映画を観よう!     (将臣編)





「おはよ・・・・・・って、靴あるし」
 
 今日は土曜日だ。は将臣と映画を観る約束をしていた。
 しかし、八時半にを迎えに来るはずの人物は姿を現さなかった。
 合鍵を使って将臣が一人暮らしを始めたマンションの部屋へ入る
 チェーンもかかっていない上に、いつも履いている靴が玄関にあった。

「・・・・・・もぉ!遅れそうならメールくらいしてよぉ」
 いつもは平日デートなのだが、今回は土曜日にバイトが休みという将臣に合わせたのだ。
 朝から一緒だと喜んでいたのに、将臣からは電話もメールも無いまま今に至っている。





「・・・最近新しい奴がバイトに入ってさ。土曜日、久しぶりに休めそうなんだ。その代わり金曜日がキツイけど・・・・・・」
 将臣に先週ソファーで言われた時の事を思い出す
「別に無理して会わなくても、学校で一緒だし・・・・・・。将臣くんにノート見せに来てるような感じだし」
 二人そろって大学生になった。しかし、一人暮らしを始めて家を出た将臣の生活の中心はバイト。
 代返したり、ノートのコピーを届けるのがの役目になりつつある。
「わりぃ・・・・・・でもさ・・・沖縄にも行きたいんだよな・・・・・・」
「わかってるよ。そういう意味じゃないよ。一日一緒は久しぶりだね。嬉しいな」





 静かに部屋へ上がると、食事をした形跡は何もなかった。
 ないわけではないが、いつの食事かが不明。
 ついでに、掃除をした形跡もまったく無かった。

「夕ご飯も食べてないのかな?え〜っと・・・・・・どこ歩けばいいの〜?」
 まずは散らばるコンビニ弁当のゴミを分別しながら片付けて、使われていないキッチンを見て溜め息を吐く。

「・・・毎日、何食べてるのよ・・・・・・少し来ないとこれなんだから」
 キッチンにゴミが無い。無いのではなく、未使用なので何も無いのだ。

「・・・無理して土曜日お休みとってくれたのかな・・・・・・」
 水曜日に学校で親友の話をしたのだ。彼女がデートで観たという映画の話を。
「・・・映画もだけどさ。待ち合わせとかして・・・普通にデートしたかっただけなんだけどな」
 学校や帰り道の途中で食事をしたりするようなついでではなく、何処かへ出かけるという事をしたかったのだ。 



 足音を忍ばせて将臣が寝室にしている隣の部屋へ向かうと、静かにドアノブを回してドアを押す。
「・・・・・・寝てる」
 ベッドの傍まで近づくと、枕を抱いて眠っている将臣。
「ちゃんと上も着なよ・・・・・・」
 グレーのスウェットの下だけを穿いて、表現のしようがない寝相で眠っている。

「・・・疲れてるんだよね。目覚ましこれだし。携帯にも出ないし・・・・・・・・・・・・」
 将臣が投げたであろう目覚まし時計を拾う。少し見回すと、飛び出てしまっていた乾電池を見つけた。
「壊れてなければいいけど・・・・・・」
 静かにベッドに腰掛け、時計に電池をセットすれば表示はリセットされていた。

「え〜っと・・・・・・・・・・・・うん。よしっ」
 は自分の腕時計を見ながら、将臣の目覚まし時計の時刻を合わせてベッドの傍の机に置いた。

「さてと。折角の招待券だしね。誰か別の人と行ってくるからね!」
 振り向いて将臣の額を撫でて立ち上がろうとすると、反対の手を掴まれ将臣の上に寝転んでしまった。
「ひゃっ!?・・・・・・将臣くん?」
 を抱えたまま、肘枕で起き上がる将臣。
「だ〜れと映画に行くって?」
「だ、だって。迎えに来てくれないし・・・チケットもったいないし・・・・・・譲くんとか、午前中でクラブ終わるし」
「で?」
 の髪を抓まんで引っ張る。
「将臣くん疲れてそうだし・・・その・・・無理しなくていいよ?」
「ば〜か!」
 枕を放り投げて、をしっかりと抱き締めた。

・・・・・・今日、泊まってく?」
「えっ・・・・・・」
 時々は泊まるが、今日は考えていなかった
「・・・返事によっては、この後の予定が変わるんだよな〜」
「もう既に変わっちゃってるよ。映画、始まってるもん」
「そう言うなって。返事は?」
 まるで離す気が無いらしい腕から逃れる術はなく、はしばらく動かずに黙っていた。

「・・・・・・んだよ。怒ってんのか?待たせたのは悪かったよ」
 反省しているらしく、将臣が素直に謝った。

「・・・だったら早く起きなよ。次の回も間に合わないよ、これじゃ」
 離してもらえるかと、が起きようとする。が、腕は離されなかった。
「・・・間に合わないと思うんですけどーーー」
 後を振り返ると、将臣にキスをされる。も将臣を受け入れていた。



「・・・・・・将臣くんが悪いんだよ?」
「ああ。ぜ〜んぶ俺が悪い。・・・・・・でも、しばらく放っておかれたのは俺じゃね?」
 
 サークルの集まり、補講、親友と出かけたりとの方が将臣の時間に合わなくなっていた。
「だ、だって。そんなの今週だけだもん。いつだって将臣くんを待ってばかりで・・・・・・・・・・・・」
 
 将臣が溜め息を吐く。
「・・・嫌々待っていたのか?だったら無理に待たなくていいって言っただろ?」
「そうじゃないもん。そんな事ない!私がしたくてしてるのっ」
「そっ、ならいいさ。合わせてもらうのは嫌なんだ。・・・・・・で?今日は泊まる?」
 の耳元で“泊まる”という部分だけを強調する将臣。

 が真っ赤になって暴れだす。
 お互いの両親公認なのだから、構わないといえば構わないのだが。
「そ、ど、どうして泊まらせたいのよぅ。ご飯なら作ってくし、洗濯だってしてくよ〜〜〜」
 手足を動かすものの脱出は叶わなかった。



「ようやく大人しくなったな〜。決まってんだろ、男の事情ってヤツだ」
「ばかーーーーーーっ!」
 一瞬の隙をついて、が将臣へ枕を投げて部屋を出て行った。


「あ〜〜〜ったく。朝はこういうもんなんだって・・・・・・」
 頭を掻きながらベッドから起き上がる将臣。
「ま、お泊り決定だな!って事は・・・・・・映画は午後の回でいいかな」



 隣の部屋のソファーに居るだろうの機嫌を取るべく、将臣は本日のプランを考えていた。
 映画は観にいけたらしい二人。
 の予定が狂ってしまうのは、よくある事だった。






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初ですよ、将臣×神子。どうなんだろ〜、最近かなりお気に入りくさいです、将臣くん。     (2005.10.9サイト掲載)




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