Jack-O'-lantern     (景時編)





 その日、会社でイイことを聞いた。
 この世界の、ハロウィーンという行事。
 何でも、外国の行事だったらしいんだけど、案外何でもしちゃうらしい。

「他には何するの?」
「梶原さん、真剣ですね〜。後はデザートでも買って帰るのは?」
「でもさ、そうするとさっきのセリフ・・・あ。そうだね。ありがとう」
 お菓子じゃなければいいんだなと思いついた。





「お先に失礼しますっ!」
 終業を知らせる音楽と同時に会社を後にする景時。
 目指すはデパートの地下、デザートコーナーである。
「何がいいかな〜。ちゃんが好きなのは・・・・・・」
 ケーキが筆頭。続いて───
「う〜ん。プリンとか?」
 頭の中で、過去、が嬉しそうに食べていたデザートを思い浮かべる。
 実際に店頭で決めたのは、プリン。
 ただのプリンではない。
 かぼちゃ容器の巨大プリン、名前も“Jack-O'-lantern”で、小さなかぼちゃを
半分にしたサイズ。通常のプリンならば何個分に相当するのかは不明という代物。
「よしっ!早く帰らないとね」
 これを見た時のの反応が楽しみだ。
 軽い足取りで家路に着いた。





「ただいま〜。あれ?」
「お帰りなさ〜い。ちょっと待ってて!」
 部屋の明かりを消してから玄関へ出てきた
「・・・電気、消すの?」
「うん!消すの。お帰りなさい。お疲れ様でした」
 靴を脱いで首を傾げている景時に抱きつく
「ただいま〜っ・・・・・・忘れるとこだった。Trick or treat!」
 軽くキスをしてから、お決まりのセリフを言っての瞳を覗き込む景時。
「ええっ?!お菓子?お菓子・・・・・・鞄に飴があったかも」
 慌ててが取りに行こうとするのを引き止める。
「あはは!悪戯したいんだから、無いのがいいんだ。はい」
「これ?ぼんって爆発するとか〜?」
 ビックリ箱の類だろうかと、手にとって注意深く箱を観察する
 箱の表示を読むと、顔色が変わった。

「わ〜〜〜!これって、雑誌で見たかも。ありがとう、景時さん!!!」
 手の重みが嬉しい。
 景時も、から頬にキスされてご満悦だ。
「いいえ〜。ところで・・・・・・あ。かぼちゃだ」
「そ〜なんです。だから、夕ご飯はかぼちゃばっかりですからね」
 テーブルの真ん中に、かぼちゃがある。
 その中にはろうそくが入れられていた。
 だから明かりを消したかったのだろう。

「へ〜〜〜、かぼちゃの提燈かぁ。可愛いね。でも、大変だったでしょ?」
「そうでもないの。電子レンジでチンしちゃったし。よく見ると、半分で切れてる
でしょう?」
 小さな足音を立ててキッチンへ戻る
「いや。こういうの、いいね。ろうそくの明かりは・・・好きなんだ。着替えてくる」
 ネクタイを緩めながら、景時が着替えに向かう。

「よかった・・・前に、ろうそく好きっていってたもん・・・・・・」
 景時の背を眺め、ドアの向こうに消えるのを見送る。

「やだ!食事の用意しなきゃ」
 再び食事の支度を始めた。





「いただきますっ」
 なんでもかぼちゃを使った料理ばかりの食卓。

「これも?」
「これも!スープもリゾットもサラダもミニグラタンも全部!」
 かぼちゃを切ったのではなく、中から取り出したのだから仕方ない。
 原形がなくなってもよい料理しか作れなかったのだ。
「・・・・・・あははははっ!頑張ったね〜。・・・ん!美味しい。秋って感じ」
 大きな口で、サラダから頬張る。
「よかった〜。デザートは景時さんが買って来てくれたし」
 食事よりデザートに気持ちが傾いている
「いや、いや。かぼちゃの日・・・でしょ?」
「そう!かぼちゃなの」
 楽しい食卓に、ろうそくの明かりが揺れていた。





「景時さん!プリン食べましょう」
 ソファーで先に寛ぐ景時の前に、お茶の用意とプリンの取り皿を置く
「今日はコーヒーなんだ〜」
「コーヒーなんですぅ〜」
 ちょこんと景時の隣に座る
「景時さん。あ〜〜んして?」
 先に景時に一口とばかりに、スプーンで食べさせる。
「ん〜〜〜、かぼちゃの味。思ったより甘くないね?」
「そうなんですか?・・・・・・かぼちゃがギッシリで美味しいぃ〜」
 も同じスプーンで一口食べた。
「そう?」
「そう!身体に優しい味。だからこんなにたくさんなんだ〜」
 かぼちゃいっぱいのプリン。
 の説が理由でこの大きさかどうかは不明だが、この容器のためにもかぼちゃが
必要だ。
 それなりに濃い味になるのも頷ける。
「これ全部食べるの?」
「かな〜?最初はお皿に取り分けてって思っていたんですけど・・・・・・」
 景時には器に通常のプリン二個分が取り分けられた。
「やっぱり、かぼちゃからいかないとって思うんですよね〜」
 かぼちゃの器を手に持って、がプリンを食べ始めた。





「むっ、無理〜〜〜!お腹苦しいぃぃぃぃぃ」
 景時に寄りかかる
 食事の後なのだから、食べる量には自ずと限界がある。
「あ〜〜〜、ちょ〜っと無理だったかもね?」
 いつもの小さなプリンにすれば良かったと、景時が後悔しそうになりつつあった時、
「散歩!景時さん、お散歩してこよう?お腹、破けちゃうから」
 が満腹の自らの腹部を擦りながら、景時にとって嬉しい申し出をした。

「・・・いいね!出かけようか」
「うん。寒いから、何か羽織らないと・・・・・・」
 上着を着込んでから、寒くなりかけの街へと出かけた。



「お月様、半分ですね?」
 見上げれば、程よい位置に月がある。
 上弦の月は昨晩だ。今宵は気持ち半分より膨らんだ月。
「そうだね。星も・・・きれいだね。公園がいいかな?」
「うん。ベンチあるから、座れますよね」
 フラフラと歩くのは楽しい。
「星座、詳しくないんですけど、あれは知ってるの。北極星。地軸がどうの〜って
小学生の時に習ったの。え〜っと、動かない星!」
 遠く北の空に輝く星を指差す
「ああ。自転の軸の先にあるってヤツね。二等星なんだっけ・・・・・・」
「すごぉ〜い。景時さん、いつそんなの勉強したの?」
 が景時の腕にぶら下がる。
「ん〜っとね、一応オレ、陰陽師だったし。こちらの世界での天文も気になったから。
違いは何かな〜って、本でちょっとだけ」
 指で示す幅は狭いものだが、景時基準の僅かである。
「うぅ・・・景時さんって、勉強家だぁ」
「そんな事はないけどね〜。公園、散歩してる人結構いるね?」
 世は健康ブームだ。ウォーキングといえば聞えはいいが、散歩である。
「ほんとだ〜。皆、ご飯食べすぎちゃったのかな?」
「ん〜。身体を動かす方かな。ほら、こっちの世界、何でも便利すぎだからね」
「そっか。体育の授業なんて学校行ってなきゃないですもんね〜」
 納得したらしいが、辺りを見回す。
 年齢層が高めなのは、中年ほど健康を気にしているからなのだろう。
 他には犬の散歩など、わかりやすい顔ぶればかり。


「あのベンチが空いてる!」
 が指差すベンチに腰を下ろすと、再び空を見上げる。


「夜空って、あまり見上げる機会がなくなっちゃいましたね。野宿の時とか、月が
あると明るくてすっごく安心したのに」
「そう・・・だね。街の明かりがあるから・・・・・・時々こうして夜の散歩しようか」
 景時が握る手に力を込めると、に握り返された。
「うん・・・楽しみです・・・・・・」




 触れ合う部分の熱が温かいと感じる季節。
 万聖節の前夜祭の夜、月は静かにその姿を隠し始めていた。



 ハッピーハロウィーン!






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景時くんの場合真面目に終わってしまうという罠!色々と今まで不満を言ってゴメンナサイ、コー○ーさん!     (2006.10.29サイト掲載)




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