卯月生まれの貴女へ 桜の季節がやって来た。 庭の花で季節を知るんだけど、中でもこの“桜”は特別で・・・・・・ 「ちゃん、桜を観に行かない?」 庭で素振りをしているが振り向く。 「桜ですか?そうですね!皆を呼んできますね」 他の人を呼ばれそうになり、慌てて腕を掴む。 「あのさ・・・二人で行かない?」 「・・・え?」 君の誕生日だから、二人で行きたいんだ。 だって、オレが“誕生日”を知ってる事、ちゃん知らないでしょ? 「賀茂大社がね、いい感じだよ。途中に美味しいお饅頭も売ってるし」 食い気の要素も付け加える。 「わ〜!じゃあ、支度してきますね」 家の中へ駆けて行く君の背中を見つめる。 喜んでくれるかな?一応ちゃんと理解したつもりなんだけど。 大切な日だからね。今日は! 心の中で繰り返す。 大丈夫、大丈夫。とっておきの笑顔をオレに見せて─── 「お待たせしました」 が庭へ戻って来た。 「えっと・・・じゃあ・・・行こうか?」 手を出す景時。 (手を繋いでくれるかな?) 祈るような気持ちで待つと、の手が重ねられた。 (やった!) 「桜って、たくさん種類があるんですよね?」 「そうだね〜でもさ、立砂の白と桜門の朱と。桜と空の青が一度に観られるよ?」 景時の言葉に、は一生懸命色を組み合わせて想像する。 「うぅ〜想像つかないです。百聞は・・・ですもんね!早く行きましょ」 に急かされるままに足を進めた。 真っ白な参道を歩く。 「わ〜、空が青い!すごぉ〜い。横長だ〜」 が両手を広げてくるくると回りながら歩く。 鳥居を通り過ぎれば、神社の建物より高い建築物はない。風景は横長になる。 周囲に広がる森の緑と、参道の白い砂利道。 晴れ渡る空の青に、鳥居の朱。 ひと通り景色に満足したは、また景時の元へ戻り手を繋いだ。 「観ないとわからないものってありますよねっ!」 はしゃぐが顔を上げる。 「そうだよね。見ないとね!」 (あ〜〜、こんなに近くで顔見られて。ほんと幸せだ〜〜) の観ているモノと、景時の見ているモノは違っていた。 景時との身長差だと、の頭上を眺めて歩く事になる。 「景時さん?」 あまりに景時が見つめるので、もつい視線をそらせず声をかける。 「あ!あ〜あはは!何?」 「えっと・・・何かそんなに見られると恥かしいです・・・・・・」 が俯いた。 「ごめんっ!」 景時が視線を空へ向けた。でも、手は離さない。 「行こうか。桜はね、もっと奥なんだ」 「はい」 意識し出すと、どうにも顔を見られないまま二人は歩き出した。 目の前に広がる桜にが感嘆の声を上げる。 「わ・・・・・・・・・・・・」 桜がわんさとあるわけではない。が、ないわけでもない。 庭というものに対する感覚の違いだろうか、季節のものが程よく配置されている。 風で舞った花弁が、の髪に、肩にふわりと乗った。 その幻想的な光景に、景時は不安を覚えてを抱きしめる。 「か、景時さん?」 「ちゃんが消えちゃう・・・・・・消えないで・・・・・・」 景時の切なげな声に、は動かずにいた。 「わっ!ごめんっ、ちゃん」 我に返り、慌ててから離れる景時。飛び退くといった方が正しい。 は突然離れられて、少し寒さを感じて肩を震わせた。 「どうしたの?寒い?」 寒いかと聞かれれば寒い。しかし、寒いのはどっち? (そっかぁ・・・・・・私、景時さんが好きなんだもん・・・・・・・・・・・・) 離れてしまった距離と温もりの両方が寂しくて寒い。 「寒いから・・・手、繋いで下さい・・・・・・」 景時の傍まで歩み、から手を繋いだ。 (温か〜いv大きな手・・・景時さんの手・・・・・・・・・) つい両手で景時の手を包み、頬擦りしてしまった。 「ちゃん!?」 まさかの頬に触れてしまうとは思わず、しかし手を取られていて離れられず。 困惑の景時。その実嬉しかったりするのだが。 「・・・・・・私ね、景時さんに伝えたい事があるんです」 真剣なの目に、景時は本日の趣旨を先に話す事にした。 「あのね、オレも聞いて欲しい事があって。今日ここへ誘ったのはね・・・・・・」 に取られていた手を解放してもらい、袂より紙に包まれた簪を取り出す。 「これをね、君に渡したくて」 両手で受け取ったは、包みを丁寧に開けると、そこには可愛らしい細工が施され た簪。 「あの・・・綺麗だけど・・・その・・・・・・」 景時から貰う理由がない。 嬉しい反面、深い意味がないのだとしたらこれほど悲しい事もない。 お礼の言葉が素直に述べられない。 「気に入らなかったら・・・捨ててくれていいんだ。その、ちゃんの誕生日でしょ? ちゃんに似合うかな〜って選んだんだけど・・・・・・」 の反応に、すっかり自信をなくしてしまった景時。 (私のため?誕生日って・・・・・・) 微笑みながら景時の手に簪を乗せる。 素早く両脇の髪を取りまとめると、後ろへ纏めた。 「景時さん!挿して下さい」 景時へ背中を向け、簪が挿されるのを待つ。 すっと景時の手で簪が挿し入れられた。 「似合いますか?」 振り向きざま景時を見上げるの両目。 「うん・・・・・・簪、返されなくてよかった・・・・・・」 手に乗せられたとき、景時の心の臓は一時停止していた。 「そんな!あ・・・ごめんなさい。だって、手が足りなくて・・・その・・・でもすぐにしたくて」 手を忙しく動かし、景時に嬉しさを伝えようとしている。 「大丈夫。わかってる。でも・・・・・・続きも聞いて欲しいんだ」 の手を取る景時。 「お誕生日おめでとう、ちゃん。それと・・・・・・」 耳元へ唇を寄せる。 「・・・君の事が大好きです」 の顔が真っ赤になった。 「わ、わた、私も!」 が景時に飛びつく。 柔らかな春の日差しの下での出来事。 ちゃん、お誕生日おめでとう─── そして。想いが通じた記念日だね! |
Copyright © 2005- 〜Heavenly Blue〜 氷輪 All rights reserved.
あとがき:一瞬悲しげな景時くん。現代なら、ネックレスでもつけてもらおうってトコですね(笑)