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Happy Birthday To・・・ ≪2008Ver.≫ |
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「おはよう、。もう少しだけ・・・眠っていて大丈夫だからね?」 朝の挨拶をするジェイド。 それはを目覚めさせないようにした挨拶。 耳元での囁き声で起きる人は少ないだろう。 「今日は特別な日だから、俺が起こしにくるまで・・・・・・」 優しく髪を梳きながら額へそっと口づける。 離れ難いが、今日は一年に一度の特別な日。 出来るだけ振動を伝えないようベッドから上手く抜け出すと、の指先に 恭しくキスをする。 「誕生日、おめでとう。俺が一番最初だよ」 ジェイドに髪を撫でられると魔法にかかったようにの眠りは深くなる。 ジェイドにとって、それがとても嬉しいのだ。 「朝だけしか君を独占できないからね」 手早く朝食の支度を整えつつ、かねてより準備しておいた今日のための服を、未だ眠る の枕元へ整える。 アルカディアにも四季があり、今はいわゆる雨期にあたる。 静かな雨音が続く日々。 ところが、今日だけは朝から雨が止んでいる。 窓から差し込む日差しが今日の天気を教えてくれていた。 「・・・あはは。願いは叶ったみたいだ」 窓枠につるされている、てるてる坊主をつつくジェイド。 が晴天を望んだのならば、このようなものが無くとも叶うのである。 ところが、肝心の女王陛下が自覚をしていない。 遡ること数日前の昼、梅雨の雨がしと降る窓枠に件のモノがつるされた。 『ジェイドさん!これで大丈夫ですよ?私、一生懸命お祈りしましたから』 陽だまり邸の住人たちから招待状が届いた日、当日の天気を心配したがしたことだ。 『らしいな。叶うといいね』 『ジェイドさんも一緒にお祈りして下さい。二人なら二倍の効果です』 最後の戦いの後に思いを交わしたジェイドとは、コズで暮らしている。 時折仲間が尋ねてきたり、二人が訪問したりと行き来があるが、招待状は特別感があり、 普段とは違う気持ちにさせられる。 『どうしましょう。パーティー・・・なんですよね?』 『心配ないよ。俺に贈り物をさせてくれるかい?君に似合う服を』 ショーウィンドウで見た時から心に決めていた。 いつか贈りたいという気持ちはあったが、意外なことにが頑固で贈るのが難しい。 普段のデザートなどはすぐに笑顔を見せてくれるのだが、それが購入したモノとなると話しは別。 見かけに寄らず、しっかり家計を管理している。 『贅沢はしちゃ駄目なんです』 『大丈夫。もう少し俺が仕事を増やしても・・・・・・』 『ジェイドさんとの時間が減るのはもっと嫌なんです』 ジェイドの勤務時間は決まったものではなかった。 出張料理人の様な仕事をしているので、招かれればいつでもどこへでもだ。 が、評判が良過ぎてスケジュールに空きが無くなっていた時、それを長老によって制された。 『何が大切か、今一度考えるんじゃな』 人々が喜ぶ顔を見るのが好きだ。 だからこそ旅をしていた時期もある。 旅はいい。多くの人々との出会い、それに経験と知識が増える。 や仲間たちとも出会えた。 ただ、今は、ひとところに留まりたい理由がある。 長老に過密スケジュールについて諌められた日、ふと思い立ち静かに家に帰ると、が 頬杖をついて溜息を零していた。 『一番大切な人にあんな顔をさせていたのか・・・・・・』 以来、週に二日は休みと決めている。 遠方に出張の後は、続けて仕事を入れないようにもした。 に満面の笑みが戻ったのもそれからだ。 振り返ると、もうすぐ目覚めそうな気配を感じる。 一気にカーテンを引き、を起こした。 「おはよう、。朝食にしよう?」 睫毛が震えるのを眺めていると、ジェイドの姿がの瞳に映る。 「おはようございます・・・・・・」 「うん。おはよう、。さ!早く朝ご飯を食べよう。ニクスからの迎えの馬車が来てしまう」 を抱き起こすが、完全に目覚めていないのか、すっかり身体をジェイドに預けている。 「お寝坊さん。今日は特別だよ?このまま行こう」 パジャマのまま抱きかかえると、目覚めたが暴れだす。 「・・・のっ!そのっ!自分で出来ます!歩けるし・・・そのぅ・・・・・・」 「いいよ。今日は特別。が生まれた日だからね。それに、俺のプレゼントはドレスなんだ」 ジェイドの視線を追えば、枕元に箱がある。 「あっ!でも・・・・・・」 いくらなんでもパジャマでは困る。 「じゃあ、こうしよう。俺がお茶を用意している間に部屋着に着替えて食卓までおいで?」 「はい!すぐに顔を洗って・・・えっと・・・髪も梳かして・・・だから、十分で!」 「よし。じゃあ降ろしてあげる。今から十分だよ」 ジェイドは時間に正確だ。 返事と同時に身を翻したは、洗面所へと駆け込んでいた。 「慌てさせてしまったかな。まだ予定通りなんだけれどね」 今日のスケジュールは本人がどう考えているかはわからないが、すべて決まっている。 いつもより少し遅めの朝食の後、外出の支度をしていると迎えの馬車が来た。 「ジェイドさん。これ・・・・・・」 回るとふわりと裾が広がるスリップの様なワンピースドレス。 少しだけフォーマルなそれは、を戸惑わせるには十分なデザイン。 アシンメトリーにカットされた裾と柔らかな生地が特徴といえば特徴であり、他は何もない。 ジェイドによってシフォンのリボンが緩やかにウエスト辺りで結ばれた。 「せ、背中が・・・・・・」 「うん。ボレロがあるし・・・想像以上に似合ってるよ」 ジェイドがボレロを手に取り、が腕を通しやすいよう待ち受ける。 確かにボレロを着れば、生地に透け感があろうとも背中が隠せる。 促がされるまま右腕から袖を通した。 「さあ。出かけようか。皆が待っているよ」 「はい!・・・ジェイドさん」 差し出された手に手を重ねる。 が、ジェイドを見上げる視線は何か問いたげだ。 「何か気になる?」 「ありがとうございました。あんまり素敵なドレスで、お礼を言いそびれてしまって」 普段とは違う、少し大人の女性を感じさせるデザイン。 今の自分に似合っているのだろうか。 「ああ。気にしないで。素敵なのはドレスよりも君の方だよ?」 未だにジェイドの処構わずの甘いセリフに鼓動が倍になってしまう。 「あぅ・・・のっ・・・と・・・・・・」 真っ赤になり言葉が出なくなっているを素早く抱き上げ、すまし顔でジェイドは 迎えの馬車へと乗り込んだ。 「ようこそ!陽だまり邸へ。皆さん!本日の主役のご到着ですよ」 主が自ら玄関口で出迎える。 普段のニクスならば有り得ないが、唯一有り得る場合がある。 「ニクスさん!こんにちは。お招きいただき、ありがとうございます」 小走りにがニクスの前に立ち頭を下げた。 「ああ、駄目ですよマドモアゼル。本日の主役は貴女だといったでしょう?エスコートをさせて いただけますね?」 の了承ではなく、ジェイドの了承を得るべくニクスが尋ねる。 「もちろん。俺は朝一番にお祝いの言葉を言えたからね」 ジェイドはの髪をひとふさ手に取ると、素早く口づけ、かつて知ったる何とやらで キッチンへと向かった。 「さ!旦那様にお許しをいただきましたよ。皆様がお待ちかねの客間へ向かいましょう」 「はい」 照れくさくもあるが、ニクスのエスコートは完璧だ。 必要以上に触れることなく、それでいて無愛想な距離ではない心地よさ。 「今日のドレスはジェイドから?」 「そ、そうなんです・・・・・・あの・・・・・・」 いらぬ心配をしているらしいが可愛らしく、 「とてもよくお似合いですよ。さすが旦那様のお見立てですね。それ以上に似合うドレスを探すのは この場にいる誰にも出来ないことでしょう。さあ、ドアを開けますよ」 褒め称えると軽くドアを叩き合図を送る。 エスコートの手を離さないニクスが扉を開けるわけもなく、中から扉が開かれた。 一斉に花弁が飛び交い、クラッカーが鳴らされ、次にが瞳を開いた時に映ったものは、 巨大なケーキだった。 「あの・・・・・・」 動けないでいるの手を引いて、そのケーキの前へと案内をしたのはレイン。 「ほ〜ら。やっぱりこれぐらい大きくないと、コイツは喜ばないって。な?」 ナイフを手に待ち構えているヒュウガの身長と同じ高さのケーキ。 いくらテーブルの上といっても、大きいで済まされるサイズではない。 「!お誕生日、おめでとう。ほら、慌しくてこちらで結婚式が出来なかったから。理事長に お願いしたの。今頃ジェイドさんも慌ててるわよ?」 サリーとハンナがへベールを被せ、ブーケを持たせると、たった今が 入ってきた扉の方を指差した。 「・・・ニクス。メインの料理の仕上げを俺にって話しだったよね?」 フォーマルな服に着替えさせられたジェイドが呆れたように溜息をつきながらニクスの肩へと手を置く。 「いえ、いえ。料理の仕上げも・・・とお願いしたのですよ?他を尋ねなかったのはジェイドの確認不足 としか・・・・・・」 口元に手をあて、肩を揺らして笑っているニクス。 確信犯に敵う訳がない。 諦めたジェイドはさっさとの隣へと移動した。 「偶然だけれど、白にしてよかったな。花嫁さんみたいだ」 「ば〜か。みたいじゃなくてそうなんだ。ほら、ヒュウガも」 レインがヒュウガを促がすと、ジェイドとの前にナイフを差し出す。 「ケーキカットを。本日の主役から幸福のおすそ分けを頂くことから始めると決まっている」 「いきなりかい?まあ・・・そうだね。こんなに美味しそうなケーキじゃ、も最初に食べたい だろうし。ね?」 隣の人物を見れば、涙ぐんでいるもののしっかり頷いている。 「」 ジェイドがナイフを手に取ると、の手が添えられる。 「君が生まれた日と皆の気持ちに感謝を。それと・・・幸せのおすそ分け」 切り口鮮やかなケーキを、食べやすいサイズに切り分け始めるジェイド。 がケーキの皿を手渡し、仲間たちに配るといった共同作業。 何も言わずに分担を決めた二人の遣り取りこそが微笑ましく、ニクスも紅茶を配りだす。 「さあ、一番大きいピースは二人で食べようね?」 飾りのついた一番大きなケーキを最後に皿へと乗せる。 「うふふ。可愛い・・・これ、ジェイドさんでしょう?」 ケーキの天辺にあったを模った砂糖菓子。 「そうなんだ。ニクスに頼まれて、誕生祝にと聞いていたのに。俺まであるんだから」 ニクスから料理の手伝いを頼まれた時点で、もう罠に嵌められていたのだろう。 ジェイドを模った砂糖菓子まである。 「とっても似てます」 食べるのが惜しまれるのか、はそっと皿の端へと二つの砂糖菓子を除けた。 「また作ってあげる。だから、これはこうして・・・食べようか?」 ジェイドが摘まんでの口元へと差し出したのはジェイド菓子。 真っ赤になっているの手をとり、その手に菓子を持たせると、 「俺がを食べるって、意味深だね」 構わず先に食べてしまう。 会場からは僅かに黄色い悲鳴が上がった。 どんなに二人を直視しないようにしていても、声までは消せはしない。 の親友たちは、二人の睦まじさに照れつつも様子を窺っている。 「さ、も」 意を決したのか、大きく頷くと一口でジェイドを食べた。 「・・・大丈夫かい?」 アイスティーのグラスを給仕から受け取り、そのままへと差し出す。 「・・・だって、齧ったら可哀相な気がして・・・・・・」 ジェイドの前でジェイドを二分するのは躊躇われたのだ。 せき込みながらも食べ終え、アイスティーで喉を潤した。 「は優しいね。それでは、最初のダンスを申し込ませてもらおうかな」 立ち上がって礼を取れば、もそれに応える。 二人が広間のセンターへ進み出たのを合図に曲が変わり、パートナーを連れたカップルが 続々と集まる。 「舞踏会みたい・・・・・・」 いつかニクスに連れられた舞踏会は、あまりに煌びやかで気後れしたものだ。 「そうだね。いつか・・・のドレス姿が見たいと思っていたんだっけ」 ニクスからの事後報告でタナトスがオペラホールに出現した事に話題が集中してしまい、 誰もが再び言い出すことを戸惑って過ぎでしまった一件。 「あの時はただドキドキして、必死にニクスさんのリードにあわせていたから。すぐに タナトスが現れて、ドレスを着ていたのを忘れてしまって・・・汚してしまったの」 「あはは。ニクスはそんなの気にしてはいなかったと思うけど。自慢げに話していただろう? エスコートできて嬉しかったって。君が無事なら何でもいいんだよ、俺たちは」 曲調が変わり、かわれとばかりにベルナールが割り込んでくる。 「今度は僕と踊って欲しいな。安心していいよ、今日は取材はナシだから」 「やだ、兄さんたら」 ジェイドからの手を引き継ぎ、そのままホールでダンスを続ける。 ジェイドは首謀者を探して、談笑している人物目掛けて踊る人々の間をすり抜けた。 「ニクス」 「やあ、花婿さん自らお出でですか。皆様、少し失礼いたしますよ」 談笑の輪から少しだけ離れる二人。 「悪い冗談だよ?しかも・・・・・・」 「おや、聞えてしまいましたか。もうすぐコズからのお客様方もお見えです」 時間をずらしたのには理由がある。 耳がいいジェイドに気づかれてしまうからだ。 「参った。でも・・・ありがとう。コズで皆に祝ってもらったけれど。女の子が夢見るのとは 少し違うかなと考えていたんだ」 「そんな事は・・・ただ、私たちがしたかった。それだけです」 シャンパングラスを触れ合わせると、ガラス同士がぶつかる特有の澄んだ音が響いた。 「が楽しそうでよかった・・・・・・」 レイン、ヒュウガ、招待された銀樹騎士の面々と、次々にの周囲に人垣が出来る。 ベルナールの次にと踊りたい、そのためにはと我先に近づいた結果。 少々暑苦しそうに見えなくも無い。 「ええ。・・・そろそろ曲が終りますね。私もダンスを申込みにいかないといけません。 失礼させていただきますよ」 ダンスを終えたベルナールと交替にニクスが緩やかにホールへと進み出る。 さすがに邸の主を押しのけてまでダンスを申し込む事は出来ず、自然と順番が決まった。 「悪い人だなぁ、ニクス氏は。後からフロアーに来て順番に割り込んでしまって。ね?」 と踊れて満足気なベルナールがジェイドの元へと歩み寄る。 「それがニクスだからね。花婿なんて言われても、この通り」 ファーストダンスの権利こそ行使できたが、後はを見守るだけ。 両手が開いているとばかりに手をあげて見せた。 「違いない!そろそろコズからの客人たちも到着の予定だよ。いつもを大切にしてくれている 家族が揃わなきゃ意味がない。・・・君に独占させないからね?」 ベルナールに冷やかされ、珍しくジェイドが照れる。 「確かに今朝考えたんだ。今日ばかりは俺が独占してはいけないなって。だけど・・・・・・」 他の誰と踊ろうが、時折ジェイドへ視線を向けてくる。 軽く手を上げればすぐに微笑が返ってくる二人の関係。 「・・・惚気?」 「かな?」 しばしの間の後、笑い声が響きだす。 「が嬉しいと僕たちも嬉しいんだ。いいもんだね、誕生日」 「誰の誕生日でもとは思うけれど。やっぱりは特別だね。ニクスはダンスに忙しいだろうから 俺が長老たちを出迎えようかな」 「それは・・・長老が驚くから僕も行こう。ジェイドとに内緒にしたいからと招待状に書いて お願いしたのに、ジェイドが迎えては何が何だか」 誕生日の主役に誰もが夢中で、後からの客人の事など忘れられつつある。 料理が次々と運ばれてきているのが、唯一来客予定を示すばかり。 「それはそれでサプライズさ!俺を出し抜こうなんて。ささやかな意趣返しだよ」 「まったく。困ったご子息だ」 長老はジェイドが可愛くて仕方なく、だからこそニクスの洒落に手を貸してくれたのだろう。 それが逆に驚かされてはあまりにも気の毒だと、ベルナールがジェイドの後に続く。 すると、フロアーにざわめきが起きた。 「?」 が小走りにジェイドの元へとやって来る。 すぐ後ろには不満顔のレイン。 ヒュウガはフロアーの交通整理とばかりに、かつての仲間たちに協力を仰ぐ。 銀樹騎士たちが女性客を誘い、ダンスが始まれば、間も無くもとの空気に戻っていた。 「あの・・・その・・・・・・どこへ行くのかなって」 ジェイドの袖を掴む。 目を瞬かせるのはベルナールとレイン。 すぐに二人が笑い出した。 「あはは。は可愛いなぁ。心配いらないよ。ね?レイン博士」 ベルナールがレインの肩へと手を置くと、 「博士って呼ぶなよ。・・・・・・そうだ。ジェイドの悪戯に手を貸してやるか。! ジェイドと二人で玄関にいればわかるぜ」 ドアへ手をかけ、ジェイドとの背を押した。 「・・・・たった今、何か言ってなかったかい?ベルナールは」 すぐにレインにあわせ、くるりと背を向けた人物を呼び止める。 「そうだったかな?残念だけれど、生憎とメモを取り忘れてしまったようだ。・・・。 誕生日おめでとう。今から長老たちも来るんだよ。玄関で迎えてあげてはどうかな?」 ついつい癖での頭を撫でそうになった手を、上手く誤魔化してポケットへと隠す。 「わぁ!だからジェイドさんが・・・私も行きます」 「ああ、さっさと行け」 二人を追い出して扉を閉める。 「さってと。この場合、悪いのはニクスだよな?」 「どうかなぁ?僕も一枚噛んでしまったなぁ。は何も知らないんだから」 会場ではジェイドたちの遣り取りを見守っていたのだろう。 再び主役が戻ってくるのを待つような気配に変わる。 「・・・俺な気がしてきた。まんまと実行犯になっちまった」 「それじゃあ僕が共犯みたいだ」 レインとベルナールが向かうのは邸の主が客人たちを持成しいてるテーブルだ。 「まんまとアンタに乗せられちまったようだ」 グラスを手に取り掲げてみせると、ニクスが応じて軽く乾杯の音が響く。 「まあ叱られはしませんよ。・・・コズの皆さんは陽気で楽しい方ばかりですから。そう、そう。 ケーキがもうひとつ届きましてね。コズの皆様も交えてのケーキカットの準備があるんです。 お願いしても?」 大袈裟すぎるくらい大袈裟に溜息をついて見せるレイン。 「行こうぜ、ベルナール。全部ニクスの読み通りって事だそうだ。ケーキばかりというのは、どうかと 思うけどな」 「それはもちろん考えていますよ。そう・・・お菓子の家なんです。それに、野菜のテリーヌなどの軽食も 用意してありますから、ご心配なく」 いつもながらレインのあしらい方が上手い。 世間では博士と呼ばれ怖いものなし、天下無敵のようだが、ニクスの狡猾とさえいえる 人心掌握術には敵わないでいる。 そのバランスが心地よいからこそ、レインは陽だまり邸に留まっているのだろう。 「う〜ん。が喜びそうだ。昔、そんな童話を読み聞かせたっけなぁ」 ベルナールが回想している頃、玄関ホールではジェイドとが今か今かと客人を待ち受けている。 「来年はどんな誕生日がいいかな?」 「やだ、ジェイドさんたら。一年も先の話をしてます」 今日のパーティーは始まったばかり。 は頬を染めつつ、ジェイドに背中から抱きつく。 「・・・来年もこうして一緒」 「それは・・・いいね」 の表情が見られないのは残念だが、伝わる温もりがある。 「。やっぱり今日は特別な日だよ。俺にとっては、なくてはならない日。だって、の 誕生日がなかったら、出会えなかったんだから」 の手首を掴んで引くと、ダンスをするかのようにくるりとジェイドの腕の中へとその身が 飛び込んできた。 「幸せ、幸せ、幸せ・・・ずっと君といられますように」 他の誰にでもない。に願いを、想いを伝える。 「もう!おまじないは二人でしなきゃです。効果が二倍っていいましたよ?」 「そうだったね。ごめんよ?もう一度二人でしよう」 両手を繋いで大切な呪文を繰り返す。 幸せ、幸せ、幸せ─── そろそろ長老の悲鳴が聞える時間。 誕生日の始まりは驚きがいっぱい。 それもまた幸せ。 |
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![]() 遅筆は常の事で(汗)一ヶ月以内は早い方かも?!(笑) |
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