holy night 〜at midnight〜     (知盛編)





 千歳空港へ到着と同時に、すぐに札幌へ移動し、比較的遅くまで営業している
デパートで必要なモノをまとめ買いしてからチェックインとなる。
 クリスマスで雪祭りのこのシーズン、よくもホテルの予約がとれたと感心していた
のだが、その理由はすぐに判明する。


(・・・この人、やっぱりおバカだよ・・・・・・・・・・・・)
 が着ている服では申し訳ないような部屋に案内をされる。
 正直、何が何だかわからない。
 高層階であること、特別な部屋である事は室内の家具からわかる。

「知盛・・・サン?」
「何だ。狭いか?まあ・・・今日予約をしたんだ。我慢しろ」
 我慢しろという内容の部屋ではない。
 考えてみれば、いい加減に仕事をしているようでいて、知盛は高給取りだ。

(・・・あのマンションも高そうだもんねぇ・・・・・・)
 いちいちやる事が憎たらしいが様になる。

「狭くないけど・・・あの・・・いつまでいるの?」
 知盛はもうソファーに、その長い足を組んで座っている。
 はなんとなくお茶を入れようと、ティーセットが一式あるキャビネットの上で
用意をしながら振り返った。

「さあ?一応クリスマスまで・・・・・・だろうな」
「・・・はい?」
 時計を見れば、まだ金曜日の二十二時。
 クリスマスまでとは、月曜日までだ。突然の三泊の旅行になってしまう。

「ちょっ・・・ママに言ってないよ!」
「別に・・・普段とて我が家においでなのだから、変わらんと思うが?」
 続きの言葉が出なくなる。確かに自宅にいない点では変わらないからだ。
 知盛の前にソーサーごと紅茶を差し出した。

「・・・で?本当は何をしに札幌なの?」
「雪を見に・・・と言ったはずだが?」
 は自分の分の紅茶をテーブルにおいてから知盛の隣に座った。

「あのね?雪見にここまでくる?普通しないでしょ!」
 知盛の手から紅茶を取り上げ、そのままテーブルに置いた。
「クッ、クッ、クッ・・・・・・クリスマス・・・なのだろう?雪は・・・
いいもんだぜ?風呂・・・入ればわかる」
 知盛が指差す方向にバスルームがあるのだろう。
 眉間に皺を寄せながらも、は立ち上がるとそのドアを開けた。


「わ・・・・・・・・・」


 最奥に二人で入っても十分に広いバスタブ。シャワーブースは別。
 一番の驚きは、バスタブから見える夜景だ。
 クリスマスのイルミネーションに輝くタワーと通りが見える。
 踵を返して部屋へ戻ると、知盛はさっさと上着を脱いでソファーに転がっていた。


「知盛!夜景!すっごく綺麗だよ?お風呂から見えるの〜〜〜」
 が知盛の傍へ駆け寄り、無理矢理狭いスペースに腰を下ろす。
「・・・だろうな。だからここに決めた」
「・・・そうなの?」
 またしても知盛の言う意味がわからない。
 首を傾げるに対し、知盛はの腕を引いてその耳元で囁いた。


「風呂・・・入るだろう?」


 言葉がかなり省略されているが、共にという事だろう。
 普段も一緒なのだから赤くなることもないが、なんとなく知らない場所では
気恥ずかしい。


「うっ、うん。お湯・・・落としてくるね・・・・・・」
 再びバスルームへ向かうの背中を見送る知盛。


(羊さんは・・・月曜日まで出られないぜ?)
 ここまで出かけて来はしたが、知盛に外出予定はない。
 何も知らないは、ひとり部屋の中を楽しげに見て回っていた。





「知盛。クリスマス、ありがと。こんなに豪華だとは予想してなかったけど」
 本能が危険を知らせて回避したのをすっかり忘れている
 バスタブで知盛とのんびり湯に浸かることが、どれだけ危険指数を上げているか
わかっていない。
「さあ・・・な。雪と贈り物なのだろう?クリスマスとは」
「ちょっと待った!・・・知盛。クリスマスって何だと思ってるの?」
 振り返り知盛と目を合わせて問いかけると、すかさず知盛の口の端が上がる。


「・・・クッ。雪を眺めながら女とヤル日」


 の怒りの湯が知盛の顔に浴びせられた。
「信じらんない、信じらんない、信じらんなーいっ!!!どこでそんな情報仕入れて
来たのよ!!!」
 暴れだすを腕の中に封じ込め、笑いながら知盛が続きの言葉を紡ぐ。
「まあ・・・そう喚くな。雪明り・・・というのを知っているか?」
「ゆき・・・あかり?」
「そうだ。雪明りだ」
 風呂から上がり、支度を整えながら移動をする。
 バスローブを着ているだけで窓辺のソファーへを抱えて座り込んだ。



「雪・・・だね」
「ああ。一面の雪野原を見たことがあるか?」
「一面かどうかわからないけど・・・・・・京であるよ」
 が京という場合は、異世界の出来事をさす。
「そうか・・・・・・ならば、明かりが反射してぼんやりと明るい雪の夜は?」
「寒いから出なかったもん・・・そんな余裕なかったし・・・・・・」
 京で初めての冬は、いきなり宇治の河原へ放り出された。
 風景すら曖昧にしか思い出せないくらい混乱した頭で、何かを愛でるなど不可能。
 次の冬は、平氏を追いかけて陸路と船旅の連続。
 雪は物資が寸断されやすい。まして戦場なのだ。
 緊張状態での行軍中に、余計な油も薪も使えなかった。

「今宵、あの塔の明かりが消えた頃、外を見るといい。雪の後の夜は明るい」
「ふうん。そうなんだ・・・・・・」
 テレビ塔の明かりが消えても、街の明かりまでは消えないだろう。
 知盛がいうところの雪明りは想像するしかなさそうだ。
 それでも、真っ白な雪が窓の外をちらつくのを見ているのは心が和む。


「ほとんうは冷たいのに・・・ふわふわしてるから、冷たそうに見えないんだよね」
 暖かい室内から窓の外を見ているからこそだろう。
 雪が舞うように降る景色は、どこか寒さが感じられない。


「雪の夜は寒いからな・・・暖をとるなら酒か・・・・・・」
「酒か?」
 が知盛を振り返る。


「誰かと過ごすに限るだろう?それがクリスマスだ」
 知盛の突発的な行動には慣れたつもりだった。
 雪明りという言葉まで持ち出してきて何を言うのかと思えば、結論は同じらしい。


「知盛サンの頭の中は、えっちな事でいっぱいなんだね〜?」
 知盛の額を指で軽く弾く。
「さあ・・・な・・・・・・」
 しばし雪を鑑賞となるが、知盛の手がのバスローブの合わせ目に伸びてきた。
「やっぱり雪を眺めながらえっちなんじゃない」
「いや・・・眺める余裕はないだろうさ」
 を抱えあげると寝室へ移動する。



「クリスマスまで時間はたっぷりある」
「・・・・・・はい〜?!」
 クリスマスまでの滞在なのは確認をした。
 とした事が、どこでどのように滞在かの確認を怠った。

「待った!ちょっと待った〜〜〜!!!」
「クッ、クッ、クッ・・・・・・待たない」
 知盛に組み伏せられて逃げ場がない。

「・・・わざわざ北国でえっちだけって・・・・・・なんだかなぁ」
 が大きな溜息を吐きながらも、知盛の背に腕を回した。
「寒ければ・・・逃げられないだろう?」
 ニタリと知盛が笑いかける。

(やられた!帰る場所がないっ。・・・・・・ま、いいや)
 知盛の部屋ならば、雪はどうあれが帰れる家は近い。
 しかし、飛行機の距離である。
 初めての土地でが逃げ込む場所は無い。

「いいもん。覚悟したから。それで?雪と贈り物の贈り物がまだなんですけどぉ〜?」
 悔し紛れに知盛の言葉尻を取る。
「ああ・・・贈り物か。それは俺に・・・だろう?お嬢さんを・・・な。クッ、クッ、クッ」
 またも知盛が楽しそうに笑い出す。
 すべてが知盛ペース。
 は大変面白くない。面白くないが気になる発言があった。

「お嬢さんをって・・・別に、えっちするのは贈り物じゃな・・・・・・」
 わざわざ知盛は“お嬢さん”と言っている。
 はできるだけ落ち着いて過去の出来事を総ざらいする。
 知盛は何をするでもなく、の様子を眺めているだけだ。



「知盛。家に・・・きた?」
 知盛の眉が上がる。どうやら正解に近いらしい。
 目を離さずに次の質問を考える

「パパ・・・に・・・・・・何か言った?」
「そうだな。言った・・・のか、渡したのか・・・・・・帰ればわかる」
 のバスローブを肌蹴させ、満足気に眺めている知盛。
 ここまで来れば答えはにもわかる。

「・・・外面大王の知盛さんは。私の知らないところで定番の挨拶をしていたんだ〜」
 返事は無かったが、知盛の唇が静かに触れたのが返事なのだろう。
 段々と深く交わされる口づけに、の感覚は痺れてきた。



(雪・・・見られない・・・ね)
 音が遠く感じる雪の夜空。
 肌が離れた箇所が空気に触れると冷たく感じる。
 離れたくなくて腕を伸ばすと、を抱きしめる腕がある。

「知盛・・・も・・・無理・・・・・・」
 安心して意識を手放す。

(雪の方が・・・暖かく感じるから気持ちイイんだ・・・・・・。なんだ。わかったかも)
 口元を綻ばせたまま眠りにつく



 起き上がった知盛は、用意していた約束の証をの指へとはめた。
「明日も・・・雪だろうな・・・・・・」
 吹雪にはならないだろうが、止む気配もない。
 どちらにしても部屋から出るつもりはないのだから、天気はなんでもいい。
 いや、雪が降っているのが一番いい。二人で過ごす理由ができるから。



 淡雪のように消えることのないよう・・・繋ぎ止めさせていただくぜ?───






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言葉遊びはお手の物v 知盛は強引でいて意味不明だけど意味があった!というのがいいな〜と。     (2006.12.26サイト掲載)




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