Trick or Treat!     (知盛編)





 その日、偶然にもイイことを小耳に挟んだ。

「でね?子供にお菓子を買って帰ろうかな〜って」
「わ〜。木村部長、優しぃ〜。だったら、クッキーの・・・・・・」


「おい。その話を詳しくお聞かせ願おうか?」


 女子社員に囲まれて、ハロウィーンとやらの情報を仕入れている木村の
話に割り込んだ。
 使えるネタは、使うに限るからな?





 今日はハロウィーンだ。
 最近ではニュースにも取り上げられるほどの認知度をほこる行事。
 も知っているこの行事を、知盛に試してやろうと考えていた。

「知盛がお菓子持ってるわけないもんね〜〜〜」

 帰ってきたら、真っ先に言ってやろうと決めているセリフがある。
「かぼちゃの煮物って、おばさんみたいかなぁ?でも・・・知盛、和食の方が
好きみたいなんだよねぇ・・・・・・」
 本日の夕食のメニューを考えながら、がスキップで知盛の家を目指す。
 毎日帰りに寄って、一緒に食事をしてからの家へ送ってもらうのが平日の
おきまりパターンだ。
 きちんと送り届けてくれる知盛は、の両親の中で評価最大級の二重丸。
 とにかく外面がいいとしかない愛想のよい笑顔つきである。

「そぉ〜だ!かぼちゃの味噌汁とかアリじゃない?うふふ。全部かぼちゃにして
みちゃおうかな〜。ママに電話しよう!」
 娘のかぼちゃ料理を教えてくれという電話にあきれながらも、それに付き合って
くれるだろう知盛にの母親が笑っていたと知るのは後の話。
 せっせと料理の支度を整えて知盛の帰りを待っていた。





 ピンポーン・・・・・・


「は?誰かきたのかな?それとも、何か届いた・・・・・・知盛・・・・・・」
 基本的に知盛は自分で鍵を開けて入ってくる。
 入ってこない時には、ウラがあると読むべきだ。
「・・・開けろ」
「はい、はい。すぐ行く〜」
 今度は何が出てくるかと構えながら、先に言ってみようと考えていた事を実行する。


「Trick or Treat!」
 勢いをつけて飛び出して、知盛に抱きついてみるが、あっさり受け止められた。
「・・・・・・クッ・・・ほら」
 片手で受け止めたを玄関口へ降ろすと、買ってきたモノが入った紙袋を手渡す。
「・・・えええええええっ?!知盛、何で知って・・・・・・」
 悪戯したくて、知らないであろう知盛を言いくるめるために考えていたのだ。
 それなのに、菓子を渡されては悪戯する理由が無い。
「さあ?今宵は何やら訪れる予感がしたので・・・な」
 口元に笑みを浮かべながら知盛はさっさと靴を脱ぐ。


「さてと・・・・・・Trick or Treat・・・・・・いかがかな?」
「まっ、待った!ないっ、ないよ。探してくるっ!!!」
 が駆け出そうとする手首を掴む知盛。
「今無いのは、無いっていうんだぜ?」
 悔しそうに下唇を噛む
 まさか、知盛にされるとまでは計算していなかったのだ。

(鞄に食べ残しのチョコが入ってたのにぃ〜〜〜!!!)
 リビングまで戻れればお菓子があったが、ここでとなれば確かにない。
 
 が動かないのを見て取ると、軽く抱えあげて歩き出す知盛。
「なあに?どんな悪戯するの?」
「さあ?考え中・・・・・・」
「嘘!知盛、絶対に考えてる!決めてあるでしょ〜〜〜!!!」
 知盛に抱きつきながらも、カタチばかりの抵抗をみせる

「まあ・・・な。先にメシ。悪戯は後でゆっくりと・・・な」
 をキッチンの入り口に下ろし、知盛は着替えに向かった。


「・・・くたびれそうな予感。平日なんですけどぉ」
 気を取り直して、半分悪戯心の料理を温めて並べ始める
 ご飯、味噌汁、煮物、焼き物、コロッケなど、すべてかぼちゃを使った料理で食卓が
埋め尽くされていた。



「・・・クッ・・・随分と黄色い食卓だな?」
 テーブルの上の色が、黄色一色といってもいいほどだ。
「うん。悪戯・・・・・・作っちゃったんだもの、食べて?」
 知盛は菓子を出したのだから、悪戯されるいわれはない。
 けれど、のする事は度が過ぎていて怒る気力も失せるのだ。
 どちらかといえば、楽しくなっている自分に気づく。

「やれ、やれ。どちらにしても、姫君は悪戯をするつもりでいらっしゃったと・・・
そういうわけだな?」
 の向かいに座ると、箸を手に取る知盛。
「う〜ん。失敗すると思ってなかったんだもん。バレンタンインも知らないのに、
ハロウィーン知ってるなんて詐欺だよ」
 もお茶を用意してから席に着く。

「いただきます!」
 の掛け声で食事が始まる。
 何もかもがほんのり甘い食事。自身も辛くなってきた。

「むぅ〜〜〜。これは失敗だったかも。自爆っ!」
 立ち上がると、手早く大根おろしと漬物を手に戻って来た。

「はい。・・・胃にもたれるよね。ごめん。あんまり考えてなかった」
 知盛は出された食事はすべて食べる。
 が気づいてやらないと、毒ですら食べそうで怖いくらいだ。
「クッ・・・そう気にするな。この季節、こういうものだろう」
 戦場では、芋なら芋ばかりだった。
 食に文句を言うつもりはないし、が作ったものは食べる事にしている。
「うん・・・後でクッキー食べようって思ってたけどさ・・・・・・」
 知盛が買って来てくれたクッキーを食後に食べるつもりでいたのだが、なんとも
胃袋が無理だと悲鳴を上げている。
「明日でも・・・食べられるだろう?あれは・・・通行料みたいなものだ」
「へ?」
 知盛の口元が笑っている意味がわからず、そのまま食事が済んでしまった。





 コーヒーを飲みながら二人でソファーで寛いでいると、不意に知盛がを膝へと
抱えあげた。
「・・・なあに?抱っこ?」
 わからないものの知盛の肩へ手を置いて、真意をはかるべく瞳を覗き込む。
「クッ・・・悪戯。まだだろう?」
「うわ〜〜〜、そんな前の事、忘れた」
 何かされる前にとが知盛にしがみつく。
 こうすれば知盛が動けないだろうとの計算のつもりの行動。
 知盛が大きく息を吐き出した。

「するか」
「はい〜〜〜?」
 を抱えあげて寝室へ向かう知盛。

「ねっ、ちょっ・・・明日も学校・・・・・・」
「ああ。程々にイタズラしてやる」
「意味わかんない!ちょっとぉぉぉぉ!!!」




 来年は、必ず菓子を用意しておこうとが思ったのは言うまでもない。
 ハッピーハロウィーン!






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このお方、自分の得意分野に持ち込むのが上手いとみた!普段はぐうたらナマケモノでもね!     (2006.10.29サイト掲載)




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