルームへ向かう。

「はぁ・・・・・・。こりゃ・・・濡れたまま寝てるね」
 床が水浸しである。
 洗う衣類は洗濯機へ放り込み、スーツはとりあえずソファーへ、ボタンや小物はテーブルへ置いた。


 雑巾で知盛の足跡を拭きながら寝室の前まで進む。
「・・・・・・寝てるし」
 寝室のベッドの傍まで拭き進むと、バスローブを着ただけでうつ伏せで寝ている知盛が居た。
「しょ〜がないなぁ」
 一度雑巾を置きに戻る。

 タオルとドライヤーを手に、再び寝室へ入る
「・・・頭半乾きだよ・・・・・・。ドライヤーは・・・起こしちゃうかな?」

 静かにベッドに座ると、知盛の頭を撫でてみる。
「いいなぁ・・・ドライヤーしなくてもこんなにサラサラで。朝一番の回は間に合わないし、もう少し寝せてあげよ」
 サイドテーブルに、タオルとドライヤーを置く。

「顔見たいなぁ・・・・・・」
 が座っているのと逆を向いているのだ。

 静かに立ち上がると、反対側へ歩く。
「えへへ。いい感じに空いてる・・・・・・」
 そろりと知盛の隣に横になり、寝顔を眺める
「寝てても綺麗な顔だよね。後一時間だけ寝ててもいいからね」

 顔を眺めるつもりが、すぐに寝入ってしまった。





 確かに知盛は寝坊をした。
 昨日は相手に合わせたために、明け方までの仕事となった。

「やれ、やれ。何だって俺が・・・・・・」

 乱暴に玄関を閉めて靴を脱ぐ。腹立ち紛れに片手でネクタイを取り、放り投げた。
 何かを手に持っているのも嫌で次々に放り投げる。
 シャツに至っては脱ぐのすら面倒で、ボタンが飛ぶのも構わずに脱ぎ、そのままバスルームへ直行。
 シャワーを浴びたはいいが今度は拭くのが面倒で、バスローブを羽織ると寝室へ向かいベッドへダイブした。


 が来たのは知っていた。
 気配でとわかったので獲物がかかるのを寝室で待っていたのだ。
 しかし、の視線を感じる内は動かない方がいいとの判断が───


「・・・クッ・・・もう寝てやがる・・・・・・・・・・・・」
 小さな寝息を立てて知盛の隣では寝ていた。
「・・・楽しい時間が過ごせると思ったのに・・・な?」
 すっかり当てが外れた知盛。
 ゆっくりと起き上がると、の服を脱がせに取り掛かる。

「・・・へえ?今日はピンクね・・・・・・・・・・・・」
 しっかり下着姿にすると、ベッドへを引き入れた。

「もうしばらく休ませてもらうぜ?」
 を腕に抱いて知盛は目を閉じた。





 時計が昼を指す頃にが目覚めると、知盛と目が合う。
「おはよ・・・・・・起きてたんだ」
「・・・ああ」
 普通に挨拶したものの、しばし考える
「・・・・・・私、昨夜泊まってないよね?」
「・・・・・・そうだな」

 が跳ね起きた。
「どぉ〜してこんな格好で寝てるのよぉぉぉぉぉ!!!」
 知盛は仰向けになり伸びをする。
「服は・・・破いても皺にしても怒られたから・・・だな」

 知盛には前科があるのだ。
 を無理に押し倒した時に服を破って泣かれた。曰く、お気に入りの服だったらしい。
 次は、知盛を待っていてソファーで眠ってしまったであろうを、親切にもベッドへ運び寝せたのだ。
 しかし、服のままだったため皺になり、翌朝着替えくらいさせろと文句を言われた。
 知盛にしてみれば、三度目の正直。

「だからって、だからって・・・・・・知盛のお馬鹿ぁ!」
 枕を投げつけられる知盛。軽く手で受け止めて被害はない。

「・・・クッ・・・俺に好都合というのは認めるがな?」
 の手首を引っ張ると、ベッドへ沈めた。

「・・・何よ」
「羊さんは可愛らしくするもんだぜ?」
 に深く口づけた。

「んぅっ・・・・・・ぅ・・・・・・・・・・・・・・・映画っ!」
 両手で知盛の顔を押しやり、本日のデートプランを叫ぶ
 溜め息を吐きながら知盛が時計へ手を伸ばし、へ見せた。

「きゃーーー!二回目にも間に合わないじゃない。せめて三時には間に合わせようよぉぉぉ!」
 を押さえつけたまま、時計を戻す知盛に必至の抵抗をする。
 知盛が片眉を上げた。
「今からが楽しい時間だ・・・・・・映画は諦めろ」
 近づく知盛の顔をぐいぐいと両手で押し止める
「嫌ったら、嫌なのっ!デートがいい、デートぉぉぉ!」
 足まで暴れだすに、すっかり興醒めの知盛がを抱き起こして抱えた。

「姫君は・・・疲れている哀れな男を慰めては下さらない?」
「・・・知盛は哀れじゃないもん」
 微塵も哀れんで貰えそうもなく、知盛が笑い出した。

「・・・では、どうすればご満足いただけますか?」
 の頬にキスをしながら、機嫌が直るよう探りを入れる。

「・・・・・・普通のデートしたいんだもん。と、友達が・・・・・・その・・・映画・・・とか。いいなぁって」
 こちらの世界では、は高校生なのだ。
 知盛が思う“デート”と、が考える“デート”には差がありすぎた。

「両方すればいいんだろ。楽しく過ごして、早めに夕食を外で食べて夜の回の映画を観て」
 が知盛に抱きついた。
「なぁ〜んか騙されてそうなんだけど。映画の時間調べなきゃね」
「七時十二分だ」
「へっ?」
 まだ何も調べていないのに、知盛の口から即座に答えが返ってきた。

 が知盛の首から腕を離しその目を覗き込むと、知盛の口の端が上がる。
「・・・・・・最初から予定通りだぜ?」

 すべては知盛が朝帰りになった時点で仕組まれていたのだ。
 まんまと知盛の罠にはまり、迎えに来てしまった

「知盛のお馬鹿ぁぁぁ!!!知らないっ」
 に押し倒された知盛。



 二人が無事に映画を観られたかは不明。






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微エロ・・・かな?ゲームであのセリフが許されるなら、こちらもセーフでしょう(笑)     (2005.10.9サイト掲載)




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