Halloween Party     (将臣編)





「ね、そろそろ七五三の季節だね〜〜〜」
「は?ああ、そうだな。お前が鶴岡八幡宮で、すっ転んだな!」
「もう!そういうのは、普通言わないんだよ〜〜〜」
 学園祭の準備で慌しい学校を抜け出し、本日の夕食の食材を買いに
町へと足を運んだ将臣と
 将臣がバイトを入れていないのが珍しくもあり、なんとなくのんびりと
ウインドウショッピング中に目に付いたのが千歳飴だ。

「あの袋ってさ、なが〜いから、普通に持つと引きずっちゃうんだよね」
 が引きずっていただけで、それを普通とは決め付けられる訳もなく、
将臣が頭を掻きながら言葉を探す。
「まあ・・・なんだ。中身が長いから・・・な」
「うん。長いのなかなか食べ終わらなくて、大変だった」
 飴を割って食べればいいのだが、これまたは真っ直ぐな性格で、長い
ままでひたすら舐めていたのだ。

「お前なぁ・・・・・・今時は、あっちじゃねぇの?」
 不埒な想像になる前に、の気をそらす意味でも店頭に並ぶかぼちゃの
飾りを指差した。
「あ!ハロウィーンかぁ。パーティーするほどじゃないけど、行事としては
みんなが知ってるよね〜」
「ああ。・・・するか?パーティー」
 そう大袈裟なものでなくても、二人でいつもと違う事か出来れば楽しいだろう。
 の喜ぶ顔が見られるならばとの提案だ。
「ほんとに?じゃあ・・・ご飯どうする?」
「このままどこかで食べて。あれだろ。デザートとか買って、家でDVDでも
見ながらしゃべればいいんじゃねぇの?」
 一緒に暮らしていながら、そう長い時間話している暇がない。

(いつも、バイト、バイトって、家にいない言い訳みたいだしな・・・・・・)
 と暮らし始めたものの、いつも一人で待たせてばかりいる。
 何となく後ろめたかった。

「え〜〜!ダメ。お外は高くつくから。夕飯は私がオムライス作るね。だから、
その分豪華にかぼちゃのケーキと、お菓子買って。レンタルでジャック借りよう?」
 家計を握っているには逆らえない将臣。
 二人で沖縄と言ったからには、は本気できっちり貯めこむつもりらしい。
「・・・あははは!・・・っとに、お前はなぁ。少しくらい、いいだろう?」
「やだ!一緒に行くんだもん。二人で頑張れば、冬休みに長く行けるよ?」
 長く滞在できるように、更なる貯蓄を目指していたらしい
「お前・・・泳ぐの・・・・・・」
「冬、向こうなら暖かいもん。いいでしょ。将臣くんを見てるだけだって」
 いきなり潜るほど上手くはないの泳ぎぶりだが、同じ場所にいるくらいは
許されるのではと思うのだ。

「そっか。で?ジャックって、金曜日のアレか?」
「違うよ〜、ナイトメアの方!みたらわかるよ。かぼちゃのアイスってあるのかな」
 早くもデザートに心が飛んでいるに手をひかれながら買い物を済ませ、
無事に目的のDVDもレンタルをして家にたどり着いた。





 巨大なオムライスと格闘し、食後のデザートに比重を置かれた本日の夕食。
「これ・・・まだ食うのかよ・・・・・・」
 将臣の眼前に出されたのは、かぼちゃのタルトだ。
「もちろん!デザートは別腹〜〜〜。あと、アイスもあるんだから。そうだ!
後はコーヒーだよね。そろそろ出来たかな〜」
 節約はするけれど、食べ物には煩い
 コーヒーはインスタントではなく、きちんと豆のものだ。
「いい香り〜〜〜。コーヒーって、パパのって感じだったんだよね。子供の頃」
 将臣のマグカップを手渡す
「さんきゅ!・・・おじさん、コーヒー好きだしな〜」
 自分のカップを手に持って、将臣の隣に座るとリモコンでDVDのスタートを
押した
「そうなの。ブラックで新聞片手に飲んでてね。あれが大人なのね〜って。
ママはね、アイスだとブラックなんだよ。普通は飲まないの」
「へ〜〜〜。面白いな、それ。家は何でも譲に言えば出てきてたからなぁ」
 ソファーの背もたれに寄りかかりつつ、しっかりの肩へ手を回す将臣。
 もう癖みたいなものだ。
 も大人しく将臣の肩へ寄りかかり、テレビの画面を眺めている。
「譲くんって、ほんっとイイコだよね。お家の手伝いどころか、しっかりお家の
中心になっててさ。お兄ちゃんが頼りないからぁ〜〜〜」
「ちっ。余計な事、言うんじゃなかったな。あいつは、あれだ。ババっ子だったから。
妙に食べ物は手作りにこだわってんだよ。母さんが冷凍食品使おうものなら、目が
こぉ〜んなだぜ?添加物だの保存料がだの、イチイチ煩くてな。それでアイツが
自分でやるって言うんで任せたのが最初」
 考えみれば、祖母が亡くなってからしばらく譲は無表情だった。
 譲に何かをさせようと、母親が仕組んだのではと今なら思う。
 祖母がいる時は、一度たりともそのような便利商品を使ったことが無かったのだ。
 いなくなったから使うというのも変な話で、わざわざしたともとれる。
「そうかぁ。譲くんのご飯が美味しかったのって、菫おばあちゃんの味で記憶が
あったんだ」
 いつの間に食べ終えていたのか、の手には今度はアイスがある。
 しばらくは画面の内容に釘付けで、会話が途絶えていた。



「なあ・・・この勘違いってさ」
 DVDのストーリーが、おかしな方向に流れてゆく。
 主人公を労わるのは、主人公のガールフレンドのみだ。
「うん。ジャックって可哀想なんだけど、わかってくれる人がいるから」
「そうか・・・・・・」
 異世界で、に真実が告げられなかった将臣。
 それでも、は真っ直ぐに将臣を信じて頼ってくれた。
 寄りかかるのではなく、同じく立つ対等の者としての頼り方でだ。


・・・俺、お前の事手放せねぇ・・・・・・」
 DVDを見ているにもかかわらず、を抱き寄せた。
「うん。知ってる。私も離れるつもりないよ?」
「あ〜あ。もっと早く気づきゃよかった・・・・・・」
「嘘ぉ!最近なの?私はおもちゃの指輪もらった日からずぅーっとだよ?」
 将臣とて指輪を買う前からの事を好きだった。
 ただ、弟も好きだというのを知っていたからこそ、曖昧な態度を取り続けたのだ。

(選べるもんでもないだろうに・・・な)
 弟の気持ちと自分の気持ちを量っても、意味がないのだ。
 は将臣を選んでくれていたというのだから、将臣がぐすぐすしている方が譲に
無駄な時間を過ごさせたことになる。
 譲の性格からして、自分から決着をつけにいくまでには相当の時間を要するからだ。

「そうじゃねぇって。コドモが自分の小遣い使って指輪だぜ?決まってんだろ、答え」
 軽くの唇を啄ばむと、アイスの味がした。

「・・・かぼちゃ」
「うん。このアイス、本当にかぼちゃ味だったな〜って感心してたトコなの」
 色は黄色いが、味はどうなのだろうと怪しんでいたのだ。

「しょ〜もな。冬に・・・沖縄行こうな」
「うん。その前に、続き見る」
 いい雰囲気も束の間、再び将臣に寄りかかりながらDVDの続きを見だす


(ありえねぇ・・・・・・感動の場面だろ、今の)
 意外にもリアリストな一面を持つ望美らしい行動。




 将臣の思惑は虚しく空振り。
 ただし、二人でする節約生活は案外楽しく、冬には沖縄に長期滞在出来そうだ。


(来年の今頃は、何してるだろうな?)
 遠い未来に思いを馳せる。


 何はともあれ、ハッピーハロウィーン!






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将臣くんの方が望美ちゃんに負けちゃいそうな気がする。大雑把にみえて、気にするのは彼氏の方だとイイv     (2006.10.29サイト掲載)




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