九月生まれの貴女へ





 京に居るときに学んだ“誕生日”がもうすぐ。
 先に学んだからって、素早く決められるものでもない。
 ちゃんの世界へ来て思うこと。

 モノが多すぎっ!!!

 豊かなのはいいことなんだけどさ。
 そうだよな〜、食べ物にも困らなくていいんだけど。

 選択肢が多すぎっ!!!

 何もかもがよく思えて。
 全部が違う気がするんだよね。
 
 はぁ〜・・・・・・困った。



「な〜に溜め息吐いてんだよ、景時!」
「あ、将臣君・・・久しぶり・・・・・・」
 すごい偶然だけど、駅前のカフェで将臣君に会った。
「何してんの?仕事?」
 そりゃそうだ。オレはスーツを着ていて、手ぶら。
 そう思われても仕方ないよね。
「いや・・・買い物・・・なのかな?」
「何だそれ。ここ・・・いいか?」
 向かいの席を勧めると、将臣君がトレーを手に座った。

「将臣君はどうしてここに?」
「んあ?ああ、俺はそこでバイトしてて、その帰り。腹減ってさ〜」
 ポイね〜。似合うよ、そういうの。
「そっか。もう少し早かったら・・・もう夕飯は無理だよね?」
「・・・いや、メシは入るけどよ・・・、待たせてるんじゃないのか?」
 うっ。その通り。でもさ、明日はちゃんの誕生日なんだよ。
 そんな顔で見ないでよ、オレ別に・・・・・・。

「わかった!買い物って、のプレゼントか!早く買えよ、そんなもん」
 そんな簡単に、“そんなもん”扱いしないでよ〜。
「・・・・・・買えたらここにいないよ〜」
「それもそうだな」
 将臣くんは、大きな口でパンを食べた。
 理解を示したなら、オレの言いたいことわかるでしょ〜〜〜。

「ま、アレだ。女は指輪で約束が欲しいんだとよ。そういうのはどうだ?」
 ソレだよ、それ!流石だな〜、将臣君は。
「指輪ね!約束って意味なんだ」
「そ〜。色々な場合の約束。正式なもんじゃなくていいだろ、まだ。あの辺りで」
 将臣君の親指の方向は・・・っと。
 シルバーアクセサリーのお店?いいのかな〜。
「指輪は給料の三ヶ月分だったかな?とにかく高いものだしな。それはまだ・・・
いいだろ?」
 すっかり食べ終わってるのに、ごめんね〜。
「じゃ、じゃあ・・・行ってみる」
「おう!またな」
 へっ?またなって・・・・・・。
「んなもん、ひとりで行けよ。俺は帰るからな。ついでに花束も用意しろよ。何の
かんの言ってもさ、今日の0時を過ぎたら・・・だろ?」
 あっ!!!そこまで気づかなかった。明日じゃ遅いんだ。

「ありがと、将臣君。後、よろしく〜」
 オレってば、セルフなのにカップも片付けないで飛び出した。
 将臣君がしてくれてると思うけど。ごめんね〜、このお礼は後日するから。
 


 大きく深呼吸をして、一歩踏み出す。
 この自動ドアっていうのも、ガラス張りぴっかぴかな構えも入り難さを増すだけ。
 だってさ、中にいるのはカップルか女の子ばっかり。
 男ひとりなんて・・・・・・と、思ったら。
 素早く店員さんが来てくれた。助かった〜〜〜!
「いらっしゃいませ。今日はどういったものをお探しですか?」
 どういったって・・・詳しく言うべき?
「その・・・彼女の・・・誕生日のプレゼントに指輪を・・・・・・」
「お決まりの品か、石はございますか?」
 品はわかんないし、石って何?首を横に振ってみた。
 ぜ〜んぜん、ちっとも、まったく、なんにもわかんないし。
「指輪をいくつかお出ししますね。シルバーだけのデザインと、宝石がついている
デザインがあるんです。誕生日なら・・・誕生石というのもいいですね」
 ビロードの上に次々と並べられる指輪。
 もう、どれでもいいような気すらしてきたけど・・・・・・。
「誕生石って何ですか?」
 ここは素直に分からない事は聞こう。
「生まれ月にちなんだ宝石があるんです。九月ですとサファイア。宝石言葉は、慈愛
や誠実ですね。ラテン語の青が語源なんですけど、青じゃなくてもサファイアなんで
すよ?」
 出された指輪についている宝石は、ピンク色だった。
「この石はとても珍しくて、お値段が少々張るんですけど・・・・・・」
 確かに。他のものとはゼロひとつ違う〜。でも、これだ!ちゃんに似合うのは。
「そ、それもサファイアなんですよね?」
「はい。ピンクサファイアです」
 サファイアで可愛いなんて!もう決定!
「そ、それを・・・・・・」
「プレゼント用にご用意させていただきますね。カードもご用意出来ますので」
 カードまで?カードって言っても、書くのはオレだよね。
 緊張するな〜、どこかで書かなきゃだよね。
「こちらへどうぞ。ペンもございますよ?」
 おおっ?!ペン立てが出てきた。どの色でも使えって?
 書くよ、書きますって。家に着くまでに準備しなきゃだもんね。
「お借りします」
 店の奥の小さなスペースで、オレは必死に言葉を探す。

 ・・・ダメだぁ。なんて書こう?もうね、そのまんまでいいや!

 カードなんだから、長けりゃいいってもんじゃない。
 短くはっきりとだよね!


   ─── 『お誕生日おめでとう、ちゃん。
                        オレの気持ちです』 ───


 そう、これがオレの気持ち。結婚はまだ出来ないからね。
 ちゃんの卒業を待つというのは変わらないけど。
 気持ちはもう決まっている。
 だから・・・・・・将来を約束したいな〜の気持ちを君に。
 ハートを赤いペンで書いて完成。

 よしっ!コレを入れてもらおう。

「カード、書けました?」
「はいっ!」
「こちらになりますね」
 可愛い小箱に入れられて、リボンで包まれた指輪。
 小さな紙バッグに入れて渡される。
 カードもここに入れないとね!
 商品と引き換えに支払いを済ませて。
 次は花屋さんだ。

 花屋さんは、駅前にあるんだ。
 小さな花束を作ってもらおう。
 可愛いもの好きのちゃんに似合うような。

 心の中で繰り返す。

   ─── お誕生日おめでとう、ちゃん!

 

 オレは、帰り道にスキップしていたかもしれない。
 





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 あとがき:ただのサファイアではない辺りがポイントでしてv




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