Happy Birthday to ・・・・・・ | |
「おはよう、」 声の主は真実起こすつもりがあるのかないのか。 残念ながらが起きるだけの音量には達していない。 「困ったなぁ。俺の計画だと、そろそろ朝食にしないと時間がなくなってしまうんだけれど・・・ね」 起こすつもり半分。 このまま寝顔を見ていたい気持ちも半分。 決心できないのはジェイドの中で声がするからだ。 『君と共に歩いていいといわれたあの日から・・・・・・君だけを見ていたいと思うんだ』 眠っているの額へそろりと手を伸ばす。 ジェイドが腰かけているためにベッドは片側が沈んでいるのだが、それすらも気にならないらしく眠り続けている。 どちらかというと伸ばされた手の感触に心地よさを覚えたのか笑みすら浮かぶ始末。 これにはジェイドも苦笑いをするしかない。 「残念だけど・・・せっかくの誕生日だから起こさないといけないね。!朝だよ。今日は何の日か覚えているかい?」 寝坊が日課のがようやく目蓋を擦りながらその瞳にジェイドを映した。 「早く起きないと・・・せっかくのパンケーキが食べられなくなるよ?今日は街へ行きたいし。さ!支度して」 抱き寄せると軽く髪に触れ、そのまま耳朶へ唇を落とす。 まだまだ寝ぼけているはジェイドにされるがままだ。 「君の誕生日なのに俺の方が嬉しい一日だね。ね?」 ついでとばかりに唇に触れてみると、焦点のあったの瞳がジェイドを捉え、見る見るその顔が朱に染まった。 「ジェイドさん!そういうのは・・・その・・・だから・・・・・・」 「うん。起こしているのに起きないが悪いと思うよ?さ!起きた、起きた。今からパンケーキを焼くから。十分で支度して」 を軽々と抱え上げ、ベッドから床へと着地させる。 そもそもジェイドがを起こすと決心して声をかけたのはつい先ほどだ。 決してがジェイドの目覚めの促がしを無視したわけではない。 それを知らないが慌てて本日の服装を考え始める。 「十分って・・・そんなぁ・・・・・・」 女性の身支度には時間がかかるものだ。 しかし、料理に拘りがあるジェイドは時間に正確。 出来たての一番美味しい時に食べてほしいという主義の持ち主。 「待ってるからね」 素早くの頬へ口づけるとキッチンへ向かうジェイド。 こうしての誕生日の一日が始まった。 「今からどこへ行くんですか?」 しっかり朝食を食べ終わり、と食後のティータイムを過ごしている。 ここはジェイドの故郷であるコズの村だ。 窓から海が見える家。二人で暮らし始め、もうすぐ一年になる。 自然は多いが、意外に日常のモノに不自由なのが難点。 行商人が村へ出入りしているので、まったく買えないわけではない。ただ、少ないモノの中から選ぶという限定付き。 は何も言わないが、時々街へ出かけると嬉しそうに雑貨屋に入って行く。 だから─── 「二人の出会いの場所に行かないかい?」 「ファリアン!あの海辺のカフェに行くの?」 途端にの瞳が輝きだす。 「そう。買い物もしたいし。何より・・・・・・」 さり気なく立ち上がると、棚の上に隠しておいた箱をの膝へと乗せる。 「これは・・・・・・何ですか?」 「開けてみて。このまえ村の用事でウォードンに行った時に用意しておいたんだ。誕生日おめでとう、」 ジェイドの心遣いが嬉しく、また、今日という日を大切に思ってくれているのがもっと嬉しいの顔が綻ぶ。 「ありがとうございます!何だろう・・・重い・・・・・・」 そう大きな箱ではない。両手で持てるサイズにしては重いと感じる程度の箱。 「わ・・・靴ですね」 「うん。あんまり可愛いから、きっとに似合うと思って。どうかな?」 喜んでくれたのだから今日のデートに履いてくれるだろうと、の前に跪き靴を履かせる。 「思っていた通り・・・・・・今日の服にもピッタリだ」 「でも・・・・・・」 あんなに喜んでいた表情が曇りだす。 「・・・どうかした?」 「歩いたら汚れちゃうからもったいない・・・・・・」 「何だ。そんなことならお安い御用だよ」 新しい靴を履いたを軽々と抱き上げ、そのまま出かけようとするジェイド。 これまたには不服らしく、真っ赤になって抗議をされる。 「だめです。これじゃデートじゃないもの。それに靴は帰ってから磨けばいいし、その・・・・・・二人で歩きませんか?」 ジェイドが仕方がないといった風にを下ろす。 「歩くだけ?」 「あの・・・手を繋いで。のんびり歩いていけばお昼前には着きますよ?こう見えて足は丈夫なんですから!」 任せろとでもいうようにが胸を叩く。 「手を繋いでなら・・・早速出かけようか。夕食は俺がとびきりの料理を用意するから。行くよ」 「はい!」 しっかり手を繋ぐと、二人の家を出る。 木漏れ日がさす道を抜け、人通りが多い道へと出れば、懐かしい風景が広がる。 「ここ・・・何回も通りましたよね。夕食会のお使いとか・・・オーブハンターのお仕事でも」 「そうだね。買い物楽しかったね」 レインが途中で逃げてしまったために、偶然にも二人きりで歩くようになってしまったことがある。 (ジェイドさんたら誰にでも優しくて。私、焼きもちやいたんだ・・・・・・) 困っている人を見ると放っておけないジェイドは、女性を助けたり子供にお菓子をあげたりと、とにかく忙しい。 気づけば何も話せないまま時間が過ぎていた。 寄り道ばかりするジェイドとのお使いは大変時間がかかり、先に戻っていたレインに心配された。 それ以来、二人きりでは外出させてもらえなくなった。 ジェイドの寄り道にが付き合わなくていいようにという心遣いだろうが、実は残念に思っていた。 そんな楽しく優しい仲間たちとは、陽だまり邸に遊びに行けばいつでも会える。 (みんな元気にしてるかしら?) 「!どうしたんだい?」 思い出し笑いをしているの鼻先を指でつつく。 「あっ、あの・・・・・・何でもないです。何でもないの!」 「そんなに慌てて否定しなくてもいいのにね?そういうの、思い出し笑いっていうんだよ。知ってた?」 が考えていた事などお見通しだったらい。 悔しいので負けずに言い返す。 「ジェイドさんがテーブルの下にいたのを思い出していたところです。変なところで会いましたよね」 考えてみれば出会いはテーブルの下。テーブルクロスに遮られた空間。 「そうだったね。まあ・・・色々事情があったんだよ。一番はの笑顔に引き寄せられて」 「・・・色々な事情があったんですよね?」 エルヴィンが二人を無視してその場を離れる。付き合いきれないといった風情の後姿がいかにもだ。 「こ〜ら!誤解だって説明したよね?」 「そうでしたっけ?あのテーブルの下でしたよね〜」 オープンカフェが道を挟んですぐのところまでやって来た。 がそのテーブルに座りたいために走り出す。 「あそこでお茶にしましょう?」 「もちろんそのつもりだよ」 あっさりを追い抜くと、そのまま場所をキープするジェイド。 程なくテーブルに注文をとりにウエイトレスが来た。 「うふふ。これ、食べてみたかったんです」 ハイティーのように小さな軽食が並ぶプレート。スイーツだけではなく、点心まで並んでいる。 「これは可愛いね。今度、家でもしてみようか」 「はい!二人で作りましょう」 楽しくあれこれおしゃべりをしていると、近づいてくる女性がいた。 「ジェイドさん!この前はありがとう」 「こんにちは。足の具合はどう?」 「おかげさまですっかり良くなったわ」 その場でくるりと回ってみせるその女性は、よりいくぶん年上で美しかった。 「そちらは?」 「そう、そう。紹介が遅れてしまったね。俺の一番大切で可愛い奥さんなんだ。・・・」 軽く頭を下げて挨拶をする。 その女性はをジェイドの妹と思っていたのだろう。両目を見開いて驚いていた。 「今日はの誕生日だから、二人が出会ったこの街でデートしているんだ」 ジェイドにしては珍しく、相手をさりげなくではあるが牽制している。 「そ、そうだったの。ごめんなさい、お邪魔してしまって」 挨拶もそこそこに立ち去っていく後姿を、何となく気まずい気持ちで見つめる。 (ジェイドさんにあんな風に言わせてしまったのは私の所為?) 「。あの人はこの前階段から落ちそうになってね?急いで助けたんだけど足を挫いてしまって」 「あの・・・私・・・・・・」 再び二人の会話を遮る影。 「お兄ちゃん!」 「ジェイドお兄ちゃん!!!」 幼い兄弟らしき子供が二人、ジェイドの側へやって来た。 「おや?今日もお母さんのお使いかな?」 「そうだけど違うの!」 小さな女の子の方が嬉しそうに飛び跳ねながら返事をする。 「今日は一緒なんだよ。お兄ちゃんを見つけたって言ったら、母さんが・・・・・・」 後から歩いてきた婦人が二人の母親なのだろう。 その腕に抱いているのはもっと小さな命。 「はじめまして。ジェイドさん・・・ですね?いつもこの子達がお世話になって」 「いいえ。俺が買い物をしている時によく会っただけですよ。いつもお使いをしていてえらいなって」 小さな子供たちにとって、メモだけを頼りに必要な物を購入するのは、時としては難しい事がある。 そのものを知らない場合もあるからだ。 半べそをかいていた男の子にジェイドが声をかけたのがきっかけで、いつも買い物で会うたびに話すようになった。 時にはお菓子のご褒美をあげたりしたのも、自分も緊張しているだろうに妹を気遣っているお兄ちゃんを立ててあげたくて。 「お兄ちゃん!その人がお兄ちゃんが言っていた大切なひと?」 突然女の子に指を指されてしまった。 「キャシー!そういうお行儀の悪い事をしてはだめよ」 「大丈夫です。その・・・ジェイドさんが何て?」 子供相手に何ではあるが尋ねてみたい。 キャシーと呼ばれているその女の子も嬉しいのか、の耳元へ秘密を打ち明けるように囁く。 「たのむよキャシー・・・秘密だって言っただろう?」 「だめだなぁ、ジェイド兄ちゃん。俺とは男の約束をしたけど、キャシーとはしてないよ?」 意外な人物からの証言により、ジェイドは自分の落ち度に気づく。 「トム。その時に言ってくれよ。もう聞かれちゃったな」 の表情からして、ジェイドが秘密にしていたことは秘密でなくなってしまったようだ。 「ジェイドさん」 「うん。家に帰ったら・・・食べてくれるよね?」 「はい!」 何日も前からの誕生日のケーキに頭を悩ませていたジェイド。 週に三日だけ勤めているケーキ屋さんで、試作品を作っては子供たちを集めて試食をしてもらっていた。 前から準備を始めていたことが、まんまと知られてしまった。 どこか気恥ずかしいが、これはこれでいいのだとを見ていると思えることができた。 試作品について子供たちに嬉しいそうに尋ねている。 子供たちも身振り手振りで話をしていて楽しそうだ。 (の魔法だな・・・・・・子供たちがすぐに懐いてしまって) すぐに子供たちに囲まれてしまう。 彼女の纏う空気が柔らかくあたたかいからなのだろう。 「ふぎゃあ」 「あらあら。大変」 泣き出してしまった赤ちゃんをあやす母親。 が手を伸ばす。 「抱かせてもらってもいいですか」 「大変よ?しかも、ご機嫌ななめになってしまったみたい」 ところが、が抱き上げるとぴたりと泣き止む。 「可愛い〜〜〜」 すっかり赤ちゃんに夢中になってしまった。キャシーも加わりその輪は広がる。 「男は大変だよな、ジェイド兄ちゃん」 「トム。君は行かなくていいのかい」 「いいの、いいの。それより、俺・・・ジェイド兄ちゃんに謝らなきゃ」 ジェイドと二人になれる機会を窺っていたのだろう。 トムが謝る内容について話そうとすると─── 「トムは悪くないから心配するな?トムはオレたちの質問に答えただけだからな」 ジェイドに向かって指でピストルを撃つ仕種をしてみせるレイン。 「みんな。どうしたんだい?今日はみんなで買い物とか?」 「おや、おや。今日という日に我々をご招待していただけないとは。こちらから押しかけてしまいましたよ」 「そうだ。昼食ぐらいは仲間に入れて欲しいものだな」 の誕生日については誰もが知っている。 パーティーを開く準備をしようと思ったが、ジェイドから何も言われないので準備も出来ないでいた。 偶然街でジェイドと話をしている男の子、トムを見かけたレインが後から探りをいれたのだ。 『二人でパーティーするためのケーキの試食ってわけか』 『うん。とっても大切な人のお誕生日なんだって』 二人の邪魔をするのは無粋だが、何も出来ないのは寂しすぎる。 お昼に割り込みをしようと街で待ち構えていた。 そうして二人を眺めて程よいところで登場しようとしていた時に、女性が先にジェイドに声をかけてしまった。 よって、しばらく様子を見る事にして今に至る。 仲間たちがきても赤ちゃんに夢中の。 「!」 「レイン!どうしたの?ニクスさんにヒュウガさんまで!」 名前を呼ばれてようやく仲間の存在に気づいたらしい。 「どうしたって・・・まあ説明するのも面倒だ。いいからあれで行くぞ」 レインが指差す先にはクルーザーがある。 「・・・行くって、どこへ?」 「お前たちの家。こうなったら邪魔してやる。ジェイドのケーキを食うまで帰らない」 の手首を掴むと、最初に港へ駆け出すレイン。 「若者はせっかちでいけませんね。マダム、失礼いたしました。こちらの子供たちに・・・祝福を」 用意していたキャンディーを親子へ手渡すと、ニクスは歩いて港へ向かう。 「これからは・・・先に連絡ぐらいは寄越すんだな」 「そうするよ。まったく・・・・・・俺の計画が台無しだよ!もちろん食材の買出しは済んでいるんだろうね?」 と二人きりと考えていたのだ。 とてもじゃないが仲間の分の食材はない。 「ああ。先に船に積んである。俺も手伝うから心配するな。それに・・・・・・」 「ケーキだけは俺が作るよ。何度も何度も考えてようやく出来たんだから。とびきりのスイーツでお祝いをするって決めてたのさ!」 子供たちの頭を軽く撫でると、一気に走り出す。 ヒュウガは親子に恭しく礼をとり、背を向けると同時に仲間を追いかける。 商都ファリアンを駆け抜けるオーブハンターたち。 先にクルーザーに乗っていたエルヴィンは、特等席でお昼寝タイム。 穏やかな午後を仲間たちと過ごす。 とっておきのお茶でクルーズをしながら、ジェイドとの家を目指した。 「ニクスさんのお家と違って狭いですからね?」 「普通だって。ニクスの家がバカ広いんだ」 「お口が悪いですよ、レイン君」 いつも通りの会話。一ヶ月ぶりだというのに、まったく時間を感じさせない絆。 「。家に着いたら荷物を降ろさせてもらう」 「荷物って・・・・・・あれですか?!」 クルーザーの後方には巨大な箱。ヒュウガが手で示したのはそれ以外に存在しない。 「ささやかなプレゼントですよ。我々にもお祝いをさせてくれますね?」 箱の中の贈り物は服にした。荷物が大きくなってしまったのは、タンスもセットのため。 考えに考えた結果、贈り物が増量してしまった。 「・・・お家に入るのかしら?」 の背よりも大きな箱。その中味はまだ本人には秘密。 そして─── 「村の様子が変なんだけれど・・・・・・」 海岸が見えてきた頃、いつもと浜辺が違っている。 ジェイドにはそれが何であるか見える。残念ながら仲間だけというのも出来そうにない。 「出し抜いたつもりが、振り出しに戻ってしまったようですね」 「・・・・・・まるで祭りだな」 を祝いたいと思うのは仲間たちだけではなかったらしい。 村中で二人が出かけた後に準備を始めていた。 浜では既に食事の用意が整えられつつある。 「お誕生日おめでとう、。予定が大幅に狂いそうだけれど」 「すっごく嬉しいです。そういえば村を出る時、静かだなって思ったんです。子供たち、いなかったですよね」 誰もがサプライズを狙っていたの誕生日。 こっそり村長が招待状を送っていた人物も浜辺にいた。 「やられた・・・ベルナールまで来ているよ。村長には叶わないな」 「うふふ。私のお誕生日じゃなくてお祭みたい」 まだ遠い浜辺を眺めながら、が微笑んでいる。 「おまじない・・・しようか?」 「はい」 幸せ、幸せ、幸せ─── これまでも。これからも。 |
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遅ればせながらお誕生日のプレゼントでございます! 駆け込みセーフと信じたい!!! お誕生日おめでとうございます!七海様 ![]() |