palm tree (将臣編) 「え〜っと・・・忘れ物ないかな?」 「忘れたら忘れたで、なんとかなるだろ!」 が将臣の背中を叩く。 「いいかげんなんだから〜!そう何でも簡単じゃないのっ!」 は旅行バッグのファスナーを閉める。 「・・・めんどくせ〜なぁ。いくぞ?」 将臣は自分の荷物はリュックサック程度。 さり気なくの旅行バッグを手に持った。 「うん!向こうは天気いいかな?あったかいといいね!」 「さあな。二十度ぐらいみたいだぜ?」 天気予報によれば、将臣たちが旅行する三日間は晴天。 「な〜んだ。それぐらいなんだ。海は無理だね?」 「・・・たり前だ!と、いいたいところだけどな。俺はイケる」 年末年始はそれなりに混んでしまう沖縄。 一足早く飛ぶに限る。 土曜日のフライトが取れるのは、月曜日のクリスマスが休みな者の特権だ。 「泳ぐぞ〜!」 「はい、はい。いいから、早く。電車、急行に乗り遅れちゃう」 少しだけ足早に空港へ向かうべく、電車の駅へ向かった。 フライト時間は二時間半程度。 早起きをした二人には寝ていればあっという間の時間。 飛行機から降り立ち、タラップを歩いている時点でコートは不要になった。 「・・・二十度?」 「花の香りがする〜〜〜!」 本土から到着した人間ならば、半袖でもいけそうな陽気だ。 「あ〜〜〜、こりゃ泳げるだろ」 「将臣くんはスーツ着るからだよ。私は足くらいかなぁ?」 水着で外はやや厳しい。暑いではなく、暖かいなのだから。 まだ新しく感じる広い空港の出口へ向かい、予定通りレンタカーを借りた。 「海、海、うみ〜〜!すっごく綺麗な水色だよ〜〜〜!!!」 車の窓から見える風景に、歓声を上げる。 「だな〜。マジ青く見える」 珊瑚礁の賜物の青。南の島特有の街路樹のやしもどき。 すべてが南の島だと実感させられる。 将臣は運転に忙しく、時々風景を見てはナビを確認して目的地へと車を走らせる。 「頑張ってバイトした甲斐があったよね〜。向こうじゃコートだよ?」 長袖のカットソーにパーカーになった。これで十分に暖かい。 「沖縄でコートは売ってないだろうな〜〜〜」 「どうかな?時々は欲しいことくらいあるんじゃない?」 言いたい放題に会話をしながら、観光をして時間を潰す。 午後になりようやくチェックインの時間になった。 「きゃ〜〜〜!海が見えるっ!!!」 部屋へ案内されると同時に窓辺へ駆け寄りベランダへ出た。 同じ海でも青く見えるのだから不思議なものだ。 将臣は係りに部屋の説明を聞いてカードキーを受け取ると、早速施設案内の パンフレットに目を走らせた。 「っしゃ!温水プールあるぜ〜?行くか?」 海に行ってもいいが、二人で来たのだからと泳ぎたい。 「行くっ!着替えは?ここで着替えていくの?」 窓を閉めてが室内へ戻ってくる。 案内の先を読むと、館内はバスローブで歩いていいらしい。 プライベートビーチまで手ぶらでいけるというのがウリなのだから、すぐに 泳げる格好で部屋の出入りはOKだ。 「それが楽かもな。バスローブは・・・これか」 「私にも!」 将臣が投げたバスローブを受け取ると、水着を持ってがバスルームに入った。 「・・・いまさら意味あんのか?ま、いいか」 将臣はさっさと部屋で着替えを済ませる。 (・・・寒がりだからな〜。こういうのもいいだろ?) 二月の旅行にすれば、海にも入れた。 そうしなかったのはのためだ。 今回の旅行は将臣の趣味よりも、のためというのが大きい。 (二人で南の島でクリスマスなんてな。今後できるかわかんねぇし?) 学生のうちはいいが、お互い働き出したら難しい。 は最初から働く気でいるからだ。 『嫌だよ。将臣くん、ちっとも帰って来なさそうだもん。早く二人のお家を 買うって目標はどう?そういうのいいよね〜』 「お待たせっ!行こう?」 ぼんやりと考えていると、いつの間にかが目の前に立っていた。 「将臣くん?」 「いや・・・結局どっちにしたんだ?」 どちらとは水着の話である。 「将臣くんのスケベ!・・・一応リクエスト通り。だから、行こう?」 「やりぃ!」 指を鳴らしてから手を繋いでプールへ向かった。 将臣のリクエスト通りにの水着はビキニタイプだった。 それはそれでいいのだが、目のやり場に困る事には気づかなかった。 「なあにぃ〜?なんとなく挙動不審」 水に慣れるのにプールの中を歩いているのだが、将臣の方が身長があるのだから 色々見えるのは仕方がないことだ。 「別に。お前はアレで浮いてろ」 用意した浮き輪がチェアーに置いてある。 「・・・ひどぉ〜い!・・・使うけど」 泳げるのだが、そう長くは泳げない。 現実問題、浮き輪を使って水に浮いているのは楽でいい。 ひとり浮き輪を取りに戻ると、プールサイドで将臣を探す。 勢いをつけて泳いでいる姿が目に入った。 (やっぱり泳ぎたいんだよね・・・私、邪魔かな・・・・・・) 一緒に旅行がしたかっただけで、将臣の邪魔をするつもりはなかった。 沖縄にも来てみたかったので将臣の夢に便乗してしまったのだが、泳ぐとなると 話は別だ。 毎日泳いで過ごすのは、には退屈すぎる。 (何か遊び見つけようかな・・・・・・) プールサイドに座って足だけを水に浸けていると、水の中の足を掴まれた。 「ひゃっ!!!」 慌てて手をしっかりつき、水中へ落ちずに済んだ。 「ば〜か!どうした?浮き輪、穴でもあいてたか?」 がプールに入らないのに気づき、迎えに来た将臣。 「う〜んと・・・そうじゃなくて。ジャグジーとか、エステ〜とか。何か違うことも してみたいな〜って考えてたの。サウナもあるんだね」 プールの周辺に施設がそろっている。 ガラス張りなので向こうからもこちらが見えることだろう。 「あ?ああ。行くなら俺も。言っとくが、ひとりでフラフラするな。いいか?」 「どうして?」 の返事に将臣が項垂れた。 「どうしてって・・・どうしてもだ!っとに・・・・・・」 腕を伸ばして水中でを抱きかかえる。 「部屋に帰ったら説教。覚悟しろ」 「ええっ?!意味わかんない。どうして〜?」 その後は将臣に背負われたまま、プールの中でじゃれて過ごした。 遊び疲れて部屋へ戻った途端に将臣とバスルームへ直行となる。 頭からやや熱めのシャワーを浴びると、体が冷えていたのがよくわかる。 「うわ〜〜、あったかいよ〜〜〜」 「ば〜か。プールは塩素が多いんだ。よく流しとけ」 将臣に丁寧に髪を洗われる。 「きゃはは!全自動だ〜〜〜」 「あのなぁ・・・・・・」 あまりに楽しそうに笑っているので、説教の予定が予定のままだ。 しかし、言わないで何か遭っても困ると、小さく溜息を吐いてからを見た。 「。お前、俺の何?」 小首を傾げたが、やや間を空けて返答する。 「何だろう?」 将臣が求めている回答ではない。 すっかり自信がなくなった将臣は、そのままバスルームから出て行ってしまった。 「・・・何って何?」 質問を反芻する。 「わかんないよ。ずっと一緒にいたんだから・・・・・・」 着替えて髪を乾かしてから部屋へ戻ると、髪が半乾きの将臣が首にタオルをかけたままで ベッドに座っていた。 「将臣くん?」 「ああ。寒くないか?」 「うん。シャワーであったまったから」 将臣の背中から抱きつく。 「何?」 「さっきの・・・質問の答えね?やっぱりわかんないんだけど・・・・・・」 将臣が前髪をかきあげた。 「いいさ、それで。そんなもんだ」 将臣自身、最近の矛盾した気持ちに混乱することもある。 が着飾るのは可愛いと思うが、見せたくないなどよくあることだ。 「えっと・・・そんなもんって・・・そうじゃなくて。ずっと一緒だったし。これからも ずっと一緒だよね?何って何?私、将臣くんに必要じゃないって意味なのかな?」 将臣が振り返り様にを抱きしめ、ベッドへ仰向けになった。 「ば〜か。それじゃ意味が逆だ。・・・知らない男に着いて行くなよって言いたかったんだ」 「あのぅ・・・子供じゃないんで。お菓子くれるって言われてもいかないよ?」 誘拐の話はしていないのだが、どうにも伝わらないらしい。 「・・・あははははっ!バカみて〜、俺。はだよなぁ」 「わっ・・・笑われてる?私、何か変な事・・・・・・」 が手をベッドについて将臣の顔を覗き込む。 「いや?あのな。俺に気を使うなって。俺がと沖縄に来たくて来たんだからな。 明日はガラス工房に予約を入れてあるし。温泉にも行って。土産も買って。首里城も見て。 プールはの水着姿が見たくて行ったんだぜ?気づいてたか?」 真っ赤になったは腕の力を抜いて将臣の胸へぴたりと顔をつけて隠した。 耳まで赤くなっているのがおかしくて、そろりとその頭を撫でる将臣。 「お〜い!わかってんのか?今回の旅行は、いわば・・・新婚旅行のリハーサル」 ずりずりと逃げようとするの背へ腕を回し、その動きを封じる。 「・・・聞いてない」 「そりゃ・・・言ってないもんな?俺が勝手に思っていただけで」 あまりといえば、あまりな将臣の発言。 だって未来を夢見ていたのだ。 「・・・恋人同士のクリスマスのつもりだったのにぃ」 「へえ?どっちでもいいぜ?俺の時間、全部のもんだ。ついでに、明日は豪華クリスマス ディナーの予定。のご予定は?」 今度はずりずりと将臣の顔の方へ移動してくる。 「プロポーズ、まだだよ?」 「・・・言っただろ、今」 キメゼリフまで聞き逃されたらしい。 「・・・何て?」 泣きそうな瞳で見つめられ、今回ばかりはもう一度言うしかなさそうだ。 「俺の時間。全部の好きにしろ。クリスマスにはフライングだけどな〜。明日の予定が 一日早くなっちまった」 「サンタさん、ありがと」 「・・・・・・覚えてたのか?」 将臣のプロポーズすら聞き逃すが、幼少時の出来事を覚えていたとは考えにくい。 「うん・・・さっきね、想い出したばかり。私、小さい時に菫おばあちゃんに言ったんだよね」 隣で子供同士が同級生ともなれば、どちらかの家でクリスマスとなるのはよくある事だ。 ましては将臣の祖母である菫にとてもよく懐いていた。 みんなでサンタクロースに願い事をするために、お絵かきをし、その横に願い事を書いたのだ。 『ちゃんはお嫁さんなの?誰の?』 『サンタさん!そうすれば、たくさんお願いきいて貰えるよ?』 無邪気な発言だが、とある歌が世間で流行りだした頃からその意味が変わる。 将臣にも記憶がある、幼い日々の出来事。 いつからか自分がその役をできるならと考えていた。 願い事、気合で叶えるとするか。たくさんってのが・・・らしすぎだけどな?─── |
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ツリーと“palm tree(やしの木)”のツリーをかけて・・・と無理矢理なタイトル(笑) (2006.12.26サイト掲載)