十一月生まれの貴女へ





 今日はね、いつものオレとは違う。
 なぜならば、オレにしては上出来の知識を手に入れたから。

 今月はちゃんの誕生日がある。
 かねてよりオレは考えていた。

 オレの希望を叶えつつ、ちゃんにも喜ばれる(ハズ)の贈り物をと。
 かっこ“ハズ”がついてしまう辺りがオレのココロ弱い部分ではある。
 が!秋という季節には様々なものが世に溢れる。
 秋の夜長とは、かくもオレに都合のいい情報を氾濫させてくれ・・・・・・。
 ただし、多すぎるのが問題だけど。



「でぇ〜?遊園地で〜、食事はココで〜?後は・・・プレゼントかぁ・・・・・・」
 正直、動くモノにやたら興味がある。
 ちゃんよりオレの方が遊園地で楽しんでしまいそうでコワイ。
 観覧車は乗ってみたかったんだよね〜。

「いや、いや、いや。そうじゃないって。プレゼントだって!」
 金曜日の夕方に、会社近くのカフェで悩む。
 金曜日はちゃんが家に来てくれる貴重な日なんだけどね。



「梶原さん、何してるんですか?」
「ええっ?!あ、ああ。鈴木さんこそ・・・どうしたの?」
 確か隣のチームの鈴木さんだよな?
「私ですか?私は・・・・・・待ち合わせなんです」
 嬉しそうに小声で言われた。そうか!彼氏とデートなんだね〜〜?

「そっか。楽しそうで何よりだねっ!」
「・・・お店混んでて座れないんです。お邪魔してもいいですか?」
 言われて辺りを見回せば、確かに。

「いつのまにこんなに人が?!」
「金曜日だし・・・ここって駅から近いからですよ。よかった。遅れそうってメールが
あって、どこかお店に入ろうって思ったのに席が無くて。梶原さん見つけちゃった」
「そ〜?うん。オレはすぐ行くし・・・・・・」
 そういう事なら邪魔しちゃ悪いしね。
「やだ!そんな、無理矢理場所空けてもらおうとかそういうのじゃないんです。出来たら
おしゃべりしてもらった方が私もココに居づらくないし・・・一時間もひとりってちょっと・・・・・・」
「うん。オレも正直言うと後少し時間あるんだ。あんまり早く帰ると慌てさせちゃうし・・・・・・」
「・・・・・・あはは!ちょっとコーヒー買ってきますね。その話、詳しく聞きたいです」
 荷物を置くと、鈴木さんはコーヒーを買いにカウンターへ行ってしまった。
 詳しくって・・・惚気になっちゃわない?



「さてとっ。梶原さんの彼女さんがお家で待ってるの?それで時間潰してるとか?」
「やっ?!そっ、それもあるんだけど・・・・・・オレが先に帰るとお料理を作る時間が無いって
慌てさせちゃうから。それはね、一緒に作ったり出来るし楽しいから帰っても問題はなくて。
ただ・・・・・・」
 ここは若い女性に相談してみるべきだろうか?
 のんびりコーヒーを啜る鈴木さんの様子を窺う。

「ただ・・・なんですか?何かあったんですか?」
「誕生日のプレゼントが決められないんだよねぇ・・・・・・外出プランは決まったのに、肝心の
プレゼントが・・・・・・」
 鈴木さんが目を瞬かせてる。もしかして、呆れてる?

「梶原さんって、ほんっとマメだし気配りやさんですね!誕生日だったら、誕生石のアクセと
かどうですか?変にダイヤとかだと重いし。彼女さんなんでしょ?」
「そ、それって何?可愛い感じ?可愛さ倍増って感じ?」
 思わず身を乗り出して尋ねたら、笑われてしまった。お恥かしい限り・・・・・・。
 額の汗を軽く拭ってみる。いやいや、まったく。慣れない事は汗をかく。

「月ごとに宝石が当てはめられていて。それが誕生石って言うんですよ。今月だとトパーズかな?
女の子って、誕生花とか誕生石とか占いとかそういうの好きだから嬉しいんですよ。ほら!」
 おおっ?!ソレ?指輪なの?
「え〜っと・・・それは?」
「これは一月のガーネットですけど。トパーズはニセモノも多いから買う時にはちゃんとしたお店
がいいですよ?」
「いっ、今からお願いしてもいい?!明後日なんだよね、実は。それでココで悩んでいたっていう
か・・・ウロウロしていたっていうか・・・・・・時間ある?」
 捲し立てるオレに対して、彼女は冷静だった。

「お勧めのお店の地図を書きますよ?ほら、私も困るけど、梶原さんも誤解されたら困るでしょ?
お店がお店だし。お店の人に聞いちゃうのが一番!ちなみに・・・・・・」
 手帳を切り取って地図を書いてくれた。その上、携帯でなにやら検索中らしい。
「はい!宝石言葉は“希望”とか“潔白”です。ここについでに書いておきますね〜」
 手渡されたメモを眺める。近い!
「ごめんね〜、気を遣わせちゃって。そうだよね、待ち合わせって言ってたのに・・・・・・」
「いいえ!私もココ、お邪魔しちゃったし。やっぱり追い出ししてるみたいですね」
 目が合って、思わずお互いに笑ってしまう。
「い〜え!オレの方がお徳。今から彼女にプレゼントを買って。手料理を食べて。日曜日に渡せる
なんて、ココに座っていてよかったな〜。ありがとう!じゃ」
「いいえ。私も楽しかったです。それじゃ」
 急いでカップを片付けて店へ向かう。



「あの・・・トパーズを探しているんですけど・・・・・・」
 店に入るなり尋ねる人物はあまりいないのだろう。
 しかも、いかにも教えられて来ましたといわんばかりに手にメモを持ってたし。
「はい。今月の誕生石になりますね。贈り物ですか?」
「はいっ!そうなんですっ!!!めっちゃ可愛い指輪を探してますっ!」
 またもやってしまった。オレの意気込みは空回り。笑って下さい、いくらでも。
「こちらにご用意させていただきますので。少々お待ち下さい」
 お勧めのお店だけあって、対応が丁寧だね。うん。



 ビロードに並べられたトパーズ。琥珀色の石は、どこか暖かそうだ。
「トパーズも色々ございまして。こちらの色が一般的ですけれど・・・・・・」
 そういわれても、オレは小さいけれど輝くあるひとつの石に心惹かれていた。
「あの・・・これは・・・・・・」
「はい。それはインペリアルトパーズといいまして・・・小さめですが最高級の石です。台もプラチナ
でして・・・・・・」
 それは、それは。なにやら高級なんですね?でも値段じゃないんだな。
「コレがいいです。はい。これが一番似合うと思うんです」
「お値段がこちらになりますが・・・・・・」
 電卓に表示されている数字は中々のものなのだろう。相場もわからないけど、別にいいんだ。
「何でもいいです。これがいいと思うんで。カードでお願いします」
 手早く支払いを済ませると、手にしたギフト用バックに温度を感じた。



 これがちゃんの指に───



 想像するだけでドキドキだ。いつだったか夏に買ったアクセサリーとは重みが違う。
 偶然にもサイズがわかったのはオレにしてみればラッキーな出来事だったけど。
 
「だってさ・・・・・・これはその・・・約束の約束のつもりだし・・・・・・」
 ちゃんは来年には卒業するんだよね、学校。
 何となく言い出せなくて今日まで来たけどさ。予行演習っていうの?

「え〜っと・・・・・・いつかお嫁に来て下さい?オレと一緒になって?一緒に暮らそう?あれ?」
 玄関前でぶつぶつと日曜日の練習をしていたら、気配で帰宅が知られてしまったのだろう。
 中からちゃんが扉を開いてくれる。

「おかえりなさい!寒かったでしょ〜。ご飯出来てますよっ」

 やばい。既に気分は新婚さんだ。日曜日までは我慢しないと。
「ただいまっ。いいね〜、家に明りがついてるのって。しかもイイ匂いがここまでする〜」
「でしょっ!ちょうどね、全部出来たトコなんですよ。よかった。温めなおすより出来たてがいいもん」

 この笑顔を独り占めするために。
 日曜日には隠してあるコレを朝一番に渡すぞ!



 お誕生日おめでとう、ちゃん。
 これは君を守ってくれる石なんだ。
 でもね、石はオレがいない時の代わりだから。ずっと君の隣に居たいです。

 おや?少し情けない?ま!オレらしいよ、きっとね。






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 あとがき:ギリシャ語の“探し求める”が語源らしいです。景時くんの探しモノって事で。     (2005.12.03サイト掲載)




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