映画を観よう!     (景時編)





「おはよ・・・・・・景時さん?」
 
 今日は土曜日だ。は景時と映画を観る約束をしていた。
 しかし、八時半にを迎えに来るはずの人物は姿を現さなかった。
 合鍵を使って景時のマンションの部屋へ入る
 チェーンもかかっていない上に、靴が散乱している。

「・・・・・・珍しい」
 いつもは金曜日に泊まるのだが、昨日に限って言えば仕事が長引くと言われた。
 景時の靴を並べてから上がる





「・・・えっと・・・何時になるかわからないんだ。一人で待っててもらうのも危ないような・・・・・・」
 景時に先週ソファーで言われた時の事を思い出す
「危ないって事はないと思うけど・・・景時さんが心配なら家にいるから。土曜日の朝、迎えに来て下さいね!」
 素直に自分の家で待つことにした
 景時はを抱き締めると、情けない声を上げた。
「帰ってきて、ちゃんが居てくれた方が嬉しいけど・・・何かあったら悲しすぎっ。オレ、我慢するからね」





 静かにリビングへ行くと、食事をした形跡は何もなかった。

「夕ご飯も食べてないのかな?え〜っと・・・・・・」
 続いてキッチンへ向かう。

 景時が飲んだと思われる水のペットボトルが置きっぱなしになっていた。
「・・・朝ご飯も食べていないみたい・・・・・・」
 シンクが乾いているのだ。

「忙しいって言ってたのに・・・・・・私が映画なんて言ったから・・・・・・」
 恐らく、昨日は相当遅かったと思われる。
 約束が無ければ、最初から景時はのんびり寝ていられたはずと少しばかり落ち込んだ。



 足音を忍ばせて寝室へ向かうと、静かにドアノブを回してドアを押す。
「・・・・・・寝てる」
 寝室のベッドの傍まで近づくと、うずくまって眠っている景時の頭へ手を伸ばす。
「えへへ。前髪下りてる」
 何も初めてなわけではないのだが、つい見入ってしまう。

「・・・疲れてるんだよね。起きないなんて珍しいもん・・・・・・・・・・・・」
 音を立てないように離れると、静かに寝室のドアを閉めた。


「朝ご飯でも作ろうかな〜」
 景時のマンションの台所は、専用と言ってもいい。
 冷蔵庫の中を確認し、素早くメニューを考える。
「ご飯は・・・少しやわらかゴハンにして〜。お魚がいいかな」
 テキパキと景時の朝ご飯を作り始めた。



「出来ちゃったぞ〜?」
 食卓に並べられたおかずは、煮魚と出し蒔き卵とほうれん草のおひたし。
 ご飯は早炊きにしたが、後十分はかかる。

 時計をみれば、十一時を過ぎていた。
「・・・もう二回目も無理だろうから、お昼と朝一緒でもいいよね。うん。お昼に起こしてあげよ〜」
 
 そこまで考えてソファーに座ったが、手に取ったリモコンをテーブルへ戻した。
「・・・音・・・煩いかな・・・・・・」
 生活音とテレビの音は違う。テレビを諦めたが、ここで料理の本を見るのも今更である。
 バッグから携帯を取り出し、映画の上映時間を保存した箇所を見る。
「三時五分・・・・・・微妙。いっか!」
 立ち上がると、寝室を目指す。



「寝顔・・・可愛いんだよね・・・・・・」
 空いているスペースに静かに横になると、景時の寝息が聞こえる。
「・・・うふふ。今日はお洗濯は無理ですね?」

 乾燥機はあるけれど、天気がいい日は二人で洗濯物を干したりしている。
 天日干しは気持ちがいい。
 今日も天気がいい。しかし、今から洗濯をするのは少々遅すぎの時間になっていた。

 寝顔を眺める
「もう少しだけ・・・・・・後一時間だけ寝ててもいいからね」

 顔を眺めるつもりが、すぐに寝入ってしまった。





 確かに景時は寝坊をした。
 昨日は先輩に合わせて帰るに帰れず、明け方までの仕事となった。

「ふぅ〜〜〜。朝日を拝むとは思わなかったよ〜〜〜」

 首を回しながら、玄関からキッチンへ向かう。
 冷蔵庫を開けると、目的のものを手に取りそのまま飲む。
「あ゛!直接口をつけて飲んじゃった。ちゃんに叱られちゃうな〜〜〜」
 
 お風呂上りに時々してしまうのだ。
 水のペットボトルに直接口をつけて飲んでしまうと、水が日持ちしなくなると景時を注意する

「ごめんね〜、ちゃん」
 そこには居ないに謝る景時。
 しかも、水の残ったペットボトルを仕舞い忘れたまま寝室へ。

「あ〜、お風呂がいいなぁ・・・・・・でもシャワーかなぁ・・・・・・」
 時計を見ながら時間を計算する景時。今から風呂を汲むのでは睡眠時間が減る。
 着替えを持つとバスルームへ向かった。
 
 手早くシャワーを浴びると、パジャマに着替えてソファーに座る景時。
「水・・・・・・」
 
 キッチンで水の仕舞い忘れに気づく。
「ぬるぅ〜いね。ま、自分で悪いか・・・・・・」
 新しいモノを開けてもいいのだが、ここにあるモノが邪魔になってしまう。
 少しだけ水の残ったペットボトルをまた同じ場所へ置く。
「朝起きたら飲んじゃえばいいよな・・・・・・」

 ドライヤーを手に取り、一気に乾かすと時計は六時近かった。
「あ〜っと・・・・・・一時間半ってとこかな。いや、二時間」
 の家に八時半に迎えに行く約束だ。朝食を抜くなら二時間寝られる計算。
 目覚ましをセットしたつもりが、そのまま眠ってしまった。



 カーテンから日が差し込み、部屋が明るい。
 景時が目を覚ますと、隣でが眠っていた。
「え〜っと?これは・・・・・・・・・・・・」
 あまり大きな声を上げてはが起きてしまう。
 静かに時計へ手を伸ばすと、時計の針は重なっていた。

「げっ!」
 言ってから、慌てて自分の口を塞ぐ景時。

(・・・・・・お昼だよ。そっか、待ちくたびれて迎えに来てくれたんだ)

 迎えに来たものの、景時が寝ていてする事が無かったのだろう。
 普段の景時なら物音ですぐに目覚められただろうが、実は二日続きでのほぼ徹夜状態。

(・・・気を遣わせちゃったかな・・・・・・・・・・・・)
 いくらなんでも、隣に人が居て気づかないのは珍しい。
 が音を立てないようにしていた証拠でもある。

(このままじゃ風邪ひかせちゃう・・・・・・)
 へ被るものを掛けて、静かに景時は起き上がった。

(映画・・・・・・次に間に合うかな?)
 まずは支度を整えるべく、服を見繕って手に取ると寝室を出た。



 リビングへ来ると、食べ物の匂いが景時の胃を刺激する。
「あ・・・・・・」
 テーブルには恐らく景時の為と思われる食事の用意が並べられていた。

「あ〜〜〜、こんなに待たせちゃってたんだ」
 ガクリと首を項垂れさせる。

「・・・・・・次に間に合うように支度、支度」
 気を取り直して顔を洗うのが先と、テーブルから離れた。



 いざ着替えてテーブルの前に立つと、が居るのに一人で食べるのも寂しい。
「・・・・・・起きたかな?」
 
 足音を立てずに寝室へ向かい、ドアを開ける。
 はまだ寝ているようだった。

 音を立てずに近づいたつもりだったが、もう起きかけていたのだろう。
 目覚めたと目が合った。

「お、おはよ〜。・・・って、もう遅いか。ごめんね、待たせちゃって」
 まだぼんやりと景時を眺めている

「・・・・・・あれ?今日って・・・・・・」
 景時が顔の前で手を合わせた。
「ごめんね!オレが寝坊したんだよね〜。今日は土曜日で、時間はもう昼過ぎてるんだ!」

 が髪をかき上げながら起き上がり、ベッドに腰掛けた。
「・・・・・・景時さん・・・・・・ぎゅっ・・・・・・」
 眼を擦りながら片手を伸ばす仕種が可愛らしい。
 引き寄せられるようにに近づく景時。そのままを抱き締めた。
「おはよ、ちゃん」
「んっ・・・はよ・・・・・・・・・」
 大人しく景時に抱きついている

「え〜っと。朝ご飯?ありがと。その・・・今から食べて、次の映画に間に合うかな?」
「・・・・・・・・・次はぁ・・・あ。景時さん、ご飯まだなの?ダメだよ、食べなきゃ〜〜〜」
 ようやく脳内の回線が繋がったらしいが景時の手を引いてリビングへ向かう。



 ものの数分で支度が整えられ、景時の向かいにはが自分の分も用意した。
「はい、食べましょう。いただきま〜す」
 に促されて、箸を手に取る景時。
「ご飯がね、少しだけ軟らかめなの。嫌でも胃に優しいから我慢して食べて下さいね」
「そ、そんな。ご飯・・・嬉しいよ!ほんとに。でも・・・・・・映画が・・・・・・・・・」
 こうして二人で食べる食事は嬉しいのだが、このままでは映画に遅れるのではと気が気でない。

「映画は三時の回でもいいし。別に今週じゃなくてもいいのっ。景時さんが病気になっちゃったら、そっちの方が嫌!」
 あまりにはっきりに言い切られてしまい、照れる景時。
「そ、その・・・オレは大丈夫だから三時の回に行こうか?夕飯は外で・・・ほら。ちゃんが行きたがってたお店・・・・・・」
「行きたくないもん。今日は、夕飯のお買い物して〜、レンタル行って〜、ここで二人で違う映画観ましょう?」



 小さな映画上映会に変更。
 二人ソファーで寄り添って映画を観る、穏やかな時間を過ごした。






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可愛らしい感じになってしまいました。“ほのぼの”が好きです、この二人の場合はv     (2005.10.9サイト掲載)




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