映画を観よう! (銀編) 「大丈夫かな・・・・・・銀・・・・・・」 今日は土曜日だ。は銀と映画を観る約束をしていた。 しかし、八時半にを迎えに来るはずの人物は姿を現さなかった。 今まで約束に一分たりとも遅れたことなどない銀。心配でここまで走ってきた。 合鍵を使って銀のマンションの部屋へと思い、鍵を入れて回すと開いた音。 だが、チェーンがかかっている。 「うぅ・・・・・・入れない・・・・・・」 チェーンがかかっているのは、中にいる証拠ではある。 が、中で銀が倒れていても入れないという事にも繋がる。 「もぉ!壊しちゃうぞ?」 小声で物騒な事を呟く。その時、中から人の気配がした。 「銀?!」 「・・・申し訳ございません、神子様。一度閉めさせていただきますね」 の目の前で扉は閉められてしまった。 「・・・・・・これ・・・サビシイかも・・・・・・・・・・・・」 拒否されたのではないのはわかっている。 けれど、目の前で二人を遮るドアが恨めしかった。 「神子様、申し訳ありませんでした。約束のお時間が大分過ぎてしまいましたね」 静かに開いたドアからは、困ったような顔で微笑む銀が立っている。 ここでキツイ言葉は発したくはなかったが、心配した分つい冷たい言葉が出てしまう。 「・・・・・・神子様じゃありません。です。・・・・・・銀が病気かと思って・・・・・・・・・・・・」 銀の腕がに回された。 「申し訳ございません・・・昨日は少々込み入った仕事がございまして・・・・・・」 が銀にしがみ付いた。 「いいの・・・無事なら・・・・・・でも、目覚まし使えばいいのに」 銀がの額へ口づける。 「酷い人ですね、貴女は・・・・・・声を聞いただけで、他は何も手につかなくなってしまうのに」 おそろいで買った目覚まし時計。お互いに相手を起こす声を吹きこんだのだ。 「私は毎朝銀の声で起きてるよ?どうして銀は嫌なの?この前もそう。目覚ましは使えないって」 銀の声で起きるのが嬉しい。時々声だけを再生して楽しんだりしている時計は宝物だ。 銀にとってはそうではないらしい。 理由を尋ねても、いつもはぐらかされていた。 「使いましょう?そうすれば、安心して寝られますよ?音が鳴るまでは寝てていいんですから! せっかくおそろいだし、神様が使いなさいって事ですよ」 神様の思し召しだとまで言い切る。 今までは『起きられるから使わない』と断言していたのだが、今日ばかりは無理と判断し、誤魔化 し続けた本音を告げる事にした。 「貴女の涼やかなお声を聞いたら、姿もみたいと願うのは私の我儘なのです。お許し下さい」 「なっ・・・携帯あるから、姿もホラ!見られるでしょ〜?」 自分の携帯を取り出し、銀と二人で撮った画像を見せる。 よもや声だけでは不満だったとは思わず、ならばとばかりに見せる。 銀の携帯の待ち受けにも二人の画像が納められているのだ。が設定したのだから。 「逢瀬を心待ちにしているのは、私だけなのですね。姿を・・・とは、貴女に触れたい・・・と・・・・・・」 銀の唇がの額に触れた。 「・・・携帯をみれば、貴女に触れたくなるのですよ?」 「もっ、もぉ!銀は反則だよ、そういうの・・・・・・私が逆らえないの知っててしてるでしょ・・・・・・」 が大人しいのをいい事に、軽く首を傾げると今度はの唇をつ啄ばむ銀。 「・・・ならば、姫君をお待たせしたのですから・・・どんな罰でもこの身に受けましょう」 両手を広げ、が動くのを待つ。 すると、口を尖らせたがくるりと銀に背中を向けた。 「ずるいっ。もういいです。・・・・・・朝ご飯、作りますね。簡単なのでいいですよね」 悲しげな銀を見て、それ以上追求できはしない。 それよりも、昨日は余程疲れたのだろうからと朝食を作ろうと思い立つ。 「それはなりません。今ならまだ映画に間に合います」 「ダメ!朝ご飯は食べないとカラダに悪いんです。映画なんて次でもいいんだから! ・・・・・・命令じゃないですからね?」 台所へ行こうとして引き止められた腕にかかる銀の手を、やんわりと離させる。 「・・・・・・傍にいてもよろしいでしょうか?」 「・・・いいですよ。でも、顔を洗うのが先ですよ?」 しっかり銀に言いつけると、はキッチンへ行き冷蔵庫を開ける。 「何がいいかな〜。朝だし、お味噌汁は豆腐とネギあるし。おかずは・・・鮭があるね!お野菜が ないなぁ・・・・・・大根でも卸してみる?和食にブロッコリーは変かなぁ」 適当に材料を並べて、朝食作りに取り掛かる。 洗顔を終えた銀がの後に立った。 「・・・神子様。お傍にいてもよろしいのですよね?」 が振り返って見上げれば、銀が立っている。 「いいけど・・・・・・ですよ?」 「それは・・・・・・お許し下さい」 何度か名前を呼ばせようとチャレンジしているが、銀の口は堅かった。 「次こそは呼んでもらいますからね!」 が動こうとすると、腰に手を回される。 「え〜っと?」 「お傍に・・・・・・」 少しばかり動きづらいが、銀の目を見ると拒否できずにそのまま食事を作り始める。 ぴったりと背に銀が張り付いている。お傍どころか、一センチも離れてはいなかった。 「そう、そう。今度、ご飯が少しだけあまったら鮭でお茶漬けとか美味しいですよ?わさびとか入れると すっごい感動しちゃう味に変わるの」 「・・・・・・ひとりで・・・ですか?」 銀はこちらの世界で一人暮らしをしている。 がまだ高校を卒業していない為に、両親公認ではあるが一緒には暮らしていない。 「だって・・・・・・いつも私がいるわけじゃないし。夜遅くなった時とか・・・何か食べないと・・・・・・」 も悪気があって言ったわけではなかった。 ただ、銀にとっての食事は体を維持するためと考えている節がある。 どうすればきちんと食事をしてくれるのかと密かに悩んでいたのだ。 冷蔵庫の食材も、と買い物へ行かない限り買う気が無いらしい。 が来ない時はどうしているのか疑問は尽きない。 「二人で・・・は駄目でしょうか?」 銀の手がの頬に伸びる。その手の力に従い、ゆっくりと銀の方を向く。 「・・・いいですけど・・・二人分のご飯があったら、余ってるっていう感じじゃないですね?」 銀の目が見開かれた。 「これは私としたことが。・・・姫君に遣り込められてしまいました」 「意地悪してませんよ?もうすぐ出来ますから、向こうで待ってて下さい」 が銀の手を軽く叩く。しかし、離される気配はまったくない。 「銀?後はお魚待ちだし。ほんとにすぐに出来るから・・・・・・」 早く作らねばと、茹でたブロッコリーを湯切りする。 こちらも後はドレッシングと和えるだけ。 「私は・・・貴女と離れたくは無いのに・・・・・・十六夜の月の如く、すぐには姿をみせて下さらない・・・・・・」 「銀?!どうしちゃったの?」 泣き出しそうな銀に驚いて、が火を止めて銀の頬に手を添えた。 「貴女と共に生きるためにこの世界へ来たのに・・・・・・」 の手を取り、指先へ口づける銀。 「次の逢瀬が待ち遠しいのは私ばかり・・・・・・」 「そ、そんな!私だって週末楽しみにしてるんだよ?それに・・・平日だって待ち合わせしてお買い物して。 ご飯作ってとか、奥さんみたいで嬉しいし・・・・・・」 一気にしゃべった後、が大きな溜め息を吐いた。 これは銀の欲しい言葉ではないと感じる。 (どうすればいいかな・・・・・・) が言葉を考え出してしまったために静まり返った空気。 沈黙を破ったのは銀だった。 「・・・貴女を困らせるつもりではございませんでした。忘れて下さい」 銀がテーブルへ行こうとするのを、今度はが引き止めた。 「もう。何だか心配で目が離せません。ここに置いて下さい」 「・・・ここに・・・とは・・・・・・」 何をここに置くというのだろうと、振り返った銀が首を傾げる。 「私をですっ!それより朝ご飯が先。次は私の家に来て、当面の荷物を運んでもらいますからねっ。これも 命令じゃないつもりなんですけど・・・・・・」 のいう事は何でも聞いてくれる銀。 嬉しいことではあるけれど、逆に心配な場合もあるのだ。 銀の意思ではなく、の命だから従っているのではと。─── 「私と・・・暮らして下さるのですか?」 銀の手がに伸びる。 「・・・・・・邪魔?」 「いいえ・・・・・・今宵からはもうひとり寝ではないのですね。毎夜貴女に夢でもいいから会いたいと、ただそれ だけの為に目を閉じておりました・・・・・・」 しっかりと銀に抱き締められ、逃げられないの耳は既に真っ赤だ。 「え〜っと・・・はい。その、そんな感じで・・・・・・これからよろしくお願いします。あと、パパに挨拶して下さいね」 待ちこがれた十六夜の月を手に入れた銀。 映画はすっかり忘れ去られていた。 |
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ややニセ気味な銀。さびしんぼうアピール作戦で望美ちゃんを陥落v (2005.10.18サイト掲載)