弥生生まれの貴女へ





ちゃん、ちょっと出かけない?」
 庭で日向ぼっこをしているに景時が声をかける。
「いいですよ?どこへ行くんですか?」
「牛皮山曼荼羅寺。小野小町って知ってるかな?あそこの唐棣(はねず)の梅は
有名なんだよね」
 は、学校の歴史や古典の授業を必死に思い出す。
「あ!『花の色は うつりにけりな〜』の人ですね」
「知ってた?」
 照れくさそうに景時が頬を掻いた。
「はい。『百夜通』のお話をゲームで。あれ?『隨心院』?」
「・・・・・・その話知ってるんだ。しまったなぁ〜」
 景時は、予定外と言わんばかりに考え込んでいた。が首を傾げる。
「駄目・・・でした?」
「い、いや〜、違うんだよ。うん、行こうか!」
 景時の声は、おもいっきり裏返っていた。
(あ〜、ちゃんって物知りなんだなあ。残念・・・・・・)
 少々遠出なので、馬での外出となった。



「さ〜、着いた!」
 を馬から降ろし、さり気なく手を繋ぐ。
「景時さん、『唐棣(はねず)』って何ですか?」
「あ〜、薄い紅色をね『唐棣(はねず)』って言うんだ。ここの紅梅はそう呼ばれて
いてね。梅にしては少し咲く時期が遅いんだ」
「景時さん、詳しいんですね」
 手を引かれて歩きながら、は辺りを見回す。
「え?いや〜、ちょっとね」
 梅園を歩き、小町縁の井戸を見学し、景時は文塚へ向かう。

「あ、あのね。ちゃんに渡したいものが・・・・・・」
 布に包まれたものがの手に乗せられた。
 開くと、綺麗な細工の扇子だった。
「わ〜、綺麗。これ・・・・・・」
 が景時を見上げる。
「え〜っと。お誕生日おめでとう。オレ、ちゃんの舞姿、好きなんだよね〜」
「誕生日って・・・・・・」
 景時が手を振り回しながら慌てている。
「い、いや〜、譲くんに聞いたんだ!生まれた日のお祝いをするって」
「ありがとうございます。嬉しいです!」
 丁寧にもとの通りに扇子を包むと、大切そうに扇入れにしまう。
「それと、あの・・・・・・ちゃんは家に居るから、オレだとズルになっちゃうんだ
けどさ。100日、毎日君に花を贈るから。だから・・・・・・」
 大きな景時が、小さく見える。
「だから・・・・・・オレ・・・君が・・・・・・」
 さらに小さくなった景時。
「・・・・・・景時さん」
「は、はいっ!」
 突然名前を呼ばれたため、反射的に顔を上げて返事をしてしまった景時。
 と目が合ってしまい、赤面している。
「私、景時さんと逢ってから、100日以上一緒に居ますよ?」
 が悪戯っぽく笑う。
「そ、それは・・・・・・そうなんだ・・・けど・・・・・・」
 また景時が俯く。
「100日待つの、長いですね。今日は私の誕生日だから。欲しいものがあるんです
けど。いいですか?」
 が景時の右手をとった。
「な、何かな。オレに出来ることなら・・・・・・」
 何が欲しいのか見当もつかず、ただ立ち尽くす。
「景時さんにしか無理なんです。景時さんの・・・こころを下さい。言葉が欲しいです」
 真っ赤になり、俯きながらも最後までしっかり言い切った。
「オ、オレ・・・・・・」
 景時の右手がの手から離れる。両腕でをそっと抱きしめる。
「オレはちゃんが好きです。誕生日おめでとう!オレの心を君に・・・・・・」
「えへへ。景時さんを貰っちゃった・・・・・・」
 の両手が、景時にまわされた。
「オレが嬉しくて・・・・・・いいのかな?」
「じゃあ・・・景時さんのお誕生日には私をあげますね」
 耳まで赤くなっている
「・・・・・・それだと。オレも弥生生まれなんだよね〜」
 景時が嬉しそうにに笑いかける。
「ええっ?!先に言ってくださいよぅ」
 が慌てて顔を上げる。
「ん〜、生まれた日なんてお祝いしないからね」
「景時さん、お誕生日おめでとうございます」
 
 

 君に逢えてよかった。
 生まれてきてくれてありがとう。
 ちゃん、お誕生日おめでとう───





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 あとがき:文塚は、とっても変な場所にありましたね〜。驚きでした。




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