Happy Birthday to...... |
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そぉ〜っと・・・そぉ〜っと─── 傍らで眠る夫は“ヒト”ではない。 けれど、そんなことはどうでもよかった。 だからこそ、その“夫”たる人物が故郷と呼ぶこの地で二人は暮らし始めたのだから。 「早くしなきゃ」 上手く彼の人の腕を抜け出せた。 音を立てないよう寝室を後にした。 「・・・・・・何が早くなのかな」 耳を澄ませばが玄関を出て行く音が聞える。 静かに起き上がり、が眠っていた場所を手のひらで撫でてみる。 「別に俺は寝なくても平気なんだけれど・・・・・・」 ついつい笑いが零れてしまう。 もジェイドが人間ではないのはわかっているハズなのだ。 ところが、日常の行動を振り返るとそんな素振りはひとつもない。 「おや?こんな早くにひとりで森へなんて・・・・・・」 が目覚める前からジェイドは覚醒していた。 ただ、が知られたくなさそうだったので放っておいたのだ。 それが一人で森へ行くとなれば見逃せるものではない。 「・・・・・・少し様子を見ようか」 支度を済ませると、それなりに距離をおいての後を追う。 基本的にジェイドに隠し事をしないが隠したい事なのだから、 立ち入っては悪いと思う。 知りたい気持ちも半分ぐらいはあるけれど、それよりも彼女の身が心配だ。 気配を探りながら森への小道へ分け入った。 「小鳥さ〜ん。・・・歌を歌えばいいのよね」 早朝の森の中で歌を歌い始める。 これがレインが作った機械の小鳥を呼び寄せる合図。 先週、留守番をしているのもとへ手紙が届いた。 『へ 鳥を連絡に使うのはどうかな。郵便より断然早いし、お前の声に だけ反応するから他の奴の伝言は録音できない。そろそろジェイドの誕生日だろ? 相談があるならのるぜ? レインより(ついでにニクスとヒュウガ)』 早速森へ行き鳥を呼び寄せ、ジェイドの誕生日の相談の伝言をする。 数度の遣り取りをしてジェイドを驚かせる準備は整った。 今朝はレインからの最終準備が整ったかの伝言を聞くために歌を歌う。 問題は─── 「やん!また集まっちゃった」 が歌いだすとレインの小鳥だけではなく、森の小動物たちまでもが 集まってしまう。 「今朝は何も持てなかったの。ごめんなさい」 昼間ならばジェイドが仕事に行っているのでキッチンへパンを取りにいけるのだが、 今朝は抜け出してきたのだ。 ジェイドは知ってか知らずか、今日と明日はお休みをとったらしい。 お陰でジェイドに秘密するには、ジェイドが眠っている時しかなかったのだ。 「レインの伝言を聞かなくちゃ」 機械の小鳥がの指に止まっている。 静かに耳元に嘴辺りがくるようにすると、レインの声が聞える。 「うふふ。明日は皆が来てくれるのね?よかった」 今度は小鳥と目を合わせながら返事を声に出す。 この機械の小鳥、レインが陽だまり邸の仲間の意見を参考に作り出したもの。 『姿を映してくれるならば・・・と思いますね』 『息災でいるか声というのもいいな』 『・・・・・・ラジャー。ついでにこっちの声も届くようするか!』 まさにの声と姿を届けてくれるメッセンジャーの役割を果たしている。 「今日もお天気が良さそう。それに・・・偶然だけれどお休みがとれたみたいでよかった」 胸を撫で下ろす。 まったく気づいていないのだろうが、そうそう都合よくジェイドが休めるわけがない。 人気のスイーツ職人を休ませれば店の売上が減ってしまうからだ。 そこにはニクスの働きかけがあった。 一見ジェイドの誕生日のためのようであるが、の喜ぶ顔がみたいという 偏った方向になりつつある陽だまり邸の仲間たちの協力ぶり。 元々がそのような事ばかりなのだから、互いに文句をいう事もなく協力し合っている。 「さ!明日が楽しみ」 片手を高く掲げると小鳥が青空へ飛び立つ。 その小さな青い鳥が空の色に溶けこむ時─── 「悪い子のは朝からひとりで何をしているのかな?」 「ジェイドさん!」 振り返るとすぐ傍の木陰にジェイドが立っていた。 顔は笑っているが視線はどこか厳しい。 「こんなに森の仲間たちを集めて・・・・・・俺にも聴かせてくれないかな?」 ジェイドの両腕がへと回される。 「あの・・・ごめんなさい。歌の練習をしたかったから・・・・・・」 小さな嘘ではあるけれど胸が痛い。 ジェイドの服を握り締めその胸に頬を寄せるが視線を合わせられない。 「うん?俺も聴きたいよ。それに・・・ビスケットを持ってきたよ」 「わぁ!よかった。何もなくて困っていたんです」 ひとりでは森へ来ないという約束を破ってしまい気まずかった空気が和む。 (いつものだね) 歌を歌い始めるに対し、ビスケットののった手のひらを枝へと添えるジェイド。 ちょっとした朝の独唱会になりつつある。 観客は動物たちとジェイドだ。 「・・・・・・おしまい!ね、皆にお願いがあるの。美味しい木の実のある場所を教えて?」 が尋ねると、動物たちが一斉に同じ方向を向く。 「ありがとう!あっちにあるのね?帰りに寄り道しましょう?」 ジェイドの腕を掴んで寄り道を強請る。 「そうだね。朝ご飯は何にしようか?」 「朝は・・・どうしましょう?木の実のパンはお昼に食べたいなぁ〜って思っていたんですけど」 真剣に悩んでいる様子の。 「・・・あはははっ!朝ご飯よりランチの心配かい?お昼のリクエストはいいとして、朝ご飯も 考えないとね」 「やっ、やだ。恥ずかしいぃ・・・・・・」 真っ赤になったを軽々と片腕へと抱えあげるジェイド。 「恥ずかしくはないよ。ただ・・・まだ食べていなかったってだけでさ」 「もう!それが余計に恥ずかしいんです」 仲良くじゃれあいながら必要な分だけの木の実を集め家路に着く。 夏とはいえ、早朝は涼しいものだ。 作業は捗り、日差しが照りつける前に家へ帰る事が出来た。 「。森へは・・・・・・」 「ごめんなさい。いつもは誰かと行ってるの。今朝は・・・そのぅ・・・・・・」 結果として約束を破ってしまった。 心配をかけるという事について、誰よりも解っていたはずなのに自ら破ってしまったのだ。 両親を待ち続けたあの時の気持ちを、ジェイドにもさせてしまったのかと思うと涙が零れた。 「泣かないで。泣かせたいんじゃないんだ・・・コズには優秀な占い師がたくさんいるからね。 君が危ない目に遭う様なことはないと信じている。ただ・・・・・・」 家へ入るとすぐにを抱きしめる。 「俺をひとりにしないで」 あまりに正直なジェイドに素直にも返事をする。 「ごめんなさい。今度からは、行き先をちゃんと言いますね?」 「ありがとう。・・・と、いうわけで。起きるところから始めようね」 「きゃっ!」 ジェイドに抱き上げられ、そのまま寝室へと直行される。 「ああ、そうだった。朝の予定が少しだけ狂ってしまったから、そこからやり直しだからね?」 「予定って・・・・・・何かあり・・・・・・」 を仰向けに横たわらせ、しっかりとその上に覆いかぶさる。 「俺の予定では・・・七時に起きてと楽しく過ごしてから八時半に朝食だったんだ。 多少の予定変更は仕方ないけれど、朝食は九時になってしまうかな」 予定とは都合のいい言葉で、片方だけが予定をしていても予定である。 「楽しく?楽しかったですよ、朝のお散歩」 これまた楽しいには様々な意味が含まれる。 楽しさこそ個人差があるものだ。 「を感じさせて?」 ジェイドの言わんとすることが理解できたが慌てて起きようとする。 「あのっ、そのっ、朝だし。朝だから・・・えっと・・・・・・」 「時間は関係あること?」 見事なツッコミをされ、どう切り替えしていいかわからずに考え込んでいる隙をまんまと突かれ、 気づけばすっかりジェイドのペースだ。 「あの・・・朝ご飯まだ・・・・・・」 「うん。九時になったらね。それにはメニューを決めていないんだよね?俺が昨夜考えて いたメニューでいいよね」 啄ばむようにキスを続けるジェイド。 話は聞いてはくれるが予定の変更はないらしい。 「お腹が鳴っちゃうかも・・・・・・」 いつもなら朝食は七時半。まさに今が七時半。 「大丈夫。準備はしてあるから、そんなに待たせないよ。安心して」 ここまで言われては拒むことは出来ない。 「・・・デザート付?」 「もちろん。今朝は夏らしくジュレ・ド・マンダリーヌを用意してあるからね」 朝から氷菓子は厳しい。 けれど、ジュレならば夏バテ気味でも口当たりもいいしスッキリする。 ここ数日の暑さに堪えていたをみかねて作っておいた。 「を食べさせて?」 「今日は特別ですからね」 念の為に確認をすると、ジェイドの首へと腕を回す。 とても嬉しそうなジェイドの表情に、なんとなくも嬉しくなってしまう。 「そうだね。特別だから・・・・・・今日は二人で海へ行こう・・・・・・」 確かにジェイドは今日の予定を色々と決めていたのだと頭の片隅で理解しながら、夏特有の 湿気を含んだ空気がまだ涼しい中、甘いひとときを満喫した。 「。朝ご飯を食べないとダメだよ?今日は海へ行く約束をしたよね?」 まどろむを優しく起こす声がする。 「ん・・・・・・朝ごは・・・ん・・・・・・」 「そう、朝ご飯。約束のデザートもあるんだよ?」 その声はどこか笑っている。 徐々に覚醒したは、自分のすぐ目の前に声の主がいたと知る。 「ジェイドさん?!」 あまりの近さに飛び起きそうになるが、それではぶつかってしまう。 反応を予想していたのであろうジェイドにキスをされ抱きしめられる。 「ごめんよ、。疲れてしまったんだよね」 「えっと・・・ちょっとだけだから・・・・・・あの・・・すぐに支度します」 疲れと気だるさは違う。 動けば動けるのが気だるいである。 悪戯を思いついたがジェイドを抱きしめ返す。 「十二分あれば支度ができますよ?」 このような場合の定番である、ジェイドの十分待つというセリフを先に言ってみた。 しかも、余裕幅をとって二分付け足して。 「・・・・・・参ったな。先に言われちゃったね?」 「言っちゃいました」 舌を出して肩を竦めるの頬をジェイドの唇がかすめた。 「用意して待ってるからね」 「はい!」 いつも通りの朝の風景。 少しだけ違うのは朝から触れ合った名残り。 「・・・・・・ちょっとだけ不思議」 ジェイドの背中を見送るのはいつもの事だが少しばかり寂しい。 朝食への期待よりも、離れることに対する寂しさを感じる。 「早く着替えなきゃ」 ジェイドの顔を見たければ、急いで支度をして食卓に着けばいい。 実に簡単な答えを導き出したが常よりも早く動き出した。 「海・・・ですよね?」 「海だよ。もちろん」 朝食を終えた二人が出かける準備をしながらの会話である。 「あれじゃダメなんですか?」 「そうだなぁ・・違う方がいいね。きっとそろそろ届くと思うし」 まったくもってにはジェイドがいわんとする事がわからない。 「届く?」 「そう。届く。後二分三十二秒で玄関の前」 タオルを用意したりテキパキと出かける支度をしているジェイドに対し、は その後ろを小走りについて歩いている。 「???届く?水着が?私の?」 足を止めて思考をまとめようとした途端に玄関で音がした。 「おはよう!まだ出かけてないよね?一応先に見せた方がいいと思って」 声の主はロウキだ。 「おはようございます!お客様ってロウキさんだったんですね?」 急いで玄関の扉をあけると、そこには荷物を持ったロウキが立っている。 「おはよう、。これ・・・ジェイドに頼まれていたものだよ」 何かを差し出されれば手を出してしまうというのは自然な動きだ。 受け取ってからの顔が蒼ざめた。 「こっ、こっ、こっ・・・これ・・・・・・」 「ああ。おはよう、ロウキ。わざわざすまなかったね。やっぱりピンクが似合うと思うな」 龍族の村の民族衣装に似た水着。 に似合うように淡い水色やピンクなどを使っているがデザインは独特。 装飾品があろうともビキニタイプに近い水着。 「布が少ないような・・・・・・」 「そんなの普段着と変わらないよ。お腹や足なんて出した方が涼しいに決まってるし」 あまりにあっさりと機能性重視とばかりに言い切られ、逆に拍子抜けだ。 ロウキにしてみれば幼い頃から服は暑さに対応したものばかり。 冬でも暖かいコズの村で過ごすならば日常のことである。 「そ・・・・・・それはそうなんですけど・・・・・・」 頭では理解しているが、行動が伴わないのが人間の面白いところだ。 この場合は羞恥心というものの存在による。 「大丈夫。俺が保証するから・・・それに。子供たちも待ってると思うよ?」 「そう、そう。もう海に集まってるよ。の水着を届けるって言ったら、早く来てねって 伝言頼まれた」 よくよくみれば、その伝言を頼まれたロウキは準備万端、いつでも海へいける支度だ。 「あのぅ・・・・・・」 「着替えは向こうでもできるよ?」 ロウキはが確認したいであろうことを先回りして告げる。 「これ・・・・・・」 「パレオは使っても使わなくてもいいし。水の中では邪魔になるだろうしね」 いつもなら水遊び程度にしか海へは入らないが、本格的に入らなければならなさそうだ。 「それに・・・・・・」 「ジェイドがパラソルも用意してるから大丈夫。そんなに真っ白なが日焼けで 肌を傷めたら本人よりもジェイドが悲しいってワケ」 炎天下で過ごさなくていいようにとパラソルまで用意されている海辺のデート。 水着は際どいものだが、それについては目を瞑り、海へ行く決心をした。 「じゃ、行きましょう!今日は・・・海へ入ろ〜〜っと」 「よしっ!行こう」 真っ青な空には雲ひとつない。 海を目指して家を出た。 「!早く、早く〜」 ひとりの子供がへ駆け寄り、そのまま腕を引いて連れて行く。 砂浜には中々の大きさの砂の城が作りかけだ。 「すごぉ〜い!今日はお城なのね?」 「うん!」 海で遊ぶといえば砂遊びは王道。 追いかけっこをしている男の子たちもの登場に砂遊びに加わる。 「やれ、やれ」 「・・・寂しい?」 今までならジェイドが呼ばれていただろう。 「いや?俺が作ると巨大になりすぎてしまったからね」 それそこ本物の城サイズを作ってしまい、やりすぎだと叱られたことがある。 「・・・限度考えないからだよ。砂は乾くと脆いんだし」 「え〜っと・・・結果を考えなかったのは事実かな」 崩れたときは大変なモノだった。 海辺に残されたのはただの砂山のみ。 形がなくなった途端に飽きられてしまうのは仕方のないことだ。 ぼんやりと腰ぐらいの高さの砂の城が完成する過程を眺める。 城が完成したところで一端昼食となり、午後からもそのまま海辺で過ごす事になった。 「ののろま〜〜〜」 「待ってよぅ・・・・・・」 駆け回る子供たち相手に、鬼の役であるは息を切らせながらその役目を まっとうすべく追いかける。 ペチンッ!─── 「のろま〜〜〜。鬼さん、こっちだよ〜〜〜」 男の子がひとり、のお尻を叩いて駆け去った。 プチッ─── 少し離れた場所でジェイドから音がする。 「ちょっ・・・ジェイド!」 ロウキが気づいた時には、すべての子供を捕まえ終えて鬼役を交替させ、を 抱えたジェイドがパラソルへと戻っきていた。 「ジェイドさん?あの・・・・・・」 「少し休まないといけないよ?」 日陰に入ると、いかに今まで暑かったかがわかる。 「そうかも〜。ずっと追いかけていて・・・喉がカラカラ・・・・・・」 差し出された飲み物を飲むの背にあるものを見つけたロウキ。 「・・・ジェイド」 ジェイドの耳を引っ張り、に気づかれないよう耳打ちする。 「・・・うっかりしてたな。髪を下ろしているから大丈夫かな?」 「少しは考えて行動するんだな。今度は私が行ってこよう」 子供たちの世話については、気づいた大人がするのがこの村の掟だ。 年長者が威張るという習慣はない。 ロウキがにかわり、今は海にいる子供たちと遊び始めた。 飲み物を飲んで落ち着いたのか、がジェイドの膝へと横になる。 「ジェイドさん。今日は静かですね?」 本日は保護者のつもりで海へ来たので、に言われ、いかに自分が動かないで いたのか実感する。 「そうかもしれない。今日は・・・・・・」 静かな海辺でとという思いもあったのだが、よくよく考えれば無理な話。 「・・・あははははっ。本当にといると意外な事ばかりで驚かされる」 当たり前に知っていたはずのことまで忘れてしまう。 自分に都合のよい思考に囚われてしまうのだ。 「えっ?それって私が何かし・・・・・・」 「違う、違う。と二人きりで海と思っていたんだけど。それって無理なのにね?」 柔らかなの髪を梳き、ここぞとばかりに抱き寄せた。 「夜に・・・お散歩したら静かだし、二人きりかもしれないですよ」 「ん。そうしよう。昼間は・・・・・・元気いっぱいに遊ぶのがいいね。俺たちも海へ行こう」 立ち上がると、を片腕へ抱え上げ走り出す。 「きゃん!」 ジェイドの頭にしがみ付いた姿勢のままで、子供たちが泳いでいる海へと入った。 「ゆらゆら〜ってしますね」 足裏に砂の動きを感じる。 ジェイドにつかまっているので、水が腰まで届いているが怖くはない。 「そうだね。波が砂を運ぶんだよ」 太陽を見上げれば傾き始めはしたが気温は最高潮。 「。家へ帰ろう?いつもはこんなに長く海にいないだろう?」 心なしか体温が高く感じるのだ。 「えっと・・・・・・」 確かにいつもは朝から海にはいはしない。 「涼しいところでお昼寝はどうかな。起きたら冷たいスイーツを作ろう?」 日差しが強すぎたのだろうか、やや赤くなってしまったの肌。 どこか痛そうに見えてしまう。 (俺が・・・誘ったから・・・・・・) 「ジェイドさん!もう少しだけ海にいませんか?子供たちも、もう少しだけ遊びたそう」 朝から遊びまくって疲れているのに、悪あがきとでも言うのだろう。 海辺に座り込んで波がいきつもどりつするのを楽しんでいる子供たち。 「そうしようか。たまには・・・いいかもしれない。だけど、このままだからね」 このままとは─── 「むっ、無理です。そんな〜〜〜」 ジェイドの肩へ乗せられたまま。 そのような状態を子供たちが見逃すわけもなく─── 「待て〜〜〜!」 追い掛け回される羽目になった。 早起きをし、そのまま一日中遊んで疲れた。 夕方から少し遅い昼寝となったが、昼寝の割には夜になっても目覚める気配がない。 「夜の散歩はお預けだね?」 予定が狂っても少しも残念ではない。 「どんな夢を見ているのかな・・・・・・」 の隣へ滑り込むと、幸せそうな様子にジェイドの顔も綻ぶ。 「明日は・・・何をしようか?」 返事はないが、それでいい。 そのまま翌朝まで休息の時を得た。 「おはよう、」 いつも通り起床したジェイド。 本日のはといえば、こちらもいつも通りに寝坊中。 「。起きないと・・・・・・そうだなぁ。何がいいかな」 ついついの寝顔を見ていると甘くなってしまう。 ベッドの端へ腰かけて、その寝顔を見つめる。 すると、まだ朝も早い時間なのに、森に近い二人の家へ近づく何かの気配を感じた。 「誰だろう・・・・・・この気配は・・・・・・おや?」 懐かしいオーブハンターの仲間たちの気配だ。 嬉しいことだが、何か事件があったのではと訝しむ。 「とにかく・・・こんなに早い時間なんだから、急ぎの用事だろうな。・・・!」 肩に触れて揺り起こす。 もう少し眠らせてあげたかったが、来客を知っていて起こさないのは後で拗ねられてしまう。 「んぅ・・・・・・あさ・・・・・・」 日差しに起きるべき時間とわかる。 「あさっ?!ジェイドさん。私・・・・・・」 昨日から眠り続けていたのだと思い出し、飛び起きる。 「・・・あはは!勢いがいいね。そう、朝だよ。ニクスたちの気配があるんだ。家に向かって きているんだと思う。あと二十分で到着かな」 「大変!私ったら・・・すぐに支度しますね」 慌てて着替えだす。 ジェイドがその場にいる事を失念するほど慌てている。 「そっちの淡いラベンダー色の方がいいかな」 「そうですか?じゃあ・・・ジェイドさんっ!」 恥ずかしがりのの着替えは出来るだけ見ないように、朝はキッチンへ行くように していたジェイド。 寝室をでるタイミングを外してしまったのでその場にいたのだが、が白い服を 手にしていたのでつい意見してしまった。 ぐいぐいと背中を押されて寝室から押し出されてしまった。 そのドアの向こうから声がする。 「ちゃんとラベンダーの方を着ますから!ほんとに」 ラベンダー色のスリップタイプのワンピース。 ジェイドが見立てた服である。 「うん。嬉しいよ?今朝はパンケーキにバニラアイスをのせるからね」 「はい!すぐっ。すぐに着替えます」 声が篭って聞えるのが着替えている証拠だ。 忍び笑いをもらしながらキッチンへ向かうと手早くパンケーキを多目に用意する。 程よいところで火を止めて玄関へ向かうと、今まさにベルが鳴らされる寸前だった。 「おはよう。よく来てくれたね?」 「・・・相変わらず耳がいいな。おはよう。は起きてるか?」 いつも寝坊のレインには言われたくないであろうとは誰もが言わない。 「起きてるよ。それに、これから朝食のパンケーキを食べるところ。皆もどうぞ」 仲間たちを招き入れると、ちょうど着替え終えたがやって来る。 「おはようございます!あの・・・今から朝ご飯なんですけど・・・・・・」 暗にまだ食べていないことを伝えたいのだろう。 その気持ちを汲み取ったニクスが頷く。 「そうですね。ジェイドの美味しいパンケーキをいただけると私としても助かります」 「もちろん!すぐに用意するから。」 キッチンへ向かうジェイドに対し、食卓へ仲間を案内するのはの役目になる。 「みなさん、こちらへ。今、私がお茶を用意してきますから座って待っていて下さい」 仲間が来ることを知っていたのに、寝坊をしてしまって恥ずかしいのか俯きがちだ。 「おい。今しか時間がねぇだろ」 さっさと椅子に座ったレインが手招きをする。 「・・・いいのか?早くしないと一番じゃなくなるぜ?」 「だって・・・そのぅ・・・あのね?」 じれったい事このうえない。 「あっそ。だったらオレが先に言っ・・・・・・」 「だっ、ダメッ!それは・・・・・・」 慌ててレインの口を手のひらで塞いだところへジェイドが戻ってきた。 「・・・・・・何をしているのかな?」 顔は笑っている。 が、目が怖い。そして・・・薄っすらと怒りで頬が引きつっている。 メンテナンスをしていて思うのは、とにかくジェイドの表情が増えたということだ。 とても機械とは思えない。 そして、それを引き出す存在─── 「あのなぁ。ヤキモチなんざ焼く暇あるなら、それをここへ置いてに聞け」 テーブルの上を指で叩き、さっさと食わせろという仕種をする。 取りあえずは手にあるパンケーキの皿をレインの前に置き、ジェイドはと 向き合った。 「さ!話してくれる?」 「あの・・・お誕生日おめでとうございます!!!」 真っ赤になってが叫んだ。 「ああ、そうか。今日は八月一日だね。長老が決めてくれた俺の誕生日か・・・・・・」 カレンダーを見るまでもなく、日付は脳が覚えている。 「そっ、それで。あの・・・お祝いをしたくって・・・・・・」 「俺の?今以上の幸せを望むなんて・・・・・・」 互いに照れいてる二人を無視して、仲間たちは勝手に食事を始めていた。 「それで?はこれ以上俺を喜ばせたいんだ?」 「え?まだお祝いしてな・・・・・・」 森の小道を歩きながら、またも二人だけの世界な会話が繰り広げられている。 それについてはサックリ無視をして、二人の後を歩く三人の男たち。 急に辺りが開け、小さな菜園がその姿を現した。 「これ・・・・・・」 「まだ夏野菜しかないの。だけど・・・秋になったらニンジンもできるから。その・・・ ジェイドさんの大好きなキャロットケーキ、お誕生日には間に合わなくて。でも・・・・・・」 は手作りのニンジンでジェイドを祝いたいと思ってくれたらしい。 「ひとりでここを?」 の手を取った。 「教えてもらいながらしたから・・・ひとりだけど、ひとりじゃなくて。あれれ?」 森の中の小さな菜園。 がジェイドに内緒でしたかった事は、ジェイドを喜ばせる事。 「お〜い。そこで話を止めるな。この野菜でカレーパーティーなんだろう?」 レインたちがついてきたのは二人の邪魔をするためではない。 収穫の手伝いと、浜辺でパーティーをする準備のためだ。 「この野菜で・・・・・・が作った野菜で?」 ジェイドがを見つめると、頷いている。 「私がカレーを作るんですよ?ただ・・・こんなにたくさんの人数分は作ったことがないから。 ちょっとだけドキドキなんです。トマトがぴかぴかに出来たのが自慢なんですよ」 がトマトをもぎり、ジェイドへ差し出す。 「本当にぴかぴかだ」 太陽にかざすと、よりいっそう輝く。 「これでシャーベットを作ってみようか?」 「ジェイドさんが?」 ジェイドが作るスイーツはどれも極上品だが、主役につくらせていいものだろうかと の首が傾く。 「いいのではないか?が料理をしている間はジェイドとて退屈だろう。 二人で料理を作ればいい」 ヒュウガがあっさりと言い切る。 「そう・・・ですね。私たちはしなくてはならない事もありますし。お二人に食事は おまかせいたしましょう」 ニクスはピーマンを収穫すると決めたらしい。 篭をひとつ手に取ると手早くもぎとり始める。 「まあ・・・野菜メインで何でも作ればいいよな。さ〜て。さっさと収穫しちまおうぜ」 こうして料理の材料を収穫し、ジェイドとが仲良くキッチンに 立っている間に、外では何かが準備されていた。 料理の準備が整い海辺へ行くと、そこには大きなパラソルの下、食事をしやすいよう テーブルと椅子がある。 「・・・あれ?誰もいないんですね」 いつもいる子供たちの姿が見えない。 とジェイドは知らないだろうが、今日はニクスの計らいで遠足へ行ったのだ。 警護はヒュウガに頼まれた銀樹騎士が担当してくれることになっている。 遠足で何かあるなどあってはならない。 コズの村ではジェイドが幸せになるならばと誰もが協力的だ。 そして、その妻になってくれたへの評価は、ジェイドに対するそれを上回る。 だからこその願いが叶うよう手を貸してくれている。 それはジェイドの願いにも繋がるから─── 「・・・カレーが冷めないうちに食べようか」 子供たちがいないのは気になるが、なんといってもここはコズ。 誘拐などありえないし、大人たちは誰もが子供たちを大切にしている村。 あっさり現実を受け入れたジェイドは、食事の支度を始めた。 「いただきま〜す」 の掛け声で昼食を兼ねたパーティーが始まる。 「ジェイドの料理、久しぶりだよな〜〜〜」 好物のカレーに舌鼓をうつレイン。 ヒュウガは黙って黙々と食べているが、その行動こそが料理の美味さを教えてくれる。 「困ったな〜。何だか幸せがたくさんで驚いてしまうよ」 仲間たちがいて、隣にはがいる。 そして、故郷と呼ぶべき場所での生活がある。 「幸福は人それぞれですからね。・・・ただ、感謝の心は美しいものだと思いますよ」 ニクスがジェイドの心の負担を軽くする。 「それにな・・・メシ食ったらいつものしてくしな。長老に話はつけてある」 レインが食べながらジェイドにメンテナンスについての確認をする。 「ありがとう。いつも・・・本当に・・・・・・」 「いや、ありがとうはこっち。夏はカレーなんだよ」 レインが空になった皿を突き出すと、 「・・・いつもながらレインの行動と言動は意味味不明だな」 ヒュウガの皿も空になっており、差し出された。 「皆さん、育ち盛りなんですねっ!」 これ以上育つと、今でさえ規格外の身長の者ばかり。 久しぶりのの天然系も加わり、和やかなランチタイムとなっていた。 長老の家でメンテナンスをしてもらうのは初めてではない。 寧ろに見られたくなくてこちらでしてもらっていた。 が、本日に限ってはレイン以外の者が部屋に居た。 「えっと・・・・・・」 「ああ。いいから寝ろ。いくつか質問にも答えてもらう」 ジェイドをうつ伏せに寝かせると、いつもの様に背中から調べ始めるレイン。 「お前さ・・・まだ変なの続いてるのか?」 「そうだね。前に話しただろう?記憶が変だって。俺の体内時計はちっとも狂いはないのに。 の寝息を聞いていると、時々足りない記憶があるんだって」 記憶が足りないとはなんともジェイドらしい物言いだが、要は眠っている状態があるという事だ。 (機械は眠らないんだぜ?ジェイド───) 意識的に機能を停止させるのと、“眠る”という行為は違う。 レインが気になっていた事は、がニクスに相談したことで確信へと変わった。 「まあ・・・その記憶の事なんだが。経験がない事も記憶されているんだよな?」 「そう・・・なんだ。それとも、あれは遠い過去の・・・・・・いや。がいるんだから、 そんなハズはないと思うんだ。だけど、最近はわかっているハズの事を忘れてしまう事も多いんだ。 俺は・・・壊れかかっているのかな」 ジェイドが真剣ならば真剣なほど可笑しい。 レインは自分の想像が当たっていると確信する。 (機械は悩みもないし、夢も見ない。わかんないかな〜〜〜) とはいえ、体は確かに機械でもあるのだ。 「ジェイド。今日は全部脱いでもらうぜ?」 「・・・脱ぐって服をかい?」 身包みをはがされたジェイドは、もう一人の人物、医者に診察され始めた。 一方のも、自宅にて診察されていた。 こちらはニクスの手配で女医である上に、今後もこちらまで通ってくれることになっている。 「あまり無理しない方がいいですね。ご自分で診察されていた通りの結果ですよ」 「ありがとう・・・ございました」 知識はある。実際に自らが経験したことがないだけだ。 「・・・どうか・・・しましたか?」 浮かない顔のが心配で声をかけると、ドアを叩く音がする。 「診察がお済でしたらこちらでお茶はどうですか?本日はアールグレイでアイスティーにしてみたのですが」 タイミングを計っていたようなニクスに救われる。 「そ、そうですね。お茶にしましょう」 祈るように手を合わせていたが素早く立ち上がり、診察を受けていた部屋を出た。 「私はこれでお暇させていただきますわ。ご本人もしっかりされていますし」 「それは・・・お気遣い感謝しますよ、マダム。ただ、私は残念ながら女性ではないので、こちらに もう少しいていただける方が助かるのですが。せめて彼女の夫の結果がわかるまで」 ニクスの引止めに女医が頷く。 「・・・事情はわかりませんが、今日は他に予定もございませんし。お茶を頂くことにいたしますわ」 「ありがとうございます。こちらへ」 ニクスに案内され、リビングへと集結した。 「アメイジング!」 医者の診たてにレインが声を上げる。 「・・・まさか・・・俺が?」 ジェイドも信じられないのだろう。 かつて戦いが終わり、しばらく陽だまり邸で過ごしていた時にニクスに相談したことがある。 『俺、変なんだ。に・・・触れたい。他の人と仲良くしているのを見るとココが痛くなる』 誰もが仲良くと思っていたし、その気持ちに偽りはない。 それなのに、そう望まない己に気づいた。 長く時を過ごした経験のあるニクスを、コズの長老と同じくらい頼りにして相談をした。 『おや、おや。それは“人”ならば普通の事ですよ。ココについては貴方次第ですが』 ニクスに抑えていた胸の辺りを指差される。 『それに、はとても素直ですからね。貴方より積極的に貴方と触れ合おうとしている。 手を繋ぎたがるし、貴方の隣にいたがるでしょう?互いに触れ合いたいと思っている距離さえ 間違わなければいいのですよ』 『距離?』 『後は宿題です。コズで二人で暮らしながらお考えなさい』 「ええ。レインに言われて来てみましたが・・・普通に男性です」 レインの友人であるその医師は、肩を竦めながら同じ言葉を繰り返す。 「ジェイド!早く帰ってやれ。オレは長老に・・・って、いねぇし」 振り替える間も無くジェイドの姿はなく、レインは心配していたであろう長老の部屋へと向かい 報告をしてからジェイドの家へ向かった。 「!!!」 「ジェイド・・・さん?」 飛び込んできたジェイドに驚きながらも、結果が知りたい。 聞くまでもなくぎゅうぎゅうに抱きしめられ、ジェイドが喜びを全身で表現する。 「どうしよう!俺が来年にはお父さんなんだって。俺、機械なのに機械じゃないって!」 を抱きしめたままでぐるぐるとその場で回っている。 さすがにヒュウガがその動きを止めさせた。 「ジェイド。気持ちはわかるがが・・・・・・」 目を回して首がふらふらだ。 「ああっ!」 「ジェイド。そのまま静かに・・・そう。貴方が父親になるというのなら、彼女は大切な体なのですから」 ニクスが止まったジェイドに静かにを下ろさせる。 「だ・・・大丈夫で・・・す。その・・・私も・・・嬉しいから」 体調の変化に気づいてはいた。 まさかと思うのが半分、願いが届いたという思いも半分。 ニクスに相談したのは、ニクスならばすべてを秘密にしてくれると思ったからだ。 どこか先生の様な風格をもつニクスには相談がしやすいというのもあった。 「・・・・・・」 「私たちの赤ちゃん・・・・・・」 喜び合う二人を残して、仲間たちは去る。 今夜は長老の家に泊まることに決まっているからだ。 星が空へ顔を出す頃、花火を打ち上げ始めた。 「・・・しっかし。今でも信じられないぜ」 「そうでしょうか?女王陛下の望みが叶わないのならば・・・この世界は救われはしなかったでしょう」 「それもそうか」 レインが次の花火の準備をする。 「二人の・・・だろう。ジェイドも願っていたはずだ」 「そうですね。二人の願いだからこそ・・・叶ったのでしょう」 銀の大樹が涼やかな風をコズへ届ける。 夏にしては過ごしやすい夜、窓から海の方角を見れば光の花が輝いている。 「花火か・・・あんなのもあるんだね」 「ヒュウガさんの知っている種類なんです。空に光でお絵かきしたみたいですよね」 合図のためではない花火。 様々な色が浮かんでは消えゆく。 夜の散歩は後日にし、庭で寄り添い合いながら花火を眺める。 「レインが俺より先に喜んでくれて・・・・・・」 「私も・・・その・・・どういっていいのかわからないでいたら、ニクスさんが。私の願いが叶わない ハズがないって。私が・・・私はぜんぜん何にもしてないけれど、私が救った世界だからって」 途中にニクスのセリフ以外の言葉が入るのが、いかにもらしい謙遜だ。 「・・・そうか。そうだよね」 「幸せ・・・です」 「うん」 星に負けない光に彩られた夜空。 誕生日にはとびきりの贈り物。 「いつものお呪いしよう」 「はい!」 幸せ、幸せ、幸せ─── そう思えるなら、いつでも最強。 |
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![]() ベタベタに甘い作品を書きたかっただけっす!誕生日だから(笑) |
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