如月生まれの貴女へ





ちゃん、明日ちょっと出かけない?」
 景時は、を誘った。
「まだ寒いですよぅ?」
「寒いのがいいんだよ」
 そう。寒ければ手を繋げる。
 寒ければ・・・身体をくっつけて歩いても不自然じゃない。
「朝の稽古をしてからでもいいですか?」
 は、真面目に毎朝素振りをしている。
 そんなことは、もちろん知っている。
 が困ることはしたくない。
「もちろん、そのつもりだよ。おやすみ」
 そのままの部屋を後にした。

 明日は彼女の誕生日。
 覚えているだろうか?
 


 翌朝になり、景時は、の稽古が終るまでの時間を洗濯に費やす。
 お昼は、朔に頼んである。お弁当持参の散歩だ。
「兄上、用意が出来ましたよ」
 朔が、洗濯物を干す景時に声をかける。
「ありがと〜、朔。今日はさ、夕餉もよろしく頼むよ!」
「はい、はい」
 くすくすと笑いながら、朔は簀子から去った。
 朔とての誕生日を祝いたい。
 今日の夕餉は、譲と一緒に、の好きな物だけを作るつもりだ。
「そろそろ支度出来たかな〜」
 景時がの部屋へ呼びに行こうと、干し終わった洗濯物を眺めた。
 今日はいい天気になりそうな予感。
 う〜ん、と伸びをすると、背中から声がした。
「景時さん、お待たせしました」
 袿姿のが立っていた。
 寒いため、袴を穿かせられたのであろう。
「ちょっと待ってて。お弁当を持って来るね」
「えへへ。なんだかデートみたいです」
「う〜ん、オレはそのつもりだったんだけど?」
 景時の肩がガクリと下がるのをみて、が笑う。
「私も、そのつもりでしたよ?」
「え〜っと。取りに行ってくるから・・・・・・」
「一緒に行きましょう!」
 こうして散歩の前から景時とは、手を繋いで歩くことになった。



 六条の梶原邸からどれぐらい歩いただろうか?
 と手を繋いで延々と歩くことおよそ一時。
「景時さん、何処まで行くんですか?」
「そろそろ着くよ〜。うん、この辺りで、気がつかないかな?」
 は辺りをキョロキョロする。この景色は覚えがない。
 目でなければ音かと、耳を澄ませる。どうやらこれもハズレ。
 残りは・・・・・・
「あ!梅!梅の花ですね〜?」
「あたり」
 の笑顔が零れる。
「わ〜、此処まで香るのってすご〜くいっぱい咲いてるってことですよね?」
「まあね。天神様って知ってるかな?菅公を祀っているんだけど。彼は梅の
花が好きだったそうだよ。だからね、梅がたくさん植えられているんだ」
 ようやく目的地に着くと、適当な場所に腰を降ろした。
「梅って白いんだと思ってました。なんだか赤いですね〜」
「種類もあるからね。白梅もあるし」
 肺いっぱいに空気を吸い込む二人。梅の甘い香りが満ちる。
 景時は、そのまま仰向けになった。
「ん〜、いい天気。晴れてよかった・・・・・・寒くない?」
「はい。歩いたから・・・・・・」
 隣で転がる景時に、ドキドキしながら返事をする
(睫毛なが〜い。あ〜前髪ふわふわしてる!)
 の手が景時の前髪に伸びる。指で前髪を摘んでみる。
「・・・面白い?」
 目の前を行き来するの指を眺める景時。
「えへへ〜。景時さんの前髪なんて、普通触れないもん」
 は悪戯の手を止めて、景時の額を撫でた。
「きもちぃー、ちゃんの手・・・・・・」
 なんとなく会話もなく、梅を眺めて時間を過ごした。



「さて!お弁当を食べようか」
 景時の提案により、お弁当が広げられる。
「わ〜、豪華ですね」
「うん、朔が作ってくれたんだ」
 二人で仲良く食べて、日が暮れる前に帰り着くよう、帰り支度を始めた。
「ちょっと待ってて」
 を残し、景時は社殿の方へ走り去った。

「どうしたのかな〜?」
 空の青と、梅の花を楽しみつつ、景時との会話を思い起こす。
 菅公といえば菅原道真だ。
 雷がどうとは知らないが、学問の神様ということはでも知っている。
「御参りしたら、頭がよくなるかな〜?」
 は、手近な梅の木に手を合わせ、願掛けをする。
「お待たせ!」
 景時の手には、数本の梅の枝があった。
「ど、どうしたんですか〜?枝を切ったら、怒られちゃいますよ!!!」
「大丈夫なんだ。許可もらって、頂いたものだから心配しないで」
 得意そうに景時がに梅の枝を手渡した。
「あとね、これ。誕生日おめでとう」
 は、始め景時の言うことが理解出来なかった。
(誕生日?───あっ!)
「か、景時さん!どうして誕生日って知ってるんですか?」
 景時からの包みを受け取る。
「えっと、譲くんに聞いたんだよね。そういうの、するんでしょ?」
 が包みを開けると、綺麗な細工の櫛がひとつ。
「や、やだ。こっちの世界で誕生日の習慣なんてないでしょう?」
「ないけど・・・あってもいいんじゃない?嬉しいことは・・・さ」
 景時がを抱きしめた。
「君が生まれた日だからね・・・じゃなきゃ逢えなかった」



 君が生まれた日。
 オレと逢うために生まれてくれた日。
 大切な日だから。
 誕生日おめでとう、ちゃん。
 生まれてきてくれて、ありがとう。





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 あとがき:季節のお花使いたくて。毎月花だけが違うであろう程度ですいません。




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